みそ文

のどぐろとサンダル

 先週のいつだったか夫が「ボーナスが出たー」と言って明細書を見せてくれた。「わあ、いっぱいもらってよかったねえ。お疲れ様でした」と言う(金額の多寡にかかわらず毎回こう言う)と夫は「でもこんなに税金引かれてる」と言う(夫は毎回だいたいこう言う)。「こんなに納税したということはそれだけ収入を得たということじゃけん、豊穣の証じゃん」と伝えてもう一度「よかったね」と言う。夫が「ボーナスも出たことですし、何かおいしいものを食べに行きましょう」と言う。「わーい、やったー。じゃあ、のどぐろの干物がいいなー」と小踊る。

 それでは日曜日のお昼ごはんは漁港近くの鮮魚店お魚料理屋さんに行きましょう、と計画してお昼前に高速道路に乗る。鮮魚店の一階でまずは「のどぐろの干物をください」と干物コーナーで物色する。干物三枚入りのカゴと二枚入りのカゴとあり二枚入りを選ぶ。それから生のお魚の売り場に移動してのどぐろを見比べる。小さいものと大きいものがあり100gあたりのお値段は大きなのどぐろのほうが少し高い。売り場のおばさんが「大きいのにするんなら、半分焼きにして半分煮付けて頭をおつゆにする?」ときいてくださる。

「今日は焼きは干物をいただきたいので、生のほうは煮付けと汁で」
「干物はおうちでも焼けるから買って帰って家で焼いてここでは焼き魚のほうが食べたらいいのに。まあ干物もここの二階で焼くとおいしいけどね」
「はい。のどぐろの焼いたのはまえに来た時に焼いてもらっておいしくて、今度は干物を焼いてもらいたいなあとずっと思ってたんです」
「じゃあ、干物を焼いて、こっちの胴体を煮て、頭をおつゆね。お刺身にもできるけどお刺身はいいのかな」
「今日はお刺身はいいです」
「あ。他のお客さんたちがいま駐車場からたくさん入ってくるみたいだから早く二階に上がって席とったほうがいいよ」
「はい、わかりました、すぐあがります」
「干物と魚は厨房に持って行くから席で待ってて」

 座席について間もなく、大人数の家族連れのお客さんが食堂に入ってくる。魚売り場でゆっくりと魚を見てから上がってきた夫が席につく。お店の人が蟹の形をした竹製の箸置きと割り箸とおてふきを卓にならべる。それからあつい緑茶を運んできて「いまご注文の確認に来ますからね」と私達に声をかける。まもなく注文を取る人が来て「干物を焼いて、生の頭を味噌汁にして、あとは煮付けでいいですか。ごはんふたつでいいですかね」と私達の注文パターンをある程度熟知した確認作業を行う。「味噌汁はひとつだけネギ抜きでお願いします」と頼む。

 すぐに運ばれてきたバイ貝の煮付けとヤリイカの煮物とタコの塩辛を食べながらお茶を飲む。タコの塩辛は私よりも夫のほうが得意な海鮮珍味系の味だから大半を夫が食べる。

 最初に来たのは煮魚。大きなのどぐろだから身が肉厚でぷりぷりとしている。胴体の尻尾側と胸側のふたつに分けて切ってあり夫は胸側を私は尻尾側を食べる。薬味でついている山椒の葉を一緒に口の中に入れる。のどぐろのあぶらが濃厚で甘い。皮のついた部分はさらにおいしい。そして煮てあるその火加減が素人が自宅でそうするのはきっと無理と思えるくらいに芯にごくわずかに生な感触が残る状態。そのままお刺身で食べられるのどぐろであればこその火加減だねと感心しあいながら熱心に食べる。

 まもなくご飯と味噌汁と干物を焼いたものが運ばれる。味噌汁は味噌汁なのだけど爽やかで清涼でなおかつコクが深い。目を閉じて汁の旨味が自分のからだの細胞の隅々に届くのを感じる。のどぐろの目と頬と頭全体の可食部がとぅるりとしている。ああ、おいしい。干物にはレモン汁をかける。もともと魚の干物が好きな私はたいそう満足するけれど、夫は「干物に関しては伊豆に軍配があがるな」と冷静に比較した感想を述べる。たしかに伊豆の干物、特に金目鯛の干物は極上だ。伊豆半島で浴びるお日様と風があの味を作り出すのだろうなあ。けれども北陸の風も魚をおいしく干してくれている。干物の皮は香ばしく身のほっくりとした塩味がご飯によく合う。夫が「今度は鯛の干物を食べたいな」と言う。

「鯛の干物があったの?」
「うん。大きな鯛の干物があった」
「鯛の干物はなんとなく珍しい気がするね。今度来た時にはそれをいただこう」

 すべてをお腹におさめて満足してごちそうさまと手を合わせる。もう一度お茶を少し飲んで席を立つ。何度も何度もおいしかったね、おいしかったね、のどぐろ素晴らしいね、と言い合いながらお店を出て車を運転する。お店を出る直前に見た鯛の干物は「醤油干し」と書いてあった。今度はあれを焼いてもらって食べよう。

 毎年この時期になると夫が株主優待割引券で私にサンダルを買ってくれる。誕生日プレゼントを兼ねた贈り物のようなのでありがたくもらっている。魚料理の帰りにリーガルに寄る。今年のデザインはどんなのかな、と見た結果、鮮やかな濃い桃色と薄い桃色と茶色い皮のサンダルが「私を買って履いて」と言ってきたからそれでサクッと決まる。帰宅して玄関に新しいサンダルをならべる。華やか。ようこそ我が家にようこそ私の足元に。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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