みそ文

求める酢

 昨日もタコとキュウリの酢の物を作って食べたのだが、今日もまたタコとキュウリの酢の物を作った。さらに豚肉の冷しゃぶを作りポン酢をダバダバとかけ、キュウリのピクルス(酢漬け)を切り、そのままうっかりしていたら冷奴に釜揚げしらすをのせたものにまで酢をかけそうになったが、いやいやここは醤油でしょう、と思いとどまり醤油をかけた。

 むかし、広島の祖母が夏になると「す素麺が食べたい」と言うことがあった。最初は「素うどん」の素麺版の「素素麺」だろうと思い、具も薬味もなくひたすらに素麺だけすすりたいときもあるかもね、と、はいどうぞ、と、めんつゆを卓上に置く。しかし祖母は「これじゃあなしに、酢をかけて食べる」と言う。「はあ? 酢?」と確認すると祖母は「ほうじゃ。酢じゃ」と言う。当時実家で酢はどんな瓶で買って使っていたのか、一升瓶だったのか500ccくらいの瓶入りだったのか、どこにどんなふうに保存していたのかに関する記憶はまったくないが、普段酢の物を作る時に使う酢を出すと祖母は「それそれ」と言う。そして器に盛られた素麺にそのまま酢をトポトポとかける。「ばあちゃん、つけつゆみたいにして、ちょん、とつけるんじゃなくて、そんなにかけて食べるんじゃ」と言うと祖母は「酢が食べたいんじゃ」と言う。

 祖母がそうして酢素麺を食べるのを見ても誰もそれを真似はしなかった。祖母は「うまいのう、うまいのう」と言いながら酢素麺をすすり、ときたま「むほっ」とむせたりもした。誰かが「そんなにむせながら無理に酢で素麺を食べんでもめんつゆで食べたら」と言っても祖母は「いいや、めんつゆじゃなしに酢で食べたいんじゃ。酢が食べたいんじゃ」と言って志を貫く。

 あのとき、祖母が酢を素麺にかけて食べるのを見たとき、ちっともおいしそうだとは思わず、むしろどちらかというと、私の味覚食文化的にそれはないな、と思っていた。でも今なら少し祖母の気持ちが、祖母の身体が求めていたものが、なんとなくわかるような気がする。身体が酢を求める。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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