みそ文

水茄子祝賀の宴

 今日から今週水曜日の夜まで、夫は出張で大阪へ。会社の用事で行くのだから出張にあたるのだと思うのだが、彼のこころの大部分を占めているのは、大阪の山用品屋さんでいろいろな山用品を見ること。やはり都会のお店は地方のお店に比べると品揃えが豊富で、あれやこれやと触ってみると気持ちがぷくぷく踊るのだろう。

 出張先での用事の内容そのものは私はあまりよく知らない「非破壊検査」というものに関する資格を取得するために必要な事前の講習の受講であるらしい。夫の勤務先では誰かがその資格を持っていることが必要なのだが、これまでその資格を持っていた社員の人たちが続々と定年退職を迎えるお年頃になり有資格者が減ってきたため、その後任となる人材を育成することになったのだそうだ。

 水曜日の夜は列車の到着が遅いから、夕食も大阪か車中で済ませて、駅からはタクシーで帰ってくるよ、と言うから、はいはい了解、と家庭内連絡。日曜日に出かける時には食材買い出しのついでに車で送ろうか、と言うと、夫は、じゃあよろしくお願いします、と言うので、そうすることに。昨夜予定を訊いた時には「二時くらいには出たいかなあ」と言ってたから、私はそのつもりでいた。

 お昼ごはんに泉州水茄子を二人で一緒においしく食べる。自分で取り寄せた水茄子とは別に実家の両親が夫に送ってきてくれたハムセットの中に生ハムがあり、その生ハムで水茄子を巻いて食べてみたらこれがたいそうおいしくて、ふたりで「うおおおおおっ」と食卓で感嘆する。夫は「これは上等な料亭の季節の一品になるなあ」といたくお気に入り。水茄子を知っている人はもちろんその季節感とおいしさがうれしくて、茄子はふつうに好きだけど水茄子というものをまだ知らない人が食べたときにはきっとさらにそのおいしさに感動するんじゃないかな、と、話す。
 
 ごちそうさまをしたあとで、私はのんびりと歯磨き。しゃこしゃこと歯ブラシを口の中で動かしていたら、夫が「列車一時四十二分なんだけど」と言う。

「へ? 今もう、一時くらいじゃなかったっけ」
「うん、一時になった。ちょっと過ぎたとこ」
「どうやらくん、二時に出るって聞いた気がするよ」
「うん。二時ちょっと前の一時四十二分の特急」
「どうかなあ、私の出かける準備が間に合うかなあ。まあ、無理そうじゃったらタクシーに来てもらったらいいしね。今洗濯機が脱水してるのを干してから出かけたいから、どうかなー、一時二十分くらいには出られるかな、それで列車に間に合うかな、きっと間に合うね」

 ざくざくっと身支度して、脱水を終えた洗濯物を陰干しして出発。駅前まで約十五分弱で到着する私の通勤路を走行。その抜け道のことをあまり知らない夫は私に「どこに連れて行くのか」と問う。「駅よ」と言うと「道がちがう」と言う。

「こっちのほうが早いから、こっちの道で行ってみる。でも、どうかな、間に合うかな」
「みそきちが一時二十分の出発で間に合うって言ったじゃん」
「間に合うんじゃないかな、と予想を言っただけで、実際に間に合うかどうかはやってみんとわからんよ」
「ええー、そんなー」
「別に一時四十二分の列車に乗れんかったときには、次の列車で行けばいいことなんでしょ。今日は大阪に着けばいいだけだよね。あとは山用品屋さんでどれくらいゆっくりできるかが違ってくるだけで」
「それは、まあ、そうだけどさー。さすが王様やなー」
「おかげさまで、今日の誕生日でまたひとつ元気に大きくなったから、王様も大きくなったよ」
「おめでとー、王様ー。ありがとー、王様ー」
「ありがとう、は私が言うほうだと思うけど、私が大きくなったことをどうやらくんもお天道さまにありがとう言うてくれるんならそれはそれでどうもありがとう。それにしても、一時四十二分の列車に乗るのを一時過ぎて私に言ったんじゃあ、それはとっても遅いと思うな。昨日の夜の時点か今朝私が起きたところで聞いてたら私もそのつもりで調整できたと思うけど」
「王様の仰せのとおりでございます。二時頃出たいって言ったらそれで伝わるかなーと思ったんよ」
「二時頃出たいって聞いたら、私は二時に自宅出発のつもりになるよ。私が外出の身支度に時間がかかるというか、慌てて支度するのが得意じゃないことはどうやらくんもよく知ってるのに、どうしちゃったんじゃろうねえ」
「王様は、そこで、自分の支度が遅くてごめんね、とは思わんところが王様の王様たるところやなあ」
「そんなこと思ってもしかたないじゃん。私はゆっくりと支度するのが好きなんじゃもん。早く支度するのはできんというかせんけど、事前にわかってればそれに合わせて早めの時間から支度をするのは上手よ」

