みそ文

うちの中に誰かいる

 夫は昨夜「明日は白山だー」とそれはそれはたのしみにいろんな支度をして早く寝た。夫は白山には少し前にも行ったのだが、そのときにはあまりにも風が強く、ピッケルを地面に立ててしゃがみ風をやり過ごしてからの前進を試みたが風が弱まらず、このままでは登頂は危険と判断して引き返して帰ってきた。そのときにはまだ山へ至る道路が冬期閉鎖されていて車はその手前の駐車場に置き登山口まで1時間以上自動車通行閉鎖中の道路を歩かねばならなかった。しかし昨日からはその冬季閉鎖が解かれ、登山口間近の駐車場まで車で行けるようになった。その情報を得た夫はたいそう喜び、天気予報を入念にチェックし、持っていくべき荷物を用意して、にこやかに「おやすみっ」と手を振って布団に入った。

 今朝起きて外を見たら快晴。こんなによく晴れていたら、夫は今頃白山の登山道を満喫しまくっていることだろう、と空を仰ぐ。ベランダとサンルームの窓を大きく開け換気する。夫の寝床に近い障子が開けられていなかったから「もう、起きたら障子を開けて換気してから出かけてね、っていつも言ってあるのにまた閉めたままでー」と思いながら障子を大きく開ける。押入れのふすまをあけて押入れにも空気を通す。

 電気ケトルのお湯が湧いたら大きなマグカップ(妹夫婦がアメリカ旅行のおみやげに買ってきてくれたマグカップ、スターバックスのヴェンティ(Venti)サイズ590ml)に熱い紅茶を作り豆乳を注ぐ。毎朝の漢方薬とサプリメントを飲みひとごこちつく。パソコンで見たいところを眺めたら、冷蔵庫の野菜室に保管しているバナナを出してきて食べる。バナナをビニール袋に入れて冷蔵庫の野菜室に保存すればどんなに気温が高い季節でも毎日新鮮なバナナを食べることができる。冷蔵庫で保管したからといってバナナの皮はそれほど黒ずむわけでもなく多少黒ずんだとしても中の実の部分は弾力と風味を維持していておいしい。

 録画しておいた連続テレビ小説を見る。一回、二回、三回、途中気になるところは10秒戻しや一時停止のボタンを使ってまじまじと眺める。途中洗濯機に洗濯のお願いをしてまた戻ってきて、はあ、今日の連続テレビ小説もたのしいわねえ、とくつろぐ。いったんひと通り堪能して、あとはまた夜に仕事から帰ってきてからよく見ましょ、と思いテレビを消す。その静寂の中ふとおもむろに、隣の部屋から「ううーんんー」という声、寝起きの人が伸びをするときに出すような声が聞こえる。えっ、誰、なに、どうして、誰もいないはずのところからそんな声がするの。声は夫の声に似ているけど、この快晴で山に行った夫がうちにいるわけがないのに。

 そうっとふすまを開けて夫の寝床を見る。なんとなくこんもりともりあがっていて中に人体があるような風情が漂う。さっき窓や障子や押入れのふすまを開けた時にはひとの気配はなかったのだけど。さらにそうっと近づいて覗きこむ。パジャマを着た夫がいる。「えええええっ。いたの?」とだけ言ってまだ眠る夫を静かに放置し私は居間に戻る。しばらくすると夫が「おはよー」とパジャマ姿で出てくる。

「どうやらくん、お山は?」
「行った」
「行って、もう帰ってきたん?」
「朝4時頃に起きて、おー、星もきれいに見えるし、今日はいい天気だー、と思って、6時位には登り始められるように出発したんだけど、県境を越えてちょっとしたあたりで雨がポツポツ降ってきて、山を見たら雨雲に覆われていて、その雲がごーごー流れて動いていて、雲がこの早さで動くということは風が強いということで、そんな悪天候の中無理に行ってまた撤退するのは嫌やなあ、と思ってやめた。代わりに近場の他の山に登ろうかと思ったけど、その山にも雲がかかっていてそんなガスガスでなんにも見えないところに行ってもたのしくないけん帰ってきて寝た。白山はまた明日行く」
「そうなんだー、知らんかったけん、どうやらくんおらんと思ったけん、窓も障子も押し入れもがーがー開けたのに、よく起きんかったねえ」
「あー、まぶしいなー、とは思った」
「いると思っていないものが、というか、いないと思い込んでいるものがいると、なんかすごいびっくりするね」

 本日のお山をあきらめた夫は「日帰り温泉にでも行ってこよっかなー」と出かける支度をするから、「いやいや、まあ、そう急がなくても。もうじき洗濯物が出来上がるから一緒に連携プレーで干してから、それから出かけるのがいいよ」と提案する。夫は「そっか、じゃ、そうする。それまで百名山の録画見る」とテレビをつける。私が「ううん、ううん、そんなに無理して見なくても、テレビ消したままで他のことしてもいいんだよ」と言うが、夫は「ううん、全然無理じゃない、見たい」と言うから、百名山番組の画面はまあまあ好きでも音声部分があまり好みでない私は耳栓を装着する。

 しばらくすると洗濯機が「洗濯終わったよ」と教えてくれる。夫が洗濯物を洗濯カゴに入れて持ってくる。夫がベランダに出て私が中で洗濯カゴの中身をほぐし広げて夫に手渡す。夫はそれを物干しに干す。今日はよく洗濯物が乾きそう。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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