みそ文

あさりバターの薬味には

 焼き鳥居酒屋兼沖縄料理店である「ちゅんちゅん(美ん美ん)」にて、あさりバターを注文したいなあと考える。カウンターに置いてある「当店おすすめ、あさりバター、あさり酒蒸し」の写真のあさりにはネギの小口切りがのっているように見える。

 みそ文やみそ記やみそ語りをこれまで長く読んで来られた方々におかれましては既にご存知であろうと思われるが、当然そんなことまだちっともご存知でない方がおられることもあるであろうなと説明を試みるならば、私は数年前から頭痛予防目的で「五葷(ごくん)」というグループの野菜の摂取をやめている。五葷とはネギ、玉ねぎ、ニラ、ニンニク、ラッキョウをはじめとした野菜のグループで、行者にんにく、あさつき、エシャロットなどもこのグループに属する。薬味として、また味付けのベースとして料理に欠かせない食材とも言えるのだが、私の身体の場合はこれらの食材を摂取すると頭痛が生じることがわかってからは極力外すようにしている。それを気をつけるようになって以来、頭痛の発生頻度は激減し、生じたとしても軽く済むことが多くなり、体力気力の消耗が減った。頭痛で数日間寝こむことも人生の連続何十時間かを何度も棒に振ることからもかなり開放された。自宅では自分が作る料理使う食材調味料を好きなようにできるのでまだ対応がしやすい。しかし外食においてこれらの食材を使っていないものをさがして選ぶのは慣れないうちは困難を伴う。とはいえ慣れてくればまあまあそれなりに外食もこなせる。
 好き嫌いで言うならばこれらの食材は私の好物である。しかし、それらの食材を食べたあとに襲われる長く重い頭痛の苦しさと食べたときのおいしさの快楽を天秤にかけたとき、私は自分が大好きなこれらの食べ物を食べないことで頭痛を減らし軽くすることを選んだ。
 実際には五葷だけではなく他にも頭痛予防のために摂取をやめている食材食品がいくつかあるのだが、今回ここでは五葷の話だけにとどめる。

 そういう身体事情と背景があるので、外食で何か注文するときにはスープベースや具材や調味料として五葷が入っていないものを注意深く選んだうえでさらに「薬味のネギは外してください」だとか「ネギ抜きでお願いします」と一言添えるようにしている。今回注文したあさりバターの写真にはネギの小口切りがのっているようであり、念の為に右隣のおじさんが先に食べているあさりバターを横目で観察してみたらやはりネギの小口切りがのっている。よし、これはネギ抜きの一言を添えて注文だ、と意を決し、店員さんに「追加注文お願いします」と声をかける。

「あさりバターひとつお願いします。薬味のネギはなしにしてください」
「あさりバター、ネギ抜きですね、承知いたしました」

 あさりバターを待っているあいだにカウンターの中の焼き場から焼き鳥が供される。鶏皮、せせり、もも、豚トロ。塩とタレのどちらかが選べるうちの塩で注文したもの。ああ、おいしい。こうして帰省移動の途中で一泊して運転を昼間の明るい時間帯だけにすると身体がすごくラクだねえ、と夫と話す。ほどなくあさりバターが運ばれてくる。テーブルの上のあさりバターを夫とふたりで凝視する。「う、これは……」と私がつぶやくと夫が「これはなあ、予想外。思いつかないから防ぎようもない」と言う。「うう、たしかにネギはのっていないけど」「あさりバターにニラをさっと最後に一緒に煮て入れるのはこれまで食べたことがないなあ」

 夫は「これはおれが食べるから、みそきちどんさんはもう一個、ニラもネギもなんにも薬味がのっていないあさりバターを別に頼んだら?」と提案してくれる。「どうやらくんはひとりでそのあさりバターくらいの量は平気で食べられる、できればひとりで平らげたい、ということかしら」と問うと夫は「うん」と言いつつあさりとその汁をすする。店員さんを再度呼ぶ。「すみません。あさりバターをもうひとつ、今度はネギもニラもなんにも薬味は一切なしでお願いします」と頼む。店員さんは「あっ、ネギだけでなくニラもダメでしたか。ごめんなさい、そちらのあさりバターお下げして作りなおしてきます」と言われる。夫は両手であさりバターのお皿を死守するように押さえて「いえ、これはいただきますんで、これとは別に」と言う。私は「はい、これとは別にもうひとつ新たにすべての薬味なしのあさりバターの注文をお願いします」と続ける。

 夫はひとりで「うまー」と満足そうにあさりとニラを食べバター汁を飲む。「あさりバターにニラの組み合わせで来るとはなあ」と珍しいものを見たように言う夫に私は「うーん、よくわからんけど、沖縄料理的にはここでニラを組み合わせるのはよくあるんですと言われたらそうなのかなあという気はするのはするかなあ、どうなんだろうねえ。でもね、気持ちはわかるの。あさりバターの色合いとして視覚的に緑色を最後に上にのせたくなる気持ちは。私も自分で作る時には最後にパセリのみじん切りやドライパセリをちらすことあるもん」と返す。

 私のために新しく供された薬味なしあさりバターはその貝の身のプニプニとした食感も、火の入れ加減も、貝殻ですくって口に運ぶバター汁のバターと塩味のバランスも、最初から最後までじんわりとおいしくて、「ひとり一個ずつ注文して各自堪能できてよかったね」とそれぞれのまえにひとつずつあさりバターがなくなった白くて広いお皿を置いてひとしきり満ち足りる。     押し葉

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

ときどき、思い出したように、いただいたメッセージへのお礼やお返事をリンク先の「みそ語り」に書いています。よろしければ、いつでも、どうぞ、どなたでも、ご覧ください。「みそ語り」では、メッセージをくださった方のお名前は書いておりませんので、内容から、これは自分宛かしら、と推理推察しながら読んでいただければうれしいです。手の形の拍手ボタンからメッセージをくださる場合は五百文字以内、文字の方の押し葉ボタンからメッセージをくださる場合は千文字以内となっております。文字数制限なくお便りくださる場合には、下のメールフォームをご利用ください。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

最新記事

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (0)
暮らし (109)
仕事 (161)
家族 (299)
想 (23)
友 (47)
学習 (79)
旅 (16)
心身 (8)

FC2カウンター

検索フォーム

FC2Ad

Template by たけやん