みそ文

朝ごはんはマンゴープリン

 宿のトイレまで部屋からは廊下を数メートル歩く。トイレ用スリッパに履き替える。昨夜は夜だったからやめておいたけれど、今はもう朝だからトイレの窓を勝手に開けて換気をする。窓に一番近い位置にある洋式便座の個室に入る。トイレを出る時には窓を閉める。

 トイレから出たら廊下の突き当たりにある洗面台で手をしっかり洗う。タイル張りで水道はみっつ排水口はひとつの水だけが出るタイプの洗面台。洗面台にうつむいて口をゆすぎ顔を洗う。口をゆすぐときには毎朝そうするように指のひらで歯と歯茎がキュキュっと音がするまでマッサージする。首にかけたタオルで手と顔の水気をぬぐう。

 部屋に戻ると母は起き上がっている。私は自分の布団を半分に折りたたみ押入れ側に寄せる。母も同じようにする。卓上の急須のお湯があと少しで沸騰する。持参の紅茶ティーバッグをやはり持参の耐熱プラスチックマグカップに入れる。母に「あとで緑茶も入れるけど、今飲むのは紅茶がいい? 緑茶がいい?」と尋ねる。母は「紅茶。紅茶がいい」と言う。卓上の宿の湯呑みにも紅茶のティーバッグを入れる。お湯がぐつぐつぶくぶく沸騰したら急須からお湯を注ぐ。

 持参の豆乳のストローを差し込む部分にいったんストローを差し込む。そのストローを抜く。穴の開いたところを逆さまにしてマグカップに豆乳を加える。母に「豆乳入りがいい? 豆乳なしのストレートがいい?」と問うと、母は「豆乳を入れた紅茶を飲んだことがない」と言う。「じゃあ、私のを一口飲んでみて気に入れば入れて、好みじゃなければなしにしたら?」と提案する。母は私のマグカップの豆乳紅茶を少し口に含み飲み込んでから「豆乳入りにする」と言う。紙パックの豆乳から母の紅茶にも豆乳を入れる。残りの豆乳はすべて私のマグカップの中へ。

 豆乳入り紅茶を飲み、私はサプリメントをいくつか飲む。そうしている間にポットのお湯に携帯湯沸かし器を浸けて、また電源を入れる。携帯湯沸かし器の電源はコンセントを差し込めばオン、コンセントを抜けばオフという原始的な構造で、必ず本体を水かお湯に浸けた状態でコンセントの抜き差しをする。そうしないと安全機能が空焚きと判断し本体が壊れることで電源を切りそれきり使えなくなるようになっているのだ。

 急須の中に宿の緑茶の葉を入れる。ポットのお湯が沸騰したらそのお湯を急須に注ぐ。電源を抜いた携帯湯沸かし器は卓上の布巾の上で乾かす。ポットのお湯が空になったから、厨房でもらってくることにする。そのついでに厨房の冷蔵庫で預かってもらっているマンゴープリンをもらってこよう。

 ポットを持って一階に降りる。「お湯をください。それから冷蔵庫で預かってもらってるものを一部取りたいんですが」と伝える。出してもらった冷蔵品の袋からマンゴープリンをふたつ取り出す。「あ、そうだ、スプーンもふたつ貸してください」とお願いする。スプーンは葉っぱの形をしたお皿にのせてあった。スプーンとマンゴープリンを持ってフロント横の「七夕短冊コーナー(正座して好きな短冊に願いことを書くことができる台)」で短冊の柄を眺める。宿の方が「お湯は沸いたらお部屋までお持ちしますよ」と言ってくださる。「ありがとうございます。では、お願いします」と部屋に戻る。

 母に「朝ごはんにマンゴープリンを食べよう」と言ってマンゴープリンとスプーンを卓に置く。私のマグカップと母の湯呑みを水道でゆすぐ。急須の緑茶をそれぞれのカップに注ぐ。よしよし、渋めにおいしそうに出ている。

 母は「ああ、朝ごはんにマンゴープリンはちょうどいいねえ、うれしい」と蓋のフィルムを剥がしてスプーンで一口食べる。そして「おお、またこれは、なんとも濃いマンゴープリンだ」と言う。どれどれと私も同じように味見する。

「うわあ、ほんとうだ。これは、まさにマンゴー。いや、マンゴープリンだからマンゴーなんだけど、マンゴーの果実がそのままなかんじ」
「マンゴーの実をそのままか、ちょっとだけ裏ごししてカップに詰めただけなんじゃないかと思うくらいマンゴーだねえ」
「マンゴーの果肉自体がもともとこんなかんじだが。ゼラチンか何かを少しは加えて固めてあるのか、マンゴーの果肉を裏ごししたのをカップに入れて冷やしたらこういうかんじになるのか、どっちかと思うくらいマンゴーマンゴーしてるねえ」

 マンゴープリンで甘くなった口に緑茶がおいしい。母がおやつにと持参してくれた『生もみじ』シリーズを食べる。『生もみじ』の姉妹品である『せとこまち』。漢字で書くと瀬戸小町なのかな。八朔ジャムを挟んだやわらかいおせんべい。宿の方が部屋の扉を叩いて「お湯お持ちしました」という声が聞こえてポットを受け取りに出る。新しいお湯で追加の緑茶を淹れる。

 義妹(弟の妻)のゆなさんが「車中で皆さんで食べちゃってもいいし、残りは福井に持って帰ってもろうてください」と私の好きな鳳梨萬頭(おんらいまんとう)(私はなんとなく『ほうらいまんじゅう』と呼ぶ)を母に預けてくれていたものをいただく。

「これこれ。私の大好きな鳳梨萬頭」
「鳳梨萬頭ってどんなん?」
「かあちゃん、食べたことないん?」
「ないと思う」
「そうかなあ、食べたことあると思うよ。見たら思い出すかもよ。見て思い出せなくても食べたら思い出すんじゃないかな」
「うーん。見た目に記憶はないなあ」
「じゃあ、実物を」
「うーん、一個は多いけん、ちぎって分けて」
「はい、じゃあ、これくらいかな(不均等に半分に割る)」
「ありがと。(一口食べて)あ、思い出した、食べたことある。そうそうこんなだった。ご馳走様でした。これって中国か韓国がどこかにもおんなじようなお菓子があるよね」
「そうそう、台湾でよく売ってる。台湾のは中身がパイナップルジャムなのは同じだけど、外側の皮がこんなにやわらかくしっとりとはしてなくて、なんかもっとビスケットっぽくて硬いのが多いかな」
「そうそう、それだ。台湾か」

 朝ごはんはこれくらいでよしとする。あとはゆっくりと歯磨きをする。母は「顔を洗ってこようっと」と洗顔フォームや化粧水などが入ったポーチを持って立ち上がる。私が「ここの洗面台でも洗えるけど、廊下の洗面台のほうが奥行きがあって洗ったりすすいだりしやすいと思うよ」と伝えると、母は「そうする。ついでにトイレにも行ってくる」と言う。

 歯磨きをしながら部屋の窓から大山を眺める。夫は今頃どのあたりを歩いているんだろう。大山、大きいなあ。     押し葉

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Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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