みそ文

お気に入りの大臣は

 患者さんに薬の説明をしているときのこと。その患者さんは女性で年の頃は三十代後半か四十歳前後というところだろうか。私の説明をよく理解しながら聞いてくださっている風情はあるもののその患者さんの視線がちらちらと私の名札と私の背後の上の方に泳ぐ。私の苗字が少し珍しい苗字であるために患者さんによっては「初めて見た名前だけど、いったいどこから来たひとなの? もともとこのへんのひとではないよね?」と問うてこられることはときどきあるのでこの患者さんもそれでかなと思いながら薬の説明を終える。そこでその患者さんが「薬剤師免許証の厚生大臣、大内啓伍さんなんですね」と言われる。名札で私の名前を見たあと薬局の壁にかけてある勤務薬剤師の免許証(のコピー)のうち私の名前のものを見てそうおっしゃった模様。

「ああ、はい、そうですね、このときの厚生大臣は大内さんだったんですね」
「いいなあ、いいなあ、わたし大内啓伍さんのファンなんです」
「ええっ、そうなんですか、それでしたらこういう免許証も免許証としてだけでないそれ以外の価値がまた何かあるものなんでしょうか」
「わたし看護師なんですけど、最初に看護師免許とったときは厚生大臣が大内啓伍さんですごくうれしかったんです。そのあと結婚して苗字をかえたときにはもう厚生大臣が大内さんではなくて大内啓伍さんの名前が入ってない免許証になったのが残念で残念で」
「まあ、そうでらしたんですか」
「薬局とか何か医療関係の国家資格の免許証が掲示してあるところに行ったらそこの免許証の厚生大臣の名前をチェックして大内啓伍さんのがあったら『うわああい、大内啓伍さんのだー』って喜ぶんですけど、なかなかそんなになくて」
「厚生大臣はちょくちょく替わりますものねえ」

 ということはこの患者さんの場合は私の名札から薬剤師免許証に目を移したのではなくて、薬局内にかけてあるすべての薬剤師免許証の厚生大臣の名前をまず見てから大内啓伍さんのものがあればその免許証の薬剤師名を見て、それがたまたま私の名前で、どの薬剤師がこの名前のひとなんだろうと思っていたら目の前で薬の説明をしている薬剤師の名札がその名前だった、という流れだったのかもしれない。

 その患者さんが帰られてから、同僚の薬剤師が私に声をかけてくる。「なになに。今の患者さんとすごく話が盛り上がってたみたいですけど、なんの話だったんです?」

「なんかね、大内啓伍さんのファンの方らしくて、私の薬剤師免許証の厚生大臣が大内啓伍さんなのを見つけていいなあいいなあ、っておっしゃって」
「それは、また、なんというか、通な」
「ええ、今の患者さんナースさんらしくてですね、看護師資格を取ったときの厚生大臣が大内啓伍さんだったとかで思い入れがあるみたいなんです。ご結婚なさって免許証の姓の変更手続きしたときに厚生大臣名が大内啓伍さんではなくなったのが残念なんですって」
「ああー、それはわかる気がするかもー。わたしの最初の薬剤師免許証の厚生大臣は小泉純一郎さんだったんですよねえ、それが結婚で名前書き換えたときに変わってちょっと残念な気がしたような」

 この同僚は私より十歳前後年下だったように記憶しているのだけれども、私の最初の薬剤師免許証の厚生大臣も小泉純一郎さんだったことを思うと、あれ、あれ、いつのまにか彼女と同じ年代だったっけ、と思いそうになったところで、いやいやいや、厚生大臣はひとりの人が間をあけて何度か就任することがあるもんね、私が免許をとったときの厚生大臣は小泉純一郎さんだったけど、同僚が免許をとったときにも小泉純一郎さんが厚生大臣をしていたのでありましょう。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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