みそ文

車中泊の快適

 夫は昨夜から槍ヶ岳に出かけた。仕事を終えて高速道路を走り登山口駐車場にて車中泊。今朝早くに登り始めて今日は槍ヶ岳山荘泊。「土曜日にお天気がよければ山頂まで行くかもしれないけど、土曜日の天気はいまいちっぽいから山頂は日曜日にするかも。あとはひたすらおりてくるだけ。日曜日の夕方に帰ってくる」ということだったから、今頃は山小屋で消灯時間を迎える頃だろうか。

 夫が前々回どこかの登山口駐車場で車中泊をしたときにはまだずいぶんと暑かった。蚊よけスプレー(私が旅行かばんに常備しているもの)を貸してほしいと言いそれを持って行きスプレーして寝たが「おかげで蚊には刺されんかったけど暑くて暑くて夜中に何度も目が覚めた」と言う。

「車の窓は少し開けて寝てるんでしょ。それでもそんなに暑いのかなあ。あんなに標高高いところで」
「ううん。車の窓は全部ぴっちり閉めて寝た」
「暑かったら窓を開けて涼しい空気を入れたらいいのではないかしら」
「蚊が入ってきたらいやじゃったけん」
「蚊よけスプレーしたんじゃろ。あのスプレーしとくと少々窓開けてても蚊が入ってこないすぐれものなんだよ」
「スプレーして念の為に窓も閉めて寝た」
「車の窓を閉めきって寝るとか私には無理だわあ。自分の熱気でどんどん暑くなって、自分の吐いた二酸化炭素でどんどん息苦しくなるじゃん」
「そうかあ。わかった。次は窓を少し開けて寝てみる」

 そんな話をしてしばらくして、夫はまた車中泊を伴う登山に出かけた。帰宅してから「このまえは暑かったのに、今回の車中泊はすっごく寒かった」と言う。

「たしかに、急に涼しくなったもんねえ。でも窓閉めてもずっと寒かったの?」
「ううん、今回はこのまえのみそきちどんさんのアドバイスに従って窓を少しずつ開けて寝た」
「ええと、窓を開けて寝てて寒かったら窓を閉めたらいいのではないかしら」
「それは無理。いったん窓を開けて寝たらもう朝起きるまでずっと『寒いよう寒いよう』と思いながらそのまま寝るしかない。開けて寝た窓を閉めようと思ったら起き上がってエンジンスイッチ入れて窓を開け閉めするスイッチを触らんといけんじゃん」
「そりゃあそうよ。登山に備えてぐっすり眠るためにはそれくらいしようよ」
「いいや、無理。いっぺん寝たら無理」
「ええ、じゃあ、この前みたいに暑いなあ、と思っても、寝てる最中に涼しくするために車中をちょっとだけ移動して窓を開けるのも無理ってこと?」
「うん。どっちにして寝るかはもう寝る時点で決めたら朝まで何があってもそのまま」
「どんなに寒くてもどんなに暑くても?」
「うん」
「難儀やねえ。私は寝ている最中でも自分の快適のためなら起きだして冷蔵庫開けて炭酸水出してコップに入れて飲むくらいのことは平気でするから、すぐ手が届く距離の窓の開閉をせずに暑いや寒いのを我慢したまま寝るほうが無理だわ」

 そうだった。そういえば、私達が大阪に住んでいた頃に早朝発生した大きな地震(阪神淡路大震災)のときに、私が揺れる天井と蛍光灯に怯えながら夫に「たいへん、地震」と声をかけてゆすって起こしても彼は起きなかったんだった。何度もしつこく夫をゆする私の肩を引き寄せて彼は寝ぼけたまま「よしよし、だいじょうぶだいじょうぶ、はい、お布団に入って」と促してそのまま眠り続けたんだった。これのどこが大丈夫なんじゃ、と思いながらうずくまっていたことを思い出す。結果的に私達は無事に生存しているけれども、あのときのあの揺れと振動と建物の亀裂音と食器が落ちて壊れる音を「だいじょうぶ」というかどうか。

 昨夜の登山口駐車場の気温と夫の車中睡眠環境設定はうまくいっただろうか。今日は山小屋で快適にひとりひとつのお布団に包まれているだろうか。

 職場の人と話したときに山岳保険の話になり、そういえば私は夫が山岳保険に入ったという話は聞いたけれども、保険証券のようななにか保険請求のときに必要な番号だとか必要な何かを見せてもらったことがないことに気づいた。それで山岳保険の保険請求時に必要なもの一式を出しておいてちょうだいと頼んだら「うん、わかった」と言ったきり夫はなかなかその書類を出さない。「保険の書類は?」ときくと「おれの部屋のどこかにあるはずなんだけどどこにいったか思い出せなくて」と言う。「保険の書類を妻に渡すまでは槍(槍ヶ岳)には行けんのんじゃけんね」と言うとまもなく「あったー。これこれ」と言って書類を持ってくる。

 保険請求時に記入する書類には私ではわからないことがいろいろとあり、これは本人に意識がない状態のときなどは救助に出向いてくれた人たちから教えてもらって書くことになるのかしら、と思う。「遭難発生日」「天候」「遭難場所:山域、山名、場所名、ルート名など」「遭難自己の発生状況:登山中、下山中、渡渉中、山スキー・ボード滑走中、山小屋内、とはん中、ほか」「遭難事故主原因:転倒、滑落、負傷、悪天候、道まよい、落石等、雪崩、発病、ほか」「ビバークの有無:なし、あり(何泊、場所どこにて)」「捜索救援を行った者:本人、同パーティー、付近登山者、山小屋関係者、ほか」などなど私にはほとんどどれも計り知れない内容を書類は延々と問い続ける。

 お山ではいつも元気で無事なのがいちばんいいにきまってるけれど、何かあったときのための備えももちろんたいせつ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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