みそ文

大黒様の袋の柄

 石畳の参道をずっと歩いてくる間、私が母に「ここの神社はね、私が大山に行く話をしたら、めいちゃんが『それならぜひとも大神山神社に行ってみて』ってすすめてくれたんよ」と話す。めいちゃんというのは広島の実家近所に住む保育園の頃からの友人で、以前大山に来た時にこの参道を歩いたのがすごく気持ちよかったのだと、あの清らかな空気はきっとみそちゃんも好きだと思うから時間があったら行ってみて、と教えてくれた。時間はある。時間は作る。

 その話をしていたから、母は参道の途中でも、山門をくぐったところでも、階段の途中でも、階段を上がりきったところでも、「これはたしかにめいちゃんがおすすめって言うだけのことはあるねえ」と何度も何度も感心する。私は自分もおすすめしてもらった立場であるにもかかわらず、「でしょ?」と自慢する。

 階段を上がりきったところには広い社殿が建つ。帽子を脱いで社殿の中に入る。入って左側にはこの神社の由来を説明する文章が大きな板に書いてある。その奥には牛の像があり、なでたいところをなでるとその部分がよくなるような説明が書かれている。その奥には大国主命(オオクニヌシノミコト)の大きな絵。大きな袋を肩にかけた若き日の大黒様だ。

 後日大山から帰る車中で夫に「私ね、オオクニヌシノミコト、好きなんよ」と話すと、夫は「どの人?」と私に訊く。

「大きな袋を肩にかけた人」
「ああ、七福神の大黒様やな。あの袋は白いん?」
「白いよ。白以外の袋を思いついたことがないんだけど」
「大黒様の袋が緑地に黒の渦巻き模様だったりしたら、イメージがずいぶん違うだろうなあ」
「そんな袋は大国主命のとはちがうっ」
「ところであの袋の中には何が入ってるん?」
「え? 福、じゃないの?」
「あ、なるほど、福、ね」

 社殿の中央には賽銭箱。その奥には畳の部屋があり、部屋の中では説明の音声が流れているようす。私たちはその場で手を合わせて目をつむる。右側の上にはかつてはさぞ色鮮やかだったであろう天女の絵が飾られているが、今はぱっと見には天女とはわからない色あせ具合。そこから出口に近いところには『おまもり』などの販売を行うコーナーが設置されている。

 母は「みみがーに、あれでも一応合格祈願のお守りを買おうかな」と言う。

「ああ、中学受験ね。じゃあ、学業のお守り?」
「うん、でも、あんまり見た目がお守りお守りしてなくてかわいいのがいいなあ」
「うーん、どれがいいかねえ。あ、ここ見て見て。いろんな系統の願いごと別に仕切って分別してあるけど、ここの『願い事全般』のところだけ、ことごとく売り切れてる」
「人情じゃねえ。あ、みみがーにはこれがいいかもしれん」
「手毬みたいな模様じゃね、この鈴みたいなおまもり。みみがーは赤が好きなん? オレンジが好きなん? ピンクが好きなん?」
「みみがーはピンク」
「そうなんだ」
「みみがーに買うとなると、むむぎーにも買わないとねえ」
「むむぎーは受験生じゃないけん、他のにするんじゃね」
「どれにしようかなあ」

 そうして母は二種類のお守りを別々の白い紙袋に入れてもらってお買い上げ。社殿を出て左側へ。大山の登山道と神社の地図を見る。夫はこのルートかなあ、それともこっちのルートなのかなあ、もしかすると下りてきてこのへんでばったり会ったりするのかしら、などと思う。何人もの登山服姿の人とそこここですれ違う。

 背の低い木に蝶が舞う。

 階段をゆっくりと、天と地と、前と後ろと、右と左を、何度も振り返りながら、一段一段おりる。バッグの中の携帯電話が鳴る。夫からの着信。

「はい。どうやらみそです」
「今どこ?」
「神社の階段。これから帰り道、どうかなあ、あと一時間かもうちょっとかかるかなあ」
「別にいつでもいいよ。おれ、宿に戻って風呂入って部屋で横になってるところ」
「あらあ、もう下りてきたんだ」
「そういうわけだから」
「うん、わかった、じゃ、あとでね」

 母に「どうやらくん、もう宿でお風呂に入って横になってるんだって」と伝える。

「あらあ、ずいぶん早いねえ」
「そうなんよ。どうやらくんは最近でこそ、山歩きのペースを落とす目的でデジタルカメラに植物の写真を撮るようになったんだけど、そうするまではひたすらに山頂を目指して歩き続けて、下山の時もたったかたったか歩いて、あまりにも早すぎて疲労がたまる歩き方だったんだって。でも、なんでもいいけん植物の写真を撮るようにしたら、そのぶん立ち止まるけんゆっくり歩けるようになったんだって」
「へえ、そんな写真の撮り方もあるんじゃねえ」
「目的が立ち止まるための写真じゃけん、かわいいなあ、とか、なんだろうなあ、とか、そういう好奇心で撮ってるわけではないけんね、なんかそういう写真なん」
「あとで見せてもらうのがたのしみ」

 私達が宿を出てくる時に、夫が昨夜使った部屋はチェックアウトした形にして空けてきたから、夫は昨夜母と私が過ごした部屋で横になっているはず。お布団のシーツは替えてもらってあるから、きっと快適にお昼寝というか、まだ十時過ぎだから朝寝になるのかな、できるはず。

 母と私は下りの道をまたゆっくりとゆっくりと歩く。道端の何かを見つけてはしゃがんで覗きこみ微細な構造に感嘆する。山門を通り過ぎてしばらくして、あっ、山門の下で神社に向かってお礼を言うつもりだったのに、忘れてた、とずいぶんと遠くなった神社に向かってお礼をする。

 途中で参道から横道に入る。昨夜ライトアップされた金剛力士像を見た大山寺につながる道。大山寺経由で宿まで戻ることにいたしましょう。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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