みそ文

詐欺顛末

 日曜日の夜、私の携帯電話が鳴る。義母の携帯からだ。「はい、みそです、こんばんは」と電話に出る。義母は「息子(名前で)は熱を出して寝とるん?」と言う。夫ならこたつに入ってパソコンで遊んでいるけれどおかあさんはいったい何を言っているのかしらと思いつつ「熱は、出てないですねえ。今日も元気に山に登りに行ってきちゃったですよ」と言う。義母は「ありゃあ、じゃあ、さっきの電話はどういうことじゃろうか」と言う。義母の説明によると夫の名前を名乗る人物から義母の携帯電話に電話がかかり「インフルエンザにかかって熱が出て寝込んでいるんだけど携帯番号が変わったから知らせようと思って」という話があり、義母は息子の声とはちがうなとは思ったもののインフルエンザで喉がやられていればそういう声になるかもしれないと思い「大丈夫なんね?薬は飲んだん?病院には行ったん?」とふつうに会話し「気をつけんさいよ、だいじにしんさいよ」と電話を切ったあと義父と「そんなにひどいなら救急車を呼んでやったほうがいいのではないか」と話し合ったところで、ふと、いや待て、これはみそさんに確認してみよう、ということになり電話をしてきたのだという。

 救急車を呼ぶといっても広島で119番に電話して北陸の救急車の手配が果たして可能なのだろうか、息子を名乗る人物からの電話に関する確認を実の息子ではなく嫁にするのはなぜなのか、など気になる点はいくつかありはするとはいえ、とりあえず確認してみようと思いついたおかあさんそれだけでえらいえらいと内心で褒め称える。

 夫と電話を代わり、夫が「おれは元気。携帯番号も変えてない。その電話はそうやって電話番号を知らせてその番号が息子だと思わせておいて後日事故をしたからとか入院するからとか警察に捕まりそうだからとか言ってきてお金を要求してくるのが手口じゃけん、その番号からの電話にはもう出ないようにするか着信拒否設定したほうがいいけどやり方がわからんかったらえりり(夫の妹)に訊いたらええけん」と説明すると義母は安心したようす。

 夫と義母が話している間に私は義妹にメールを書いて送る。今義母から聞いたことと夫が説明したこととこのあと義母からえりりちゃんのところに相談があったらそういうことだからよろしく、と。夫が電話を切ってしばらくすると義妹からメールが入る。「いまおかあちゃんから電話があったよ。明日休みじゃけん早速行って拒否設定してきます。かかってきた番号は警察にも届けておく」とのこと。

 義妹は翌日の午前中には最寄りの警察署に立ち寄りこういう場合にはどのように対処したらよいかの指南を受けてから義母のもとへ向かう。義妹がそんなに素早く動いてくれたのは義妹のフットワークが軽いからというのもあるが彼女としては離婚した元配偶者が犯人の可能性もあると思うところがあるからのようだった。たしかに義妹の元配偶者は金銭トラブルが多くそれが離婚の主な原因だったとは言えるし義母の携帯電話番号という義母本人でさえ知らない電話番号(義母は自分の携帯電話番号をどうすればディスプレイに表示できるかも知らない)を電話帳登録などなんらかの形で知っている人物はごく限られており義母の携帯番号だけでなく夫の名前も併せて知っている人物となるとさらに限られてくる。その点と義妹の婚姻中義母の携帯電話が今の番号だった(義妹の元配偶者も義母の携帯電話番号を彼の携帯電話に登録していた時期がある)ことを考え合わせると義妹の元配偶者が実行犯ではないにしても情報流出源かもしれないと疑いたくなる気持ちはわからなくはない。

 義妹は義母の携帯電話に「登録電話番号以外着信拒否」という設定をしてくれた。これで義母の携帯電話番号宛に電話をかけることができるのは義妹と私達夫婦と義母の姉(夫と義妹にとっては伯母)と義妹の息子たちふたり(義母にとっては孫)のみ。義母の携帯電話はもともと義妹が義母に連絡を取りやすくするために契約して義母に持ってもらっているもので料金を支払っているのも義妹だ。だから義母も身内と通話する以外にその携帯電話を使うことはなく身内以外の人に電話をかけるときは自宅の一般電話を用いる。

 電話で詐欺を働く場合の脚本は子の健康を案じる親心と子から電話がかかってくると嬉しい親心に絶妙に付け込む構成になっているのだろうなあと感心する。そして娘からの電話ではなく「息子から母への電話」というところがこういう詐欺においては重要なポイントなのかもしれない。『オレオレ詐欺』というのは聞いたことがあっても『アタシだけど詐欺』というのはあまり聞かない。「母親としては娘ももちろんかわいいけど息子は…かわいんですよう」と娘と息子をひとりずつ持つ同僚が言っていたのを思い出すとなおのことそんな気がしてくる。

 義妹は「電話は『オレオレ』とかかってきたのにおかあちゃんが勝手におにいちゃんだと思い込んでおにいちゃんの名前を口走って相手に名前がばれたんかもしれんけんそのへんの詳しいことも確認してみる」と言っていたが確認した結果詐欺は最初から夫の名前を名乗ったとそれはたしかだと義母が言うというので今回のケースはそうであったのだろう。しかし夫は実家に電話をするときにまず名前を名乗らない。『電話をかけたらまず名を名乗る教』の信者である私としては夫にもしつこく布教を続けているが布教の甲斐はほぼまったくなく夫は実家に電話をかけても『オレオレ』とすら言わずいきなり用件を話し始める。そのことを鑑みると律儀に名を名乗って電話をかけてくるというところからして息子としてそもそも怪しいよねお義母さんという気持ちになる。

 今回は義母が『とりあえずみそさんに確認してみよう』と思いついてくれたおかげでその後の金銭要求にまで至ることなく済んだが、その後の一連の流れで『あの家は年寄りの二人暮らしだけどすぐに子どもが出てきて警察に届けたり着信拒否したりするから詐欺のカモとしては不適切』だという情報を詐欺業界でぜひとも周知徹底し詐欺対象リストから激しく外してもらいたい。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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