みそ文

結婚式のお菓子

 先週の日曜日に職場の同僚が結婚式を挙げた。彼女は今年21歳の医療事務で医療事務の専門学校在学中に実務研修という形で私達の職場に来た。そして卒業後そのまま入社。結婚相手の方は4年おつきあいしてきたひとだというから学生時代もしかすると高校生だった頃からの恋人なのかもしれない。

 彼女の結婚式に列席した薬局長が祝日あけの火曜日に「引き出物でいっぱいもらったからおすそ分け」と小さな個包装のおまんじゅうとスイートポテトを職場で配ってくれた。火曜日の夕方閉店後に翌日配達用の薬を調剤する前の血糖値補給に私がいただいたおまんじゅうは皮がしっとりもっちりとしていて餡までもちもちとした上品な味と食感のそれはおいしいおまんじゅうだった。

 このおまんじゅうは医療事務さん本人の好きなおまんじゅうなのかしら、それとも結婚相手の方の好みなのかな、あるいはどちらかの親御さんのセンスだろうか、まだ20歳そこそこなのにこんなふうに品物をえらんで用意して挙式できるなんてえらいねえ、と感心する。彼女がまだ20歳ちょっとということは親御さんだって私とそう年のちがわない同年代かちょっと年上くらいの方たちだろうにこういう品をセンスよくきちんと選んで我が子の挙式にあたれるなんてえらいなあ、とも思う。しかし彼女が20歳すぎということは彼女のおじいちゃんおばあちゃんもまだまだお若いはずで、ということは結婚式における各種作法についても求められればいくらでも口を出して指南してやれる立場でおられるのかもしれない。

 私がおまんじゅうをいただいたときに一緒にシフトに入っていた別の医療事務さんはスイートポテトをもらった。というよりはスイートポテトとおまんじゅう1個ずつを「ふたりで好きなのを選んで分けて」ともらったときにその医療事務さんが「どうぞ先に選んでください」と言うから「いつも私がチョコやチーズが食べられないからって洋菓子は優先的に選ばせてくださるので和菓子のときはどうぞお先に選んでください、これは私どっちでもいけます」と言うと「いやいや、お願いですから先に選んでください、私選ぶの苦手なんです、どっちにしようか迷い過ぎて疲れ果ててしまうんです、私はどっちも好きで食べられるものなのでどっちでもうれしいから、先に選んでー」と言われて、じゃあお言葉に甘えますと言いどっちにしようかなとちょっとだけ迷ったあと「ではこちらをください」とおまんじゅうをいただいた。

 私におまんじゅうを選ばせてくれた医療事務さんが翌日「昨日もらったスイートポテトめっちゃおいしかったんですよう」と仕事からの帰り道で話す。「わあ、そうなんですか、よかったですね、私がいただいたおまんじゅうもたいそうおいしかったです」と言うともうひとりの別の医療事務さんが「私がいただいたのもおまんじゅうでした、たしかにあれはおいしかった」と続ける。スイートポテトを食べた医療事務さんは「昨日仕事が終わって家に帰る前にお腹が空いて我慢できなくなって制服のポケットに入れてたスイートポテトを取り出して車の中で食べたんですね、うわなにこれおいしいスイートポテトー、とすっごく満足して、昨日はドラッグストアとかいろいろ寄って買い物しないといけない用事があったけどおいしいスイートポテトのおかげでちゃきちゃきと用事を済ませてうちに帰って手を洗うときに洗面台の鏡をふと見たら口の周りにスイートポテトのかけらがポロポロパホパホいっぱいついてて口の周りぐるっと泥棒の髭みたいについてて明らかに『あなた何か食べてきましたね』状態で、ドラッグストアでもスーパーでもレジのひとも誰もなんにも言わなかったけどきっと対面している間『うわ、このひと口の周りになんかいっぱいつけてる』って思っただろうなあと思ってひとりでうわーーーってなって」と言う。
 それを聞いた私達は口々に「うわーっ、それはー」とおののき、薬局長は「いったいどんな食べ方したらそうなるの? それ、さいあくやん」と言い、おまんじゅうをもらった医療事務さんは「ドラッグストアのひととか、ぜったい気づいてますよね」と言い、私は「お店のひと、教えてあげようか黙っとこうかどうしようどうしようと思いながら黙ってることにしたんでしょうねえ」と言う。
 スイートポテトの医療事務さんは「昼間なら車を出る前にささっと鏡を見て確認するのに、夜は暗くて見えないからってそのままにしたのがまずかった、見えなくても念のためにせめて口元を手で払うかティッシュで拭いておいたらよかった」と反省する。

