みそ文

薬を飲んだら笑うこと

 幼稚園児や小学校低学年の年頃の患者さんは、幼稚園や学校から帰ってきてから病院やクリニックを受診する。その後処方箋を薬局に持ってくる。おかあさんと一緒に来る子もいれば、おとうさんと一緒の子もいれば、祖母または祖父とともに来局する子もいる。

 午後三時から四時くらいまでに薬局に来た人には「今日のお昼に特別何もお薬飲んでいなければ、今日は今すぐお薬を飲んで、四時間か五時間あいだをあければまた次を飲めますから、今日の夕食後か夜寝る前にもう一度お薬飲んでから寝てもらうと、今日のうちにぐっとラクになれるかなと思います」と説明しながらお薬を手渡す。

 保護者の方が「ここで飲ませてもいいですか」と尋ねられた場合には「もちろんぜひ飲んでいってください」とおいしいお水のウォーターサーバを指し示す。小さな患者さんたちは、粉薬をそのまま「んあ」と口に入れてもらってからムニュムニュと口の中でなじませておいてお水をごくんと飲む子が多いが、紙コップの中の水またはぬるま湯に粉薬を入れて溶かしてから飲ませてもらう子どももいる。

 今日お薬を渡した子は「えー、今日は、ピンクじゃないのー? 白いくすりー?」とやや不満を示した。私は「このまえはピンクのお薬でしたよね。今日の白いお薬も甘くておいしいお薬なので、がんばって飲んでみてくださいね」と説明する。その子のおかあさんが「甘くておいしいんやってよ。よかったね。ここで飲んでいこうか」とさらに積極的な服用を促してくださる。その子は「うん、いま、のむ」とウォーターサーバの前に立ち、おかあさんが口に薬を入れやすいように斜め上をむいて口を開ける。おかあさんが粉薬を開封して子どもの口に入れている間に私は残りの薬を袋の中に片付けつつ見守る。その子は口の中の粉薬の味を確認するように眼球を少し動かした後、おかあさんが汲んだ水が入った紙コップを受け取る。両手で紙コップを持ってコクコクと水を飲む。コップに入った水をすべて飲み干す。

 私が「わあ、お薬飲むのじょうずですねえ。では、今夜もう一度飲んでから寝てくださいね」と言ってお薬をおかあさんに手渡すと、その子は「おいしかったー!」と満足そうにニパッと笑う。ああ、うん、薬も必ずやよい仕事をするにちがいないけれど、きみのその極上の笑顔にきみの脳はきっと満足してぐんぐんとからだの自己治癒力が高まるね、と確信する。薬局の出口に行くまでにその子はおかあさんに「すっごいおいしかったよ」と報告し、自動ドアから出る前にさらにもう一度薬局の中を向いて私たち従業員に「ありがとっ。おいしかった!」と言って手をバイバイの形に振る。足取りはスキップ風。

 薬局というところは、患者さんに薬の味のおいしさを提供することを第一の仕事にしているわけではない。そして薬の味付けは既にメーカーで行われたものであり薬局の腕で薬がおいしくなったわけではない。それでも、不調の改善のために一時的に服用する薬であってもそれを口に入れた人から「おいしい」と評してもらえるとうれしいような気持ちになる。これがもしも味のおいしさを提供するのを第一の仕事としている飲食業の人であれば、その味付けはそのお店の腕によるものということになる。そんな立場で聞くお客さんからの「おいしかった」のひとことはどんな音色がするのだろう。

 私はもうずっとまえから小さな子どもではないから、片手でバイバイしながら、そしてややスキップをしながら、「ありがとうっ。おいしかった!」と言うことはないけれど、飲食店でなにかをおいしくいただいたら、お店を出る時お店の人に手を合わせて静かに「ごちそうさまでした。おいしかったです」と軽く会釈する。これからもその習慣を続けられる心身であるあいだはそうしよう、そうしたい。     押し葉

 | HOME | 

文字サイズの変更

プロフィール

どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

ときどき、思い出したように、いただいたメッセージへのお礼やお返事をリンク先の「みそ語り」に書いています。よろしければ、いつでも、どうぞ、どなたでも、ご覧ください。「みそ語り」では、メッセージをくださった方のお名前は書いておりませんので、内容から、これは自分宛かしら、と推理推察しながら読んでいただければうれしいです。手の形の拍手ボタンからメッセージをくださる場合は五百文字以内、文字の方の押し葉ボタンからメッセージをくださる場合は千文字以内となっております。文字数制限なくお便りくださる場合には、下のメールフォームをご利用ください。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

最新記事

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (0)
暮らし (109)
仕事 (160)
家族 (298)
想 (23)
友 (47)
学習 (79)
旅 (16)
心身 (8)

FC2カウンター

検索フォーム

FC2Ad

Template by たけやん