みそ文

しやくしょ

まだ大阪に住んでいたころ。

同じ社宅に住む仲良しさんと、何かの用事で市役所に出かけた。車を運転してくれた「ひららちゃん」と助手席に私、そして後部座席には「なるみちゃん」とその第一子「ぴろろ(男子)」。

当時のぴろろは、たしか一歳よりも少しだけ大きいくらいで、歩いたり走ったりし始めたのはずいぶん早く、小さい割りには足捌きの上手な子であった。けれど、なるみちゃんとしては、ぴろろが同月齢の他の子たちに比べると、「言葉」の発達面において、少しばかり遅れをとっているような、ちょっとした焦りのような、もどかしいような気持ちが、ほんのちょびっとだけあるような、そんな時期でもあったと思う。けれどその「遅れ」は、なるみちゃん以外の人にはまったく感じられないほどの、ごくわずかな、微々たるもので、実際のところは、十分に「成長の個人差」の範囲内で、なんの遅れも、なんの問題も、なかったとおもう。

そんな四人での車中。市役所の駐車場に着いて、なるみちゃんが言う。「ぴろろ。ここは市役所よ。しやくしょ。し・や・く・しょ。ほら、ぴろろ、言ってごらん」

ぴろろは嬉しそうに「あんぱっ、あんぱんっ、あんぱんまん!」と声を出す。

わあ。上手に元気よく「あんぱんまん」って言えたねえ。と私が言おうと思ったところに、なるみちゃんが諭すように言う。
「ぴろちゃん。ちがうでしょ。あんぱんまんじゃなくて、しやくしょ、よ。し・や・く・しょ」
「あんぱ、あんぱ、あんぱんっ!」
「もうー、ぴろちゃんー、ちがうー。あんぱんじゃなくて、市役所よー」

ここでたまらず、ひららちゃんが言う。「なるみちゃんー。そんなん無理やってー。いきなり市役所は難しすぎるってー。もうちょっと簡単な発音のものにしたりーなー」

「えー、そうかなー。難しいかなー」と、なるみちゃん、ちょびっとだけ考えて、「じゃあ、ぴろろ。河内長野市役所の、かわちながの、言ってごらん。か・わ・ち・な・が・の」

なるみちゃん。難易度上げ過ぎ。一歳児にはもっと無理。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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