みそ文

ノドグロ、メギス、赤イカ

 北陸では珍しい快晴だから干せる限りの洗濯物を洗濯機で洗っては干す。昨日の夕方から急にぐっと涼しくなったから、ラグをフリースのものに敷き替える。昨日のうちにお日様で干しておいたこたつ布団を夫と協力してこたつにかける。つい先日まで今年はまだこたつ布団の設置は無理と思える暑さだったけど、昨日今日くらいの気温だとコタツそろそろあってもいいかもと感じる。

 家の中の片付けと冬支度を終えて隣県の魚食堂に出かける。二階の食堂は満席で少し待ってもらうようなんだけど、と一階の魚売り場の人が教えてくれる。順番待ちの紙に名前を書く。それから魚を選ぶ。のどぐろはもともと食べたいと思って来たから今日ものどぐろを選ぶ。お店の人に「どうする? お刺身?」と聞かれて「煮たのと、焼いたのと、味噌汁と」と答える。「じゃあ、頭を汁にして、胴体を一個は煮てもう一個は焼く?」「はい、そうしてください」

 夫が「オコゼの唐揚げ食べたいなあ」とショーケースのオコゼを見る。お店の人が「ごめん、今日は二階混み合ってて、オコゼを唐揚げにしようと思ったら、普段でも時間がかかるんだけど、今日は相当時間がかかると思うわ」と言われる。「そっか、じゃあ、今日はいいです。あ、メギスがある。メギスの塩茹で食べたいなあ」と夫が言い、私は「なに、それ、メギスを茹でるの?」と聞く。お店の人が「メギスの塩炒りね。おいしいよね」と言う。

 メギスはお皿に15匹くらいひと盛りになっている。夫が「でも、ノドグロ食べるのに、メギス、こんなにたくさんは食べられんなあ」と言うとお店の人が「食べたいだけ出してきてあげるよ」と言ってくださる。私が「じゃあ、私は二匹食べる」と言い、夫が「おれは四尾食べるかな。じゃあ六尾ください」と頼む。奥の冷蔵庫から大きめのメギスを六本トレイに載せて秤にかけて、ノドグロのトレイに一緒に置く。二階の食堂が開くまで一階で魚を見て待つ。二階からお客さんが降りてくる。もうそろそろ呼ばれるかなあ、と思いながら魚介類の観察をする。お店の人が「二階、お料理作って出すのも片付けるのも追いついてないみたいで、お客さんがおりてきてもまだもう少しかかるみたいで、すみませんね、もしあれやったら、ここ寒いし、外で日向ぼっこしてくれててもいいよ、順番来たら名前呼びに行くから」と案内してくださるが、「はい、魚見てます」と店内で過ごす。

 順番が来て二階にあがる。海が見える窓辺の席に座る。日本海にしては珍しく穏やかで見晴らしがよくて空が青い(空の色は灰色がかっているのが標準)。一階で買ったノドグロの調理方法は一階からメモがついてきているのでそれを確認。「頭は味噌汁に、身はひとつは煮て、もうひとつは焼いてください、味噌汁はひとつはネギなしでお願いします。メギスは塩茹でにしてください」とお願いする。お店の人が注文用紙のメギスのところに「塩炒り」と書く。

 夫が「なにか刺し身も食べたいなあ」と言って刺し身のメニューを見ていたからイカの刺し身を頼もうとしたのだが、お店の人が「イカのお刺身千円だけど、一階の赤イカも千円だったでしょ、お刺身だけだとけっこうな量があるけど、どうしましょう」と言う。二階で使うイカの刺し身用のイカも一階で見た赤イカと同じ赤イカだと言う。イカの体部だけで50cmくらいの大きさははあったから二人で食べきるのは無理かも、と諦めようかと思ったが、お店の人が「一階で赤イカ買ってもらったことにして、半分は刺し身にして、もう半分は天ぷらにしたらどうかな。目先が変わるとけっこう食べられるもんだし、天ぷらなら残ったらお持ち帰りにしてもらうこともできるよ」と提案してくださり、ではそれでお願いします、という形に。酸っぱいものも食べたいからともずくの酢の物も単品で注文する。普段ならばこんなにたくさんはとても食べられないけれども、夫が「今日はおれ山からおりて来たばっかりでたくさん食べられる身体になってるからたくさん食べるから」と言うのでいつもよりもたっぷりめに注文した。お店に来るまでの車中で夫が「あそこの食堂、ご飯おかわりできたよなあ。最初から大盛りにしてもらおうかあ」と言っていたから注文のときに「ご飯大盛りにしてもらう?」と聞いたが夫は「食べてから考える」と言い、お店の人が「あとからいくらでも何回でもおかわりできるから」と言う。

