みそ文

桜前線渡り鳥

 外を歩いているとああ気持ちがいいと思い、車を運転していると暑いと感じる。そのときにはよし今日は素麺か冷やし中華にしようと思う。しかし家の中に入ってしばらくするとなんとなく肌寒く感じる。屋外と屋内はそんなに気温がちがうのかしら、と考えている間に素麺欲や冷やし中華欲がしぼむ。

 夫に「こんなふうに寒くなくて筋肉の緊張が少なくて、かといって暑くもなくて呼吸が涼やかでらくな、こういう気候のところでずっと暮らそうと思ったら、どこかそういう気候の土地が地球上にはあるのかな」とたずねてみる。

「うーん、それは、ちょっとずつちょっとずつ移動するしかないんじゃないかな。桜前線みたいに」
「桜前線は年中どこかを移動し続けているわけではないというかそもそも桜自体は移動はしていないと思うんだけど、たとえば渡り鳥みたいにってことかな」
「うん。そのときの自分にとってちょうどいい気候のところに自分のほうが移動するしかないと思う」
「それはこんなふうに暑くなくて寒くない気候がずっと続くようなところはないということかな」
「うん。地球の構造から考えて、ないと思う」
「そうかあ、ないかあ。ないかなあ、ないかあ。あると思ってさがしてもないかなあ。ああ、それはもう人類のご先祖様たちがさんざんさがし尽くした結果のいまなのかなあ。もし移動しながら暮らすとなると今みたいな定住のメリットは得られなくなるよねえ。私、定住、好きなんだけど。むかしはなぜかベドウィン(遊牧民)に憧れた時期があったけどあれは気の迷いじゃったわ。私は別に移動がしたいんじゃなくて、気候が穏やかなところに定住したいんだよねえ。移動は移動であって引越しとは違うからさ、かなり小刻みに移動して自分の北限まで行くけど、また寒くなったら小刻みに移動して自分の南限まで行くのを繰り返すんだよね。うーん、日本国内六ケ所くらいに自宅があって二ヶ月ごとに適度な温度と湿度と日照の場所に移るとしても、今みたいにひとつの職場で仕事を続けるのは難しくなるかなあ。季節労働者っぽく受け入れてもらう方法もないわけではないんだろうけど。ひとつの職場に慣れるのにはそれなりに時間も手間もかかるからなあ。しかも受け入れる側の人も移動する人たちだったりしたらどうなるんだろう。それにそんなに年がら年中気候が穏やかで過ごしやすいところがもしあったとしてもそこがとてつもなく広大な敷地というわけでなかったらきっとそこはすっごい人口が過密になるよね、そしたら人混みが苦手な私には快適じゃなくなるかもしれないねえ。ああ、やっぱり私今の暮らしが気に入っとるんかもしれん、気候も含めてそれなりに」
「よかったね。ごくろうさん」

 知らないうちに身体がちぢこまる寒い季節の筋肉緊張や自分の吐く息の温度でけだるくなる暑い季節の呼気のほてりがあるからこそ、今の時期の気候が身体に快適だなあと感じるのであって、ずっとずっと今のような暑くもなく寒くもない気候が続いたとしたら、その気候のおかげで身体が快適であることに気づかなくなるのだろうか。ずっと快適だけどずっと快適であることに気づかないのと、ある程度自分が許容できるかなと思える範囲内で快適でない時期があるけれど快適なときに「ああ、快適だ」としみじみその快適を味わうのとどちらがいいか選ぶとしたら私は後者なのかなあ。いや、やはり、常々快適なところにいて「ああ、快適であるなあ」と都度都度気づいて味わい続けられるとしたらそれはそれがよいような、よいような、どうだろう。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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