 運転しているかんじでは、この調子だと駅前ロータリーに着くのは一時三十五分くらいになりそうだなあと思う。

「もしもさ、ゆっくり切符を買えないときには、改札で駅員さんに言ってそのまま列車に乗ってから、車内で車掌さんから切符を買えばいいね」
「そんなことしたことない。本当にそんなことできるんか?」
「ええー、よく、車内で車掌さんが手持ちの機械でビビビって紙を印刷して切符や指定券の販売をしてはるやん」
「それは、改札で何か証明書をもらうん?」
「どうかな。そうだったかな。口頭だけでもいけたと思うけど」
「そんなん、その人が本当にその駅から乗ってきたんかどうかわからんじゃん。もっと前の駅から乗ってきたやつかもしれんじゃん」
「それはまあそうなんだけど、そこは車掌さんもプロだからさ、いいぐあいにしはるんよ、きっと」
「そんなようわからんシステムはいやだー」
「まあ、大阪までの切符は自動販売機でちゃちゃっと買えるけん大丈夫じゃろうけど、もしもそうする時間もなかったときには、こんな方法もあるからますます安心だね、っていう話」
「王様ー。その話はぜんぜん安心できないんですけど」
「それはね、どうやらくんが昨日か今朝のうちに私に列車の時刻を正確に伝えていたらもっと別の安心があったけど、そうしなかったのはどうやらくんだからね、そこはどんと引き受けてね」
「王様ー」

 夫はきっと内心では、急な外出時であっても、私が夫と同じように簡単に素早く外出のための身支度をすればいいのにな、と思っているのであろうなあ、とは思う。けれど、私は事前にある程度心づもりをしてゆとりをもって支度をしたときのほうが運転もより安全にできるし出かけた先での集中力や体力気力の余裕が大きいから、自分はそういう仕様の機種なのだと割りきって調整して生きている。夫としてはとっさの出発直前であっても素早く身支度して出かけてなおかつ安全運転で集中力と体力気力に余裕を持つことができるならその訓練をしたほうが、彼にとっても私にとっても自由が大なのではないか、そうであるならばそれを推奨したい、そうであるならば妻にはその努力と訓練に励んでもらいたい、というあたりであろうか。

 夫が私に期待しているかもしれないその努力と訓練を私が積極的には行わないことにより、もしもの緊急事態のときに逃げ遅れて助からない可能性が高くなるのであるとしても、そのときはそのときの自分の運と判断と生命力に委ねることにして、普段は自分の好みと体調に合わせた時間配分で暮らすつもり。ただそういう緊急事態もあるかもしれないということは常にどこかで意識して、ときどき消極的にではあっても短時間でとっさの身なりを整える練習はしておこうかなと思う。緊急時には寝間着であろうが全裸であろうがすぐさま避難すべきとは思うが、とっさにささっと何かそれなりの衣類を羽織れるならば羽織ったほうが自分も自分以外の人もお互いにこころやすらかであるだろうなあと思うから、そこはこころがけてみる。そしてそのこころがけを反映した練習の日が今日であったということなのかな。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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