 最初にメギスの塩茹でが出てくる。夫が「レモンをかけて食べるとうまいんだ」と言いながら付属のレモンを絞ってくれる。「会社の忘年会とかで魚蟹民宿に泊まるじゃん、そのときの朝ごはんにときどきこのメギスの塩茹でが出てきて、これはうまいなあ、これだとメギスがいくらでも食べられるなあ、と思ってたんだけど、それ以外のところではメニューで見たことがないなあ」と夫が言うように私はこれまで一度もメギスの塩茹でを食べたことがないと思う。夫は「沖縄のマース(塩)煮に似てるかなあ」と言う。どれくらいの濃さの塩水で茹でてあるのかはよくわからないがほどよく塩味がして身がさっぱりと食べられておいしい。茹でてあるのにこの地域の人たちがこれを「塩炒り」と呼ぶ理由も謎だが、おいしいから不問とする。

 赤イカのお刺身は身もゲソもおいしいけれど夫が「テンペラのところが一番おいしい」と言う。イカのひらひらとした部分のことを「テンペラ」と呼ぶのか。たしかに他の部位よりもコリコリとしていて味が濃いかも。(後日追記。イカのひらひらとした部分は「エンペラ」と呼ぶようである)

 ノドグロ煮とノドグロ焼きは安定した官能の味。ノドグロの頭の味噌汁とご飯と漬物が一緒に運ばれてくる。もずく酢にはレモンの輪切りと生姜が乗る。赤イカの天ぷらは大きなお皿にたっぷりで「持って帰って夕ごはんのおかずにしたらいいね」と言いつつ食べる。夫がご飯をおかわりして「ああ、よく食べた」と食べ終えたときにも私はまだご飯と味噌汁をゆっくりと食べていて、天ぷらを天つゆにつけて食べた後、もずく酢のレモンと一緒に食べてみるとそのほうがおいしくて、この赤イカの天ぷらは酢で食べたほうがおいしいのかもともずく酢と一緒に食べるとさらにおいしいなと食べているうちにどんどん減り、夫が「これなら食べきれそうやなあ」と数切れ取って食べ青じそと生麩の天ぷらも食べたらお皿は空になった。

 ごちそうさまでした、と店を出て高速道路に乗って帰る。加速して走行車線に入る前も入るときもその後も何度も「ああ、おいしかったねえ」と感嘆する。お魚がおいしいお店はいろいろあるけれど、あのお店で特にノドグロを食べたあとは、脳内に分泌される脳内麻薬のようなものの種類が他の時とは違うのだろうか、ちゃんとまともに運転してはいるのだけど、なんというかこう「廃人」になりそうな陶酔感にまみれる。

 帰りにスーパーに立ち寄り食材の買い出しを行う。夫が「こういうお腹いっぱいのときに買い物すると無駄な買い物をしなくていいよね」と言う。私が「無駄な買い物をしないだけならいいけど、こういうお腹いっぱい状態で買い物をすると必要なものを買うのも忘れることがあるじゃろ。それは買い物として勝ち負けで言うと負けのような気がする」と言うと夫は「そうやなあ、それは無駄なものを買うよりも買い物としてはさらに負けかもしれんなあ」と言う。

 買い物を終えて帰宅して夫が「あ、りんごジュースを買うの忘れた」と言う。夫は日に何度かりんごジュースをグラスに注いで飲む。「りんごジュースなら冷蔵庫にまるまる一本あったよ」と私が言うと夫は「一本だけしかないじゃろ。たぶん一週間には足りん」と言う。「また、どうやらくんが仕事帰りに自分で買ってきてもいいし、そうだ、どてら(広島の実家)の父が荷物に入れて送ってくれてた青森のりんごジュースがあるじゃん。おいしいやつ」「あ、そうか、よかった」
 青森のおいしいりんごジュースは本当においしくてデイリーユースにはもったいない気がするけれど、青森のりんごジュースとしては、ここぞというときに「おいしいっ」としみじみと飲まれても、日々ちびちびと小さく「うまいな」と思いつつ飲まれても、どちらでも不満なく満足なのかもしれないなあ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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