みそ文

新義母電

 お盆に帰省したときに義実家の電話が新しくなっていた。「わぁ、おかあさん、電話新しゅうしちゃったんですね」と言うと義母が「あれ以来わたしゃあ電話恐怖症みたいになってしもうてから、あんまり怖うて仕方がないけん、かかってきた電話番号がわかる電話を買うてきたんよ」と言う。

 あれ以来のあれとは「詐欺顛末」の一連。「うんうん、おかあさん、わかるわかる。ああいうことがあったあとは恐ろしゅうなるもんじゃけん。電話機の便利な機能で済むことはどんどん利用して恐ろしゅうないようにちいとでも(少しでも)安心なようにしときましょう」と言う私に義母は「でもおとうさん(夫の父、義母にとっては配偶者)は『そがあな(そんな)電話機は要らん。これまでの電話(薄緑色のダイヤル式の電話)に戻せ』いうて言うてんじゃけど私が『とりあえず一年使うてみようや。それでやっぱり元の電話のほうがええいうことになったら戻そうや』言うて前の電話はほらここに置いてあるんよ」と言う。

 ああ、そういえば、十数年前に、ある対人的なトラブルにより私がナンバーディスプレイ機能はもちろんのことそれを元に着信拒否設定ができるような電話機を買い求めたときに当時の夫(今の夫と同一人物だが)は「そんなもの要らんやろう」とひどく拒んだことを思い出す。あのとき私は「どうやらくんには必要ないならどうやらくんはその機能を使わなければいいよ。私は自分に必要だと思うから自分で買って使うから」と言い張り着々と購入設置設定した。そういうときのそのへんのとっさの一言がここの父と息子はよく似ているのかしら。結局今は夫も我が家のナンバーディスプレイ機能には随分とお世話になっていて、自分が用事のある電話(家族や知人からの電話や用事のある業者さんからの連絡たとえば山用品屋さんからの「ご注文の品物が入荷しましたよ」のお知らせなど)なら出るがそうでなければ出ないというふうに便利に使っている。

 そういえば私がおしり洗浄機能付き便座を買うことにしたときにも夫は「そんなもん要らんやろう」と購入設置に否定的だった。今住むマンションの便座にはおしり洗浄機能は付いておらずその便座を取り外して自分で買ったおしり洗浄機能付き便座を設置することにしたとき。あのときも私は「うん、私はおしりを洗って気持よく過ごすけど、どうやらくんはこれまでどおり洗わず過ごしたらいいよ。おしり洗い機能を使いさえしなければこれまでの便座と同様に使えるから」と言って注文した。夫は「いや、あるんなら使う」と言いよどみ、設置(設置作業には夫も協力してくれた)後は便座を温める機能など私はまだ冷たいままでいいなと思う時期でも夫は積極的にスイッチを入れて利用している。

 話を電話に戻そう。息子の名を騙る詐欺電話があったあと義母は実家にほど近い小さな家電製品店(大手家電製品店の出張所のような店舗)で「電話番号が表示される電話をください」と言って買い求めたという。お店のひとはナンバーディスプレイ機能がついた電話をつなぐだけでなく、NTTにナンバーディスプレイの申し込みをして月々の利用料金が必要となることを説明してくれる。そのときその店舗にあるナンバーディスプレイ機能付きの電話機はFAX機能もついている一種類しかなく値段も親機子機のセットで一万円ほどだったが義母はすぐに購入して持ち帰りナンバーディスプレイの申し込み手続きをした。

 新しく購入したナンバーディスプレイ機能付き電話を義母がどのように利用しているのか訊くと、FAXは使う気がないから紙もなんにも入れておらず、ただただかかってきた電話番号を電話の前のメモ用紙に書き留めてから電話に出る、という。もちろんそれでもいいのだが、「おかあさん、この電話機じゃったら、安心して出ていい電話番号の人は名前を登録してその名前が表示されるようにできますよ」と言うと義母は「え、そんなことできるん? 携帯電話じゃなくて家の電話なのに?」と言う。「この電話の取り扱い説明書ってありますか」と問うと「捨てちゃあいけん思うてここに取ってある」と出してくれる。「おとうさんが勝手に捨てたらいけん思うて『捨てるな』いうてメモも書いて入れてある」とも。

 取扱説明書をめくりながら「おかあさん、この電話機はナンバーディスプレイの電話番号表示はもちろんしてくれますけど、もしもどうしてもおとうさんがナンバーディスプレイなんか要らんって言うちゃってナンバーディスプレイを解約したとしても、ここの、このボタンを押すと電話をかけてきた相手のひとに『名前を名乗ってください』いうて機械の声が伝えてくれるけん、それで相手のひとが『誰々です』いうて名乗っちゃってからこの人なら安心して出ましょうと思って出ることもできるんですよ」と言うと「ええっ、なにそれ、そんなものがあるん?」と驚く。「うん、おかあさん、この電話機はこの機能が売りでそのぶんいいお値段がする電話機じゃけん。受話器をあげんでも相手の声は聞こえますよ」と言うと、「そんなこと全然知らずに買うて使いようた」と義母は言う。

