みそ文

メトロノームは一分間

 知っている人はとっくのむかしからすでにずっと知っていることで、当然のことで、それ以外になにがあるの、なことだろうとは思う。

 音楽の速さを数字で表すときに用いるメトロノームという道具をご存知だろうか。速さを数字で表すというよりも、「このテンポで演奏しなさい」と指示する目的で楽譜の最初に表示されている数字の速度が実際はどれくらいなのかを確認する道具、というほうが近いだろうか。カツカツカツカツと一拍ずつのリズムを知らせてくれる道具。私の手元にあるメトロノームには上から順に数字が書いてある。数字はリズムがゆるやかなほうから順に40,42,44,46,48,と大きくなる。私が持っているメトロノームの一番大きな数字は208。

 今回とあるいきさつがあり小さな曲を作ることになった。結果的にできあがった曲は1小節に四分音符が4拍入ったもの(八分音符が8個入っているとも言える)が全部で10小節。つまり四分音符40拍分で構成される。作曲ソフトで作った曲をパソコンのスピーカーで聴いてみる。これはメトロノームだとどのくらいの速さなのかしら、と思い、自分のメトロノームを持ってきて流れる曲にメトロノームの拍を合わせる。メトロノームのおもりを少しずつ上下に微調整しつつ、ううむ、これくらいかな、と思えたおもりの位置が示す数字は120。それではと、曲を演奏する人たち(楽譜は先に送信済み)に「速さはメトロノームの120でお願いします」と連絡する。私のメトロノームは昔ながらの卓上サイズで振り子が左右に揺れ動くタイプだけれど、曲を演奏する人たちのメトロノームは手のひらサイズのデジタル式。各自が自宅で同じ楽譜を見て同じ速さで演奏できるように練習しておくと、合同練習で合わせるときによりいっそう合わせやすくなる。ああ、今にして思えば作曲ソフトの速さ(テンポ)は何もしなければ120になるように設定してあるのかもしれないなあ。

 そもそものいきさつは、私の現在の勤務先でラジオ広告を出そうということになり、その広告枠20秒に入るような曲を作ってほしい、という依頼がなぜか私のところにきたところから始まる。なぜになにゆえにそんな無茶振りを私にという広告話はまた後日するかもしれないことにして、そういういきさつで作った10小節をパソコンで流しながらストップウォッチで計ってみたらたまたまちょうど20秒に収まることがわかった。へえ。四拍子が10小節でほぼ20秒ぴったりなんだー。そんなつもりなく作ったけれど、なんだかキリがいいのねー。

 あれ、あれ、なんだか、なにやら、むむむむむ、ももももも。メトロノームの速さ120の曲が40拍で20秒ということは、1分つまり60秒なら20秒の3倍だから拍数は40拍の3倍で120拍ということかしら。あら、あら、あら、ということは、この1分に120拍というのがメトロノームの120であるのだとしたら、メトロノームの数字がたとえばだいたいALLEGRO(アレグロ)あたりにある132というのは1分間に132拍ということなのでは。え、え、じゃあ、じゃあ、いちばんゆっくりな数字の40というのは1分間に40拍ということなのよね。なら、なら、それなら、メトロノームの数字が60のところで打つ1拍はだいたい1秒ということなのかな。

 わーわーわーわー。知らなかった気づかなかった。いやいやいやいや。メトロノームと知り合ってから数十年以上の間のどこかで、小学校か中学校の音楽の時間に、あるいは私は高校でも大学でも選択科目で音楽をとったからその授業のどこかで、音楽の速さを表す数字はそういう意味であることを、一分間に何拍入るかという意味なのですよ、ということは習っていそうな気はする。習ったことを忘れているだけで。もしかすると4歳のおわりか5歳の初めくらいから高校を出る少し前まで習っていたピアノの先生からもどこかの段階で指導を受けたかもしれない。すっかり忘れているだけで。

 そして私は自分の中でのこの小さな発見を演奏者である同僚たちに「私今回初めて気がついたんですけど」と話す。すると彼女たちの中で何か小さな電球がピコンピコンと点灯したみたいな顔になり彼女たちは「えーと、120の速さで10小節で40拍で20秒は、1分で120拍だー」「ああっ、ほんとうだー、そうなんだー、そうだったのかーっ」「わあ、わあ、どうやらみそさん、その発見はノーベル賞よー」「すごいすごいー、大発見だー」と口々に言う。私は「いやいやいやいや、それはないない。私が知らなかっただけで、もともとメトロノームを作った人はそのつもりで作ったんだと、今ならそう思います」と言う。皆が「私も、私も、知らなかったー」と言う。

 メトロノームにはこれまでさんざんお世話になっておきながら、彼(メトロノームはなぜか「彼」だ)のそんな基本的な主張にまったく気づくこともなく、なんとなくリズムをとってもらっていただなんて。私が知らないところで彼は何十年もの間「この子(私)はいつかこの規則性に気づくかなあ、生きてる間に気づくかなあ、まあ本人機嫌よく楽しそうにしているなら音楽はそれでいいんだけど、音楽の中に数学の美しさがあることも知ったらもっと嬉しかろうにねえ」と思っていたかな、どうかな。うん、ありがとう、うれしいです、とお礼の気持ちを込めて、綿棒と布で丁寧にメトロノームを手入れする。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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