みそ文

快眠環境向上委員会

 大山の夜は暗い。母はいつのまにか眠りの海に完全に飛び込みその海原で悠々と泳いでいる。私は母の実家で夕方たらふくいただいたおいしい緑茶のカフェイン効果で、こんなに眠いのに、身体のカフェインに反応する部位が覚醒していて寝つけない。

 それでも暗闇で身体を横たえているだけで、細胞が細胞として夜間になすべきことを少しずつしてくれているのがわかる。明日は特急やくもと新幹線で広島に帰る母を米子駅まで車で送りに行く以外には、これといって特段の用事はない。気が向けば神社に行こうね、ゴンドラにも乗ろうね、ソフトクリームも食べようか、という程度の流動的な予定は実際にそうしてもそうしなくてもどちらでも問題ないことだ。たとえいま寝つけなくて明日遅くまで寝ていることになるとしても、この部屋は連泊用だからいつまででもいくらでも寝ていてもかまわない。それにだ。そもそもまだ世の中は夜九時半になるかならないかなのだから、大人がこんなに早くから無理に寝る必要はないとも言える。

 最初は部屋の押入れ側に枕を並べる形で布団が敷かれていた。そのお布団にそのまま寝たものの、こうしてなかなか寝つけないなら、この部屋の睡眠環境を快適に整える遊びをしよう、と決める。

 まずそのままでこれまでどおりに寝てみる。窓からの風がどのあたりを通過するのかを身体で感じる。風が主に流れているのは私の足首あたりだろうか。今度は身体の向きを変えて自分の頭を足元側にしてみる。風は私の胸の下あたりにあたるように感じる。ということは、窓から部屋の中央部分あたりに吹き込んでくる風を顔で受け止めようと思ったら、布団全体をもう少し押入れ側に寄せて、もともとは足元側だったほうに枕を置けばいいということかな。

 母が目覚めないよう静かに布団の移動作業を行う。横たわる。目をつむる。息をする。山と木の香りをはらんだ風が呼吸のたびに私の顔に新しい空気を運んでくる。うん、これはいい。しかし、窓が開いているところが一ヶ所だけでは、空気循環としてもうひとつだ。換気は二ヶ所以上開いていることで、室内の空気と外気との循環がより円滑になるものだ。夕方は蜂が入るからと閉めた縁側の窓を開けたらどうかな。

 寝る前に用いた虫よけスプレーを持って縁側の窓を15cmくらい開ける。窓を開けたら窓の上部にスプレーを噴霧する。念の為に部屋のなんとなく四隅かなというあたりにもシュッシュッと。その状態で布団に横になってみる。すると空気に新しい流れができて、なんとも塩梅がよろしい。風は強すぎず弱すぎず、私の呼気を完全に拭い去っては山の空気を運び込む。ああ、完璧。車旅行だからと自宅から持参した自分の枕に頭をのせて、宿の枕は抱き枕として抱きかかえる。ああ、素敵。

 次に気がついたのはまだ少し薄暗さの残る明け方で、でもこれくらい明るければもう虫の心配はしなくていいな、と一度立ち上がり大山側の窓を全開にする。部屋の空気がさらに清浄さを増す。それからまた横になる。そうして深くすこんと眠りの海原に潜る。その海原にたゆたう私が呼吸するたびに山の空気とともに、あれはなにだろう、『山の英気』のようなものが、私の中に脈々と注ぎ込まれる。呼吸で鼻と気道を経由するそれだけではなく、自分の全身がなにか『山の力』のようなもので覆われ外側も内側も洗われそして濯がれる。洗濯の時にすすぎの水が完全に無色透明になるまでじゃぶじゃぶとじゃぶじゃぶとじゃぶじゃぶと濯ぐように。

 この部屋では、別に無理にぐうぐうぐっすりと眠らなくても、いや結果的には緑茶カフェイン効果もおそらく十二時前には切れてぐうぐうぐっすりと寝たのだけれども、この場に身体を置くだけで、そこに横たわるならなおのこと、一般的に『リフレッシュ』と呼ばれるような種類のもののかなり格上のなにかが身体に起こっているのだろうなあ、きっと。なんだか大山はとてつもなくえらいなあ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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