みそ文

栗注意報もしくは警報

 夫の伯父さん(義父の兄)から広島の柿と栗が届いた。伯父の自宅の家の周りの柿の木と栗の木が今年も生り年だったのだろうか。夫がお礼の電話をすると伯父さんは「そうか、じゃ」とすぐに電話を切ろうとする。夫が「まあまあ、ちょっと、そっちのみんなは元気にしてるん?」と訊くと、伯父は「うん、元気じゃ。じゃ」と電話を切ろうとするので、夫は「とりあえずお礼の電話。じゃあ」と電話を切る。

 我が家には「石焼つぼ」という素焼きの鍋のような窯のような加熱調理器具がある。鍋の中には小石が敷き詰めてあり、その小石を鍋の中で熱して小石の上に芋や栗など蒸し焼きにしたい食べ物を並べる。熱した石焼つぼの蓋を開けるとなんとなく岩盤浴のにおいがする。食べ物を小石の上に並べたら、前半はガスレンジの強火で約15分、後半は中のものを裏返したあと弱火にしてさらにもう約15分加熱する。

 今回いただいた栗の半分をこの石焼つぼで焼き栗にする。残りの半分は夫が栗剥きハサミで皮を剥き栗ご飯に。石焼つぼで焼きあがった栗を半分に割ってスプーンですくって食べましょうかね、と石焼つぼから取り出す。台所のまな板の上に栗を置き包丁で半分に切る。バシュッ。

 バシュッ。この音は、包丁を入れた栗が突如爆発した音。栗の実の半分が少し遠い位置に弾け飛ぶ。半分はまな板の上。栗の中身の中央が両方とも少々くぼんで欠けている。私の身体の前側は栗爆弾の破片にまみれた。シンクにもガスレンジにもキッチンの壁にも床にも飛び散った栗の粉末と小片が付着する。栗にまみれたままではあるが、弾け飛んだ半分の栗とまな板の上の栗をお皿にのせる。夫がそれを食卓に置き早速スプーンでほじって食べる。「うまっ。ホクホクっ」と夫は機嫌よくほじり続ける。

 ううむ。今の爆発は熱々の栗にいきなり包丁の刃を入れたのがよくなかったのかしら。二個目はまず包丁の先っちょだけでほんの少し穴を開けて中の圧を抜いてから切ると大丈夫かもしれない。栗にまみれた身体のままで二個目の栗に包丁の先を刺す。一瞬プシュっと音がする。それから包丁の刃をすうっと入れる。今度はきれいに切れた。残りの栗は石焼つぼの中に入れて余熱であつあつを保とう。

 夫が「つぼの蓋は開けておいたほうがいいんじゃないかなあ。早く冷まして食べやすい温度にしたほうがいいんじゃないかな。なあなあ」と言う。
「そんなにつぼの蓋を開けておきたいと思うなら、どうやらくんが立って石焼つぼの蓋を開けるといいと思うよ。私はほらこんなに栗まみれで、石焼つぼのお世話をする前に自分の服の栗の粉をふるい落としたり着替えたりするほうが大切だと思うの」
「栗の爆発って初めて見たなあ」
「うん。焼き栗を焼いているときにパチっと弾けてその場で小さく飛ぶのは見たことがあるけど、こんなに本格的な爆発、するんだねえ、栗」

 夫は二個目の栗を「半分もらうね」と自分の皿に取って食べ始める。私は自分の前面にびっしり付着した栗の粉を布巾で払うようにして流し台に落とす。古いタオルを三分の一程度の大きさに切った使い捨て雑巾を軽く濡らして固く絞る。壁とガスレンジそして床などに付着する栗を拭き取る。拭った雑巾をゴミ箱に捨てる。床に敷く大判のタオル(キッチンマット代わりのタオル。簡単に交換して洗えるようにタオルを使っている)の上にのる栗の破片をゴミ箱にふるって落とす。それから浴室の入り口に立ってそのタオルと自分の前面をはたく。大判のタオルは洗濯カゴに入れる。着替えようかなと思うが、もう少し栗を切り終えてから着替えることにする。

