みそ文

にんじんしりしりに分け入る

 前々回、前回と、二回続けて登場したお店「美ん美ん(ちゅんちゅん)」で注文した「にんじんしりしり」について。「にんじんしりしり」とは沖縄のニンジン炒め料理で「しりしり」というのはニンジンを専用のスライサーでスライスするときのシリシリという音を表現しているものらしい。基本的にはニンジンを油で炒めて卵とからめればからめるレシピが多いだろうか。ツナなど他の具材を一緒に炒めることもあるようだ。にんじんをおいしくたくさん食べることができるので私はひとりご飯のときにはときどき作って食べているのだが、そういえば夫と一緒の食事のおかずに作ったことがなかったかも。

 この「にんじんしりしり」を注文するときにも「こちらのにんじんしりしりには薬味や具にネギや玉ねぎがのったり入ったりしますか?」と確認する。この時点ではまだあさりバターのニラには遭遇していない。店員さんは「んー」とにんじんしりしりの姿形を思い出すような表情を少しだけしたあとに「いえ、ネギも玉ねぎもなしですね」と返答してくれる。「それでは、にんじんしりしり、ひとつお願いします」と注文。

 しばらくして運ばれてきたにんじんしりしりを私達の前のカウンターに置こうとした店員さんが「あっ。ネギ。すみません。ネギなしでしたよね。これネギのってます」と言われる。平たいお皿にのった橙色の薄く細く平たく切られたニンジンの上にネギの小口切りの緑色が映える。夫と私が「はい。ネギなしと教えてもらってから注文しました」と言うと、店員さんは「すみませんっ。すぐに作り直してまいります」とにんじんしりしりのお皿を持って厨房に戻る。

 少ししてから店員さんが「にんじんしりしりお待たせいたしました」と持ってきてくださる。ぱっと見ネギの小口切りはなくなっているのだが、さきほどネギの小口切りがのっていた部分にネギの小口切りが数片残っており、その上から大量の白煎り胡麻がかけてある。ああ、新しいにんじんしりしりを作りなおしたのではなく、先程作ったにんじんしりしりに薬味でのっていたネギの小口切りを菜箸で取り去ったもののにんじんとにんじんの間に入り込んだネギまですべては取りきれなくてその部分に大量の煎り胡麻をのせてくださったのねえ、と察する。夫が「どうする? 事情を話して作りなおしてもらう?」と私にきく。
 「ネギ抜きで」と明確に注文したにもかかわらずうどんや蕎麦や個別の鍋もの汁物などネギのエキスが滲出するような料理がネギ入りで運ばれてきた場合に「ネギ抜きでお願いしたのですが」と言うと、新しくネギなしのものを作りなおしてくれるお店や店員さんと、私の手元からいったんさげたものからネギだけを取り去って再度それを出そうとする(実際に出す。そしてたいていはネギ片がいくつか残っている)お店や店員さんの二種類が存在する。前者の場合はありがたくお礼を丁寧に伝えておいしくいただき、後者に遭遇した場合には「すみません。ネギのエキスもダメなのでいったん入れたネギを取り去るだけではなくて新しいものを作りなおしていただけますか」とお願いすることがある。場合や状況によってはもはや諸々あきらめてそのネギ入り汁物には手を付けず他の食べられるものだけを食べて済ませることもある。
 注文のときに「ネギなし」でと言い、店員さんが復唱してくださるときにも再度店員さんとふたりで「ネギなしで」と言い合い、注文伝票にも間違いなく「ネギなし」と書いてもらったのにと茫然とする私のかわりに夫がお店の人に作りなおしを頼んでくれることもある。
 しかしにんじんしりしりの場合はネギが接触していなかった部分だけを選んで食べるという方法(ネギが接触していた部分と現在なおネギが数片のっている部分は夫に食べてもらうという方法)で対応できそうだから、夫に「ううん、このままいただくよ。私は外側のネギがのっていなかったあたりを食べるから、どうやらくんは真ん中のネギがのっていたあたりと、この明らかにネギの小口切りが残っているあたりを食べてくれるかな」とシェア(分けあい)の方向性を決める。

 「にんじんしりしり」を初めて食べた夫はいたくこれを気に入り「おいしいなあ、おれ、これ、いっぱい食べたい。またうちでも食べたい」と言うほどだったから、結果的に夫が食べる部分が多くなってよかったね、ネギなしと聞いていたはずのものにネギがのって出てくるという思いがけないできごとがなければニンジン好きの私が大半平らげていたはずだもんねえ、ではあったのだが、五葷抜き道はその草むらを分け入り歩みをかさねてもかさねても、外食における「ネギ抜きの確認とお願いと実現」がなかなか一筋縄ではいかない。それでも以前に比べたら、着実に少しずつメニュー選びも注文の仕方も上達してきたと思うから、私も夫もお店の人もほんとうによくやっていて、きっといろいろだいじょうぶ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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