「おかあさん、あとね、このボタンを押して相手に名前を名乗ってもらったとして、知っとるひとならそのまま出りゃあええけど、全然知らんひとじゃったりこっちには必要のないセールスなんかのときにはこの『おことわり』いうボタンを押すと機械が『恐れ入りますがこの電話はおつなぎできません』いうて電話を切ってくれるんですよ」
「えええええっ、そんなことまでしてくれるん?」
「それかこっちの『ストップ』っていうボタンを押すとそのおことわりさえも流さずに受話器をあげんでもぶちっと電話を切ることもできるけど、それは相手にあんまり気の毒かなと思うてんようなら『おことわり』ボタンを押してあげたほうが相手の人に対してもじゃけどおかあさんのこころが穏やかかもしれんけん」
「あはははは、ほんまじゃねえ、そりゃそのほうがええねえ。でもこのへんの年寄りは短気なけん、電話機の機械の声で名前を名乗れじゃことのいうたら怒ってしまうひともおるかねえ」
「ああ、この家はまだおとうさんが散髪屋さんしようてじゃけん、お店に用事があってかけてきてんひともおってですもんねえ。おとうさんがお店をしようてん(しておられる)間はナンバーディスプレイされるようにしといて、市外局番市内局番がここの家と同じところからじゃったら町内のひとからだと思ってもしかしたらお店のお客さんかもしれん思うて出ちゃったらいいんじゃないですかねえ。市外局番が親戚筋や知り合い関係で心当たりのない番号だったり知らない携帯番号からのときには名前を名乗ってもらってからでもいいんじゃないでしょうか。それでもしも実はお店のお客さんからだったときには『最近詐欺電話が多くて往生しょうるんです』いうて説明したらわかってくれてじゃと思いますよ」
「ああ、そうか、それなら電話番号を全部書き写さんでも番号の最初のほうだけ見て町内か市内じゃいうてわかったら出てもええねえ」
「うん、おかあさん、電話番号書き写そうとしてメモしとってじゃけど、途中で力尽きて最後の4桁まで書けてないのが多いし」
「そうなんよ。しかしこの電話機に電話番号表示以外にそんな便利な機能がついとるとは、わたしゃあ全然知らんかったわ」
「せっかく一万円出して買うちゃったんじゃったらFAXは使わんにしてもこの『名を名乗れ』ボタンは活用したほうがええですよ。この機能は他の電話機にはなかなか付いてない機能じゃけん」
「わかった、機械が言うてくれるんなら自分で言わんでええけん気がらくなわ」
「ほうでしょ。それに機械がそういうて『名を名乗れ』いうて言うだけでも面倒くさがりのセールスや詐欺は退散する傾向があるらしいですよ」
「それはそうなんじゃろうねえ、それだけでも助かるねえ」
「じゃ、あとは、おかあさんの携帯電話に入ってる登録電話番号はこの新しい電話でも名前が表示されるように登録しときますね。これでたとえばえりりちゃん(夫の妹)からかかってきたらナンバーディスプレイのところに『えりり』いうて名前が出るけん電話番号の数字は表示されんけど名前の文字を見てこの電話には『名を名乗れボタン』は使わなくていいなって判断できるでしょ」
「ありゃあ、みそさんはそんなこともできるんね、すごいねぇ、ありがとありがと。番号じゃなしに名前が出るんならそっちのほうがなお安心じゃわ」
「いえいえ、私がすごいんじゃなくて電話がすごいんですけどね。あとこの電話は親機も子機もワンタッチボタンがあるけん、ワンタッチボタンの1番を押したらうちにかかるように、2番を押したらえりりちゃんにかかるように、3番を押したらおかあさんの携帯電話にかかるように設定しときますね」
「え、そんなこともできるん? 私の年寄り向けの携帯とおんなじじゃが」
「そうそう、おんなじです、おかあさんの携帯とおんなじ感覚でこのワンタッチボタンを使うちゃったらいちいち番号調べんでも電話番号の数字のボタンを全部押さんでも電話がかけられるけんらくなですよ。ではさっそく練習におかあさんの携帯にかけてみますよ」

 そうして義実家の新しい電話から義母の携帯に電話をかけ、今度は義母の携帯から義実家の電話にかけて『あんしん応答』ボタンを押したときに「迷惑電話対応モードになっています。お名前をおっしゃってください」と流れる音声がどんなふうに聞こえるのか、『おことわり』ボタンを押したときの「おそれいりますがこの電話はおつなぎできません」が実際にどんなふうに聞こえるのかを義母に体験してもらう。義母は電話機の音声のその失礼のない話しぶりが気に入ったようで「これならこのへんの年寄りでも怒っちゃあないかもしれん」と言う。

 その後メモ用紙に「あんしん応答ボタン」と「おことわりボタン」の使い方、ワンタッチボタンの使い方を大きめの濃い文字で書き「使い方はどうだったかな、取扱説明書を開くのは面倒くさいな、というときにはとりあえずこのメモを見ながらやってみてください」と一通り復習するような流れで義母に電話機のボタンを触ってもらいながら説明し、そのメモを取扱説明書が入っているビニール袋に入れる。義母が実際にこれらの便利機能を使うかどうかはわからないけれど、私の立場で、年に一回の帰省の限られた滞在時間内に、できるだけのことはしたよね、これでもまだまた義両親が(主に義母が)詐欺電話で難儀するようなことがあれば次の対策を考えよう。しかしナンバーディスプレイ電話機を息子夫婦(夫と私)や娘(えりりちゃん)が買い与える前に自分で買ってきて設置したおかあさんえらい。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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