 石焼つぼの蓋を開ける。蓋は石焼つぼがのっていない側のガスレンジの上に置く。つぼの中の栗を取る。まな板の上にのせる。熱い。
「子どもの頃、茹でた栗を包丁で切ろうとして指を怪我してねえ」
「おれも、怪我したこと、ある」
「栗?」
「ううん。おれは芋だった」
「まだひとりで包丁を上手に扱えない年なのに、おとなが誰もいないときに、かたい栗をひとりで切ろうとして、栗じゃなくて自分の親指の爪の下のところを切って、どくどく血が出てきたのを布巾でおさえて、出かけていた親とばあちゃんが帰ってくるのを縁側で待ってた」
「かたいものを切るのって技術が要るもんなあ。子どもがいきなりは無理」

 そして三個目の栗にいま一度包丁の先だけをそうっとゆっくりと刺す。バシュッ。私と台所はふたたび栗の粉末と小片にまみれる。夫が「この人も学習せん人やなあ」と言う。
「学習はしたよ。栗には包丁の先だけ入れても爆発するって学習した。着替えずに前の服のままで実験したのもえらかったと思う」
「よかったね」
「うん。栗は危険。取り扱い注意」

 自分の身体の前側を軽くたたいて主な栗を落としてから、さっき一度はきれいになった台所をふたたび使い捨てのタオル雑巾で拭う。一回目の爆発よりも二回目の爆発はさらに広範囲で水拭きの範囲は広がる。栗爆発のおかげで思いがけず台所が水拭きでさっぱりとする。もう一度浴室入り口に移動して自分の前面の栗粉末と小片を払い落とす。ハンディクリーナーでぶうううんという掃除機の音とともに自分の表側を吸う。今度は着ていたものを脱いで別の服に着替える。着ていたものは今一度しっかりふるってから洗濯かごへ。浴室床に落ちたものはボロ布で集めて拭き取り捨てる。

 爆発した三個目の栗と爆発しなかった二個目の栗の残り半分にスプーンを入れて口に運ぶ。はふっ。ほふっ。ほくっ。栗だ。夫が「この栗、どんぐりの味がすると思わん?」と言う。
「どんぐりをどんぐりのままでは食べたことはないけど、どんぐりは栗の仲間の味がしそうではあるねえ」
「おれもどんぐりを木の実として食べたことはないけど、どんぐりは栗の仲間の味がすると思う」
「どんぐりの味はわからんけど、これは栗の味だと思う。おいしい」
「今年の栗は虫食いが少ないなあ。伯父さんがいい栗を選ってくれたんじゃろうか」
「うん。どの栗も立派だね。栗ご飯もたのしみじゃね。ところで私ね、熱々の栗が飛び散ったときに右手の人差指にあたったみたいで、指がやけどで痛い」
「そりゃあ、あんな爆発を浴びたら、やけどくらいはするじゃろう」

 痛い部分を水道水で冷やしていったんリンデロンVGクリームをつける。こういう痛みのときにはクリームよりも軟膏のほうが刺激が少ないのだけど、うちには今クリームのほうしかないからとりあえずこれで、と応急処置。しかししばらくするとやけど部分がズクズクと痛む。
 ううむ、これは、患部が外気に触れないようにハイドロコロイド素材でおおったほうがいいかな、と思い直す。先ほど塗った薬をぬるま湯と石鹸で洗い流す。タオルで水気を拭きとってからハイドロコロイド素材を貼る。どうかな、痛いの軽くなるかな。
 よしよし、さっきよりはいいけれど、しかしやっぱり痛いな。これはおとなしく消炎鎮痛剤を飲みましょう。ごっくん。数十分後、こうしてキーボードを打てる程度に痛みが引くが、もう少し重量がかかる作業で指を使ったりどこかにあたったりすると、イテテテッと感じる程度には痛い。養生養生。
 それにしても、こういう事故が生じたときに自分でなすべきことを判断して後片付けと怪我の手当を行える。大きくなっておとなになってほんとうによかったなあ。
 
 ところで、焼きたての栗に包丁の先を突き刺すと、ものによっては爆発することはわかったが、竹串を刺した場合にはどうなるのだろうか。竹串を刺した小さな穴から栗の中身は暴発するのかなどうかな。気になる。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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