みそ文

羊羹の大きさ

 私の通勤用のバッグには一口羊羹が常に数個入っている。仕事中に『あー、血糖値が下がってるなー、エネルギー補給したほうがいいなー』と感じたときにバッグから取り出してつるりと一個食べる。

 普段は生協のカタログで見つけては買うようにしているのだが、ときどきなかなか生協カタログで一口羊羹に出会えないまま自分の手持ちの一口羊羹が尽きることがある。いつも行くスーパーでは思うような一口羊羹を扱っておらず、うーん、ないなあ、どうしよう、と考える。

 前回夏に同じように手持ちの一口羊羹が途切れたときには北海道に住む友人が標津羊羹の一口サイズのものを送ってきてくれてそれは水も糖(標津のビートが使われている)も清らかな澄んだ味でたいそうおいしく、勤務中に急いで食べるのはもったいなくて自宅でフウセンカズラをながめながらおいしい緑茶とともにちびちびといただく。夫は食卓にきちんと腰掛けて「いただきます」と両手を合わせてお行儀よく食べながら「これ、うまいな」と言う。職場に持って行き仕事の途中で食べた時にはその上品な味が体にもこころにもうれしくて『よし、このあとの仕事もがんばろっ』とすこやかで前向きな気持ちが整う。それは生協カタログで購入する一口羊羹のときよりも数ランク格上の気持ち。

 そして今回生協カタログで一口羊羹が見つからなくて、どうしようかなー、と考えた結果ネット通販を利用することにした。一口羊羹であっても羊羹としておいしいものが食べたい。なおかつ勤務中に手軽に開封して素早く食べられる構造のものがいい。商品説明とレビューを参考にしてよしこれを試してみようと選んだのは井村屋の「スポーツようかん」。パッケージのデザインがスポーツ飲食品なかんじで長距離を走るひとやスポーツ自転車に乗るひとや登山をするひとなどのいわゆるアスリートを対象にした商品のようだ。私はそれらのスポーツはしないが私にとっての仕事は体と頭のエクササイズであり職場という名のスポーツクラブに行ってお金をもらっているようなもので私は人生のアスリートといえばまあアスリートと言えるよねということにする。

 参考にしたレビューの中で私にとって決め手になったのは「思ったより小さい」という感想だった。ええ、ええ、小さめがいいの、仕事中にささっと一口で食べたいからぜひとも小さめを希望するわ、と期待して注文。しかし届いた実物を見た私の最初の感想は「思ったよりも大きい」だった。帰宅した夫にそう話すと夫は「まあ、大きいや小さいは個人の主観だからなあ」と言う。それはまあそうであるし、製品サイズは確認して買ったのだからまあいいのはいいのだけど、一口で食べるのは無理そうで、押し出すだけで食べられる「スポーツようかんプラス」のほうでがんばって二口、いったん手でくるりと包装をむいてから食べる「スポーツようかん」のほうは四口くらいはかかりそうなサイズ。

 思ったよりも大きかったので夫に「山に行く時によかったら持って行って食べてね」と勧める。自分の通勤バッグにも入れる。これまでの一口羊羹とちがってややずっしりと重みを感じる。羊羹としてはおいしい羊羹で押し出しタイプもむきむきタイプも両方とも薄く切って菓子器にのせて濃い目の緑茶といただいてもおいしい。スポーツ仕様ということで若干塩味があるが塩羊羹ほど塩塩しておらずほどよい加減。

 むかし大阪に住んでいた頃、私の実家から送られてきたでっぷりとした大きな羊羹があったのだがうちで夫とふたりではとうてい食べきれないから誰かに助けてもらおうと同じ社宅に暮らす仲良しの夫婦(全体的に食べっぷりが優れているひとたち)にお願いすることにした。私達が食べたいだけ切ってもらい残りは彼らに託してしまおうという計画だ。その家の主婦であるひららちゃんは「わーい、羊羹だー、ありがとー」と喜びつつおいしいお茶を用意して「みそさんはどれくらい食べる?」と羊羹と包丁を両手に持ってにっこりと尋ねてくれた。「んー、じゃあ、1センチくらい切ってください、お願いします」と私が言うとひららちゃんは「1センチを何個?」とさらに尋ねてくる。1センチを1個のつもりでそれ以外考えていなかった私は「え、えーと、1個ですが」と答える。ひららちゃんは「みそさん、そんな1センチ1個なんてあかんやん、2個はいかな、3個でもええで」とたたみかけてくる。私は「じゃ、じゃあ、1センチ2個でお願いします」と言う。続いて「どうやらくんにはどれだけ切っといたらいいんかな」と訊いてくれ「みそさんとおなじでいいんやね、じゃあ、1センチを2個ね」と切ったものをきれいにラップに包んでくれる。それから「かるるくんはどれくらい食べる?」とひららちゃんが彼女の夫に尋ねる。かるるくんは「ぼく、10センチ」と言う。はい? いま、なんて言いました? え? と私が脳内で彼の返答を反芻しているとひららちゃんが「わたしも10センチかな」と言いながら羊羹の包みを大きく開け始める。

「ひららちゃん、いま、ふたりとも10センチって言った?」
「うん、うちはいっつも羊羹はひとりそれくらい食べるで。みそさん1センチ2個でほんまえにええんか?」
「うん、うん、私は1センチ2個がいいの、それでもうそれ以上は許してください」
「みそさんとこはどうやらくんもみそさんもふたりともほんまに小食やなあ」
「いやいやいやいや、羊羹いうのはそんなにいっぺんにようけいは食べられんやろ」
「そうかー? 食べられるで。もっとようけいも食べられるで。なあ、かるるくん」
「うん、食べられる」
「はい、じゃ、かるるくん10センチね、私も10センチ、みそさんは1センチ2個ね。はいお茶どうぞ。いただきます」
「いただきます」
「いだたきます」

 私が1センチ2個の羊羹を十回に分けて口に運べるくらいのサイズに手元でさらに小さく切りつつ口に入れてはお茶を飲むそばで10センチの羊羹を食べるひららちゃんとかるるくんは羊羹をケーキのような一口サイズに手元で切りつつおいしそうに食べていた。

 昔からどうして羊羹はこんなに大きいのだろう、こんなに大きいと食べても食べても食べきれないではないか、羊羹はすっごく甘いからわりと長く保存ができてゆっくり食べればいいのはいいけど、それにしても大きくないか、と思っていたけれど、一回にひとり10センチくらいかそれ以上食べるとしたら、世の中の羊羹の大きさはそれほど大きすぎるわけではないんだなあ。スポーツようかんのレビューに「思ったより小さい」と書くひとはふつうの羊羹を食べるときには1回に10センチかそれ以上はぱくぱくと食べられるひとなんだわ、きっと。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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