みそ文

脳内妄想バーベキュー

 喉が真っ赤に腫れて痛くて飲食がまともにできなくて脱水症状が心配、という患者さんに処方された薬を調剤してお渡しする。患者さんは六十歳は少しこえているかなどうかなな年頃の男性。ひと通りの説明を終えたところでその患者さんが私に向かって「やっぱり薬を飲んでる時にはお酒は飲まないほうがいいんだろう?」とわかっているけど再確認、という面持ちで尋ねられる。

「はい。やはりお薬を飲むと薬の代謝で肝臓や腎臓に普段よりも負担がかかりますから、薬の効果をしっかり出して副作用は少なめにするためにも、役割を終えた薬の代謝のためにも、喉が痛いのを身体が自力で治そう治ろうとする力を発揮するためにも、アルコールでこれ以上の負担を身体にかけるのは控えることをおすすめします。喉の腫れと炎症と痛みがよくなってお薬飲み終えても翌日翌々日くらいまではお酒は控えてもらったほうがより安心安全です」
「そうかあ。やっぱりそうかあ。でもなあ、こう暑いとビールを飲みたくてなあ。おいしいやろう、暑い日のビール」
「はい、冷たいのをきゅうっと飲むのはおいしいはずですが、でもここ数日喉が痛くてお食事も水分摂取もあまりあできないということでしたよね」
「それが、ビールなら飲めるんやあ」
「ええっ、それは、ええと、ビールのあの刺激が喉に痛くはないですか?」
「痛いんやあ。すごく痛いんやあ。味もいつもよりはおいしくないんやあ。ビール一口飲んでは『いてて』いうて言いながら飲むんやあ。でもビールを飲んで喉が痛いのは我慢ができるんやなあ」
「そ、そうなんですか、ビールお好きなんですねえ。でも炎症がひどいところにむやみに刺激を与えると、やはり治りも遅くなりますから、できれば喉に刺激の少ないトロミのある飲み物や食べ物で水分補給と栄養摂取をまずはしていただきたいですねえ。ビールは治ってからのほうがいいですよ」
「せやんなあ。今週の土曜日にバーベキューの予定があるんやあ。土曜日までに治したいんやけど、治るかなあ」
「ああ、それは喉をちゃんと治して、おいしくビール飲んでお肉やお野菜食べたいですねえ。ぜひぜひ、せめて今日明日明後日くらいで薬が効いて、喉の炎症と腫れと痛みがひくまでは少しだけビール我慢して、まずは治してください。せっかくのバーベキューの時に体調がすぐれないのはたのしくないですしもったいなですもん」
「そうやんなあ」
「喉の粘膜が治るときには、やはり、ビール以外の栄養素もすごく大切ですから、ビールで痛いのを我慢する時と同じくらいの我慢を少しして、食べやすいものを少しずつでも召し上がってくださいね。腫れと痛みと炎症をとる薬を毎食後に飲んでもらっていれば、あまり痛みが気にならない状態で食べたり飲んだりしてもらいやすいはずですから、そのタイミングを狙ってお食事や水分補給してみてください」
「そうかあ。やっぱりビールはちょっとの間やめたほうがいいかあ。そうかあ。そうかあ。そうかあ」
「土曜日のバーベキューのためにも、どうかぜひ」
「そうかあ」

 そんなのねえ、薬の内容にもよるけれど、それなりに薬を飲んでいる人に、最近薬を飲んだり使ったりしたほぼ直後の人に、薬局の薬剤師が「大丈夫ですよー、お酒は思い切り底なしに飲んでくださいなー、いっちゃえ、いっちゃえー、へいへーい」なんて言うわけはないのだ。
 体調がよくなくて薬を飲んだ当日翌日翌々日あたりの飲酒はたとえその時にはもう体調が回復していても可能な限り控えてもらいたいものだ。そのタイミングでの飲酒で何事もなければそれでもよいかもしれないし、たとえ何か不都合があったとしてもそれは自分が飲酒してよいタイミングを見誤ったせいなのだと反省して次回以降にその経験を活かしてもらえるならそれもよい。
 しかしそのタイミングで飲酒した結果なんらかの不都合が生じた時に、その不調の原因を自分が飲んだ「薬」のせいにして「飲酒」のせいにはしない言説に遭遇することはこの仕事をしていればそれは頻繁なのだけど、そんなの薬のせいにしないの、それは自分の身体とよく相談もせずにあなたが飲んだお酒のせいだから、はいはい、いいから、だまってここに来てきちっとしゃきっと正座しなさい、そしてよーく聴きなさい、と私の脳内道場でこんこんと説教すると、だいたいみなさん気持よく納得して帰って行ってくださる。
 私がそれほどひどく暴れることなく、それなりに穏やかに仕事を続けられているのは、この脳内道場の存在と自分の妄想力のおかげなのかもしれないなあ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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