 結婚した医療事務さんは医療事務や調剤助手としての仕事はとてもよくでき患者さんが少々なにかイレギュラーなことを言ってきても落ち着いて対処できて皆彼女ことを頼もしく思っているのだけれど、入社間もない頃は薬局業務そのものではない業務たとえば環境を快適に保つために灯油ファンヒーターに灯油を補給するであるとか洗い場のシンクの下水管に漂白剤を入れてしばらくつけ置きしそれを流したあとでシンクと排水口を掃除するなどの作業をお願いしたときに彼女は「はい」とすぐに取り組んでくれるのだけどファンヒーター内蔵の灯油タンクを取り出して持っていくのではなく灯油置き場の灯油がなみなみと入っているポリタンクを「お、重い…」と言いながら運んできてファンヒーターの横で給油しようとするなど『ああ、そうか、おうちではおとながやってくれるからこういう作業をすることがなかったのね、学校でも習わないよね、こういう作業をするのは今回が生まれて初めてなのね』と思うことがありその都度誰かが「これはこうやってするんやよ」と教えると「ああ、そうか、そうなんですね」と素直に瞬時にやり方をおぼえて今ではなんでもこなしてくれるようになりいつでも安心して任せられるようになった。
 そういう出来事があるたびに彼女よりも少し年下の子を持つ親である同僚は「そうやんなあ、考えてみたらうちの子もまだ自分で灯油入れたことないしシンクや排水管の掃除もさせたことないわ、今のうちからやらせといたほうがいいんやねえ」と言い彼女よりも少し年上の子を持つ親である同僚は「そういえばたぶんうちの子にもそういう仕事をさせたことがないままだったけどうちの子は会社に入ってそういうのちゃんとできたんやろうか、会社で教えてもらったときにこんなふうに素直に習えてたらいいけどどうだったんだろう」と言い、私にもしも子がいれば彼女と同じくらいの年の子がいてもおかしくないと思うとその子を彼女のように働き者で仕事が早く気が利く素直な子に育てることができただろうかと思い、皆がそれぞれにその医療事務さんのことは我が娘ではないけれどなんとなく娘を思うような気持ちで見守ってきたこともあり、そんな各自の感慨と慈しみの気持ちをこめて彼女の結婚を寿ぐのであった。     押し葉

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

ときどき、思い出したように、いただいたメッセージへのお礼やお返事をリンク先の「みそ語り」に書いています。よろしければ、いつでも、どうぞ、どなたでも、ご覧ください。「みそ語り」では、メッセージをくださった方のお名前は書いておりませんので、内容から、これは自分宛かしら、と推理推察しながら読んでいただければうれしいです。手の形の拍手ボタンからメッセージをくださる場合は五百文字以内、文字の方の押し葉ボタンからメッセージをくださる場合は千文字以内となっております。文字数制限なくお便りくださる場合には、下のメールフォームをご利用ください。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

最新記事

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (0)
暮らし (109)
仕事 (161)
家族 (300)
想 (23)
友 (47)
学習 (79)
旅 (16)
心身 (8)

FC2カウンター

検索フォーム

FC2Ad

Template by たけやん