みそ文

ソフトクリームは乳の味

 天空リフトの駐車場から『みるくの里』へ。ナビは細くて暗い山道へと案内しようとするが、私は看板表示のある大きな道路を選ぶ。我が家のナビは「距離が近いこと」に対するこだわりが大きい。距離が近いこと至上主義で、他に広くて走りやすい大きなよい道路があるとしてもそちらは選ばない。これまで何度も彼(ナビ)の案内で狭くて走りにくい道に迷い込み心細い思いをした。その学習を活かして、看板の案内に期待して、大きな道を走る。案内通りの走行で無事にすみやかに到着。広い駐車場には鳥取県内外各地の車がたくさん。私達も家族連れではあるが、主に小さな子どもを連れた家族客が多い。

 ソフトクリームはどこかなあ、と、探し求めつつ、なんとなくこっちかなあ、よくわからないなあ、と話しながら大きな建物へ。そこに至る道中から少し離れた戸外には牛舎があり、その牛舎で牛を見て過ごす人たちがいる。自宅にも親戚宅にも牛がいないことの多い現代、飽くことなく延々と牛を眺めて過ごそうと思ったら、こういうところに来ることになるのねえ、と思う。

 建物の中にはお土産物売り場がある。主にお菓子と乳製品。テイクアウトのアイスクリームやシュークリームも。ソフトクリームコーナーには人々が列を作る。夫が「おれが並んで買う」と言い列に並ぶ。母は「私はおみやげのお菓子を見てていいかね」と言うから、私は「わかった、ソフトクリーム買ったら持っていくね」と言う。ソフトクリームコーナーに向かって右手奥には一般的なレストランがあり、ソフトクリームコーナーに向かって左手にずっと進んだ奥にはバーベキューレストランがある。お昼時ということもあり、どちらのレストランにもそれなりにたくさんのお客さんが入っている。

 夫が買ってくれたみっつのソフトクリームのうち、ふたつを受け取る。地元のお菓子を見る母にソフトクリームを渡す。ソフトクリームは濃厚なミルク味で、母は「いかにも牛乳の味がする」と言う。バニラソフトクリームというよりは牛乳ソフトクリームな味。店内は冷房が効いているので、ソフトクリームをゆっくりとした速度で食べ進めることができる。館内に入ってくる前に建物の外の陽の下でソフトクリームを食べていた人のそれは気温の高さでどんどんと溶けて垂れて落ちていたけれど、館内なら安心。

 母は母でお菓子を見ながら、夫は夫でどこかで、私は私で牛肉やアイスクリーム売り場を見ながら、ソフトクリームを食べる。気持ちとしてはどこかに腰掛けてじっと集中して食べたいものであるけれど、そういう設備がない施設であるのはいたしかたないことであるから、こぼさないように垂らさないように人にぶつからないように人がぶつかってこないように細心の注意を払って立ち食い。食べ終えたらコーンの裾の紙の袴を牛乳瓶返却場所横にあるゴミ箱に捨てる。通りすがりに母を見たら母も食べ終えていたから紙の袴を受け取ってそれと一緒に捨てる。

 母は「おみやげのお菓子はこれとこれに決めた」と二種類のお菓子を指さす。ひとつはカマンベールチーズケーキ。もうひとつは兎の耳の形をしたフィナンシェ。どちらも個包装になっている。

 山陰には「因幡の白兎」というおはなしがある。山陰生まれの私の中ではその歌も含めて非常に有名な作品なのだけれども、夫は「因幡の白兎」の話をあんまりなんとなくしか知らないと言い、「大きな袋を肩にかけ大国様が来かかると」の歌詞とメロディにいたってはまったく知らない、なにそれ、と言う。私にとっては「桃太郎」や「かぐや姫」や「一寸法師」などと同等に有名なつもりでいたのに、それを知らないだなんて、夫が昔話に疎いのか、因幡の白兎が全国規模でないのか、いったいどちらなのだろう。

 その因幡の白兎にちなんだ「因幡の白兎」という名前のおまんじゅうが昔からあるのだが、その会社が作った姉妹品のフィナンシェがたいへんに可愛らしく美味しそうで、これは私の職場にもおみやげとして買いましょう、と思う。母が「これ、かわいくて、おいしそうでしょ。あんたたちにもお礼にこれを買ってあげようかと思うんだけど」と言う。「いやいや、いいよ、それは。ありがとう」と気持ちだけありがたくもらう。

 母はチーズケーキとフィナンシェをそれぞれ十個ずつ地方発送で送ってくださいとお店の人に頼む。ヤマト運輸の段ボール箱ふたつに分けて送ることになる。私は自分のフィナンシェを二箱買う。自分の買い物が済んだ後、母と手分けをして送り状を一枚ずつ書く。送り先は広島の実家、つまり母の自宅。差出人は母本人。母は「わかりやすいように品名も書いておこうっと」と言い、一枚には「チーズケーキ」と、そしてもう一枚には「フィナンセ」と書く。

 母よ、それはフィナンセではなくてフィナンシェだ、と思うが、いや待て、たしかに商品名は『因幡の白兎フィナンシェ』ではあるが、フィナンシェ自体がそもそも外来語であるし、どこかの国や地域ではこういうお菓子を意味する語彙をフィナンセと発音するところがあるかもしれないと思い直し指摘を控える。母にとって自宅に届いた荷物の中身が「これがこっちね」と思えればいいだけのことである。販売店の人はチーズケーキを入れた箱にチーズケーキと書いてある送り状を貼ってくれさえすれば、あとはもうひとつの箱にフィナンセと書いてある送り状を何も考えずに貼ればいいだけ。運送会社の人にとっては中身がフィナンシェであろうとフィナンセであろうとどちらでもいいことだ。

 母の買ったお菓子の代金と送料を払いレシートと送り状控えを受け取る。私たちはレジの列とは別のすみのほうで発送作業と支払いの対応をしてもらったが、レジには次から次へとお客さんが並び、途切れることなく何かが売れる。

 ソフトクリームで血糖値の上がった身体でいろんなお菓子を見たらなんだか満腹感がさらに増す。「ソフトクリーム満足したね。では米子駅目指しますか」と建物の外に出る。外は眩しくて暑くて夏休み気分が盛り上がるお天気。ウッドデッキ風な造りの通り道を歩いて駐車場に戻る。夫には先に車に行ってもらい、母と私はトイレに立ち寄る。

 これから米子駅に行けば、午後二時二十八分の特急やくもにゆったりと間に合うね。それに乗れば夕方六時過ぎには広島に帰れるから、家で夕ごはんを食べるのにもちょうどいいね。大山から米子駅までは車で三十分から四十分と聞いている。それでは安全運転で米子駅に向かいましょう。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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