みそ文

山小屋の快適

 先週末夫がとある山に行った。お盆明けに一度行ったもののあまりにガスが濃く登頂を断念し帰ってきた山だ。お盆明けのときには一日目に別の山に登り、その後山小屋に逗留、翌朝その山小屋を基点としてもうひとつの山に登る予定だった。そのときその山小屋には多くの登山客が集い大混雑、布団は三人で一枚という状況。この三人というのは家族でも知り合いでもない当日その場でたまたま会っただけのひとで完全なる赤の他人。中にはグループ登山のひとたちもいてそういうひとたちの場合はその三人が同じクループの同性メンバーになるということはまあある。しかし夫のように単独で山に登るひとはこういう場合の同衾相手は必ず見知らぬ他人になる。その日基本的には三人で一枚の布団利用の中、夫が配置されたのは天井の低い屋根裏スペースで立って歩くことができないわけありな場所だったため布団は特別優遇(?)で四人で三枚とされ布団スペースは三人で一枚のひとたちに比べれば少し広かった。
 その日はどのお客さんも山のガスによる霧雨を浴びているから着ていた雨具を室内に干すのと山のガスで湿気た人体からの湿度もありかといって自由に換気できるわけでない山小屋は息苦しかったと夫は語る。このときの遠征から戻ってきた夫は「今回泊まった山小屋はこれまで泊まった山小屋の中でよくないほうの三本の指に入る」と言う。ちなみに今のところ夫の中で最もよくない山小屋として認定されているのは富士山の山小屋だそうだ。夫にとっての「よくない」は「混んでいる」と同義で施設が清潔かどうかや食事の美味しさはそれほど重要視されない、とはいえきれいならきれいなほうがうれしいしおいしければおいしいほうがよいのはそれはそう。

 しかし先週末どうしてもお盆に断念したその山に登っておきたかった夫は再びその山小屋に泊まった。暦がひと月過ぎたからなのか山の空気は八月の時よりさらりからりと爽やかでなによりも宿泊するお客さんの数が劇的に少ない。そして今回はわけありの屋根裏ではなく立って歩いて動ける空間に滞在できなおかつちゃんと一人につき一枚の布団で泊まれた。このとき夫がデジタルカメラで撮影してきた写真を見ると山小屋の食事の内容が八月に泊まった時のメニューと酷似している。

「どうやらくん、この夕ごはんの写真、前回行ったときのメニューと似てるね」
「似てるというか、たぶん全くおんなじなんちゃうかな」
「やっぱりそうなんや。なんかすごいデジャヴ」
「いやあ、やっぱり布団がひとりにつきちゃんと一枚あるといいなあ。同じメニューの食事でも前回とは別のご飯に思えるくらいずっとぐっとおいしく感じたもん。ほんとに同じ山小屋とは思えんくらい快適だった」

 前回は登頂を断念する少し前に吹き荒ぶ山風の中で誰かに撮影してもらった夫の写真があまりにぴいぷう吹く風と霧雨に耐えていますというなんというかしわくちゃな表情と姿勢でなんだか塩昆布みたいだと思ったものだが、今回また同じ場所で撮影してもらった写真の夫はしっかりしゃんとしていた。夫に「わあ、このまえとはちがって今回は顔も姿勢もしっかりしたひとだ」と言うと夫は「このまえがあんまりじゃったけん、今回は写るときにちょっと気をつけた」と言う。

 夫が無理せず撤退するべきときには撤退し、安全にたのしそうにときに山小屋はあまり快適ではないとしてもこの夏この秋百名山の四十何個目だかを順次着実に制覇しているのはなにより。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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