みそ文

そうめん日和

 夏になると、暑くなると、そうめんが食べたくなる。そうめんはにゅうめんで食べてもおいしいし、チャンプルーにしてもおいしいけれど、きゅっと冷やしてちゅるちゅるっと食べるそうめんが、そうめんの食べ方としてはたぶんきっといちばん好き。

 昨夜の夕ごはんはそうめん。夫と二人で三把茹でる。ここ数年、私たち夫婦は、すっかり「ヒガシマルぶっかけそうめんつゆ」のとりこで、もうながいこと自宅ではつけつゆでそうめんを食べていない。昨夜のそうめんの具は、広島の父作のキュウリ。スライサーで太い糸のように切ったキュウリ。それからミョウガ。そして大葉。それと温泉卵を一個ずつとツナ缶を半分ずつ。私はそこにすりゴマをかける。夫はわさびと本当はきざみ海苔もほしかったけど、きざみ海苔を食べ尽くしたのに買ってくるのを忘れていたから昨日はきざみ海苔はなしで。チューブ入りわさびも昨日で使い切ったから、次回の買い出しの時には、わさびときざみ海苔を買うことを思い出したい。

 私が「このかけるタイプのめんつゆだと、具だくさんにできるのが好きなの」と言うと、夫は「つけて食べるつゆだと具だくさんにできないのか」と言ってから「まあ、たしかにつけつゆの中に温泉卵は入れないか」と続ける。「うずらの卵ならあるかもしれないけど、温泉卵はちょっと大きいかな」と私は記憶の中のつけつゆに温泉卵を入れた様子を思い描いてみる。

 キュウリの冷却効果をほどよく感じてちょうどよく涼しくなった私が「今日はそうめん日和だね」と言ったとき、夫は「そうかな、まだそんなにそうめん日和というほどではないんじゃないかな。他の料理が用意されている状態を前にしたときに、頼むから今日はこのご飯ではなくそうめんを食べさせてくれ、と懇願するようになってこそ、そうめん日和と言えるんじゃないか」と言う。

 私はしばらく考えて、これまでの自分のそうめん人生をつらつらと思い返す。それから夫に言ってみる。

「よくよく思い出してみたんだけど、私はまだ、他の料理が用意してある場面で、これじゃなくてそうめんが食べたい、と思ったことも言ったこともないと思う」
「へえ、そうなんだ。それは真のそうめん日和を知っているとは言えないな」
「どうやらくんと結婚してから、まだ一度も、どうやらくんが私に、このご飯じゃなくてそうめんを食べたい、と言うのを聞いたこともないような気がする」
「そういえば、そうやなあ。一回も言ったことないなあ」
「私と結婚する前に、たとえば広島のどうやらのおかあさんが作ってくれたご飯を食べる時に、これじゃなくてそうめんが食べたい、と、懇願したことがあるの?」
「いいや、ない」
「じゃあ、どうやらくんの言うそうめん日和は、いつどこでの話?」
「すんませんでしたっ。そんなこと一回も思ったことも言ったこともありませんでしたっ」
「ということは、今日が私のそうめん日和でも、それはそれでいいんだよね」
「はい。仰せのとおりでございます」

 夫は夏の冷たい麺にはぜひともキュウリがほしい派。私はキュウリも好きだけど、キュウリがなければレタスでもトマトでもワカメでも大満足派。キュウリ派の夫は、夏の冷たい麺の具としてキュウリがないときには、他の野菜を食べながらも「ここにはやっぱりキュウリがほしいな」と少し残念そうにつぶやく。そしてキュウリがあるときには「やっぱりここはキュウリだな」と満足そうにひとこと言う。

 だから毎年夏になると広島の父が畑で作ったキュウリを送ってきてくれるのがたいへんにうれしい。わざわざ買い出しに行かなくても冷蔵庫にキュウリがちゃんとある安心感。そうめんや冷やし中華にキュウリをワシワシと大量にのせて存分に食す至福。

 夏が終わると不思議とキュウリのことはそれほど身体が求めなくなる。キュウリは私の身体にとって安全なお野菜で、ニンニクやネギやタマネギを食べたときのような頭痛や胸焼けがない。一時期キュウリを食べると口の中と喉が「んがんが」とかゆくなってつらい時期があったけれど、そしてそれはメロンを食べた時に現れる症状にも似ていて、メロンとのお付き合いを手放して生きている私としては、ああ、このままキュウリが食べられなくなるのは本望ではないわ、カブトムシだってクワガタだって平気で食べるキュウリを私はヒトとして生き物として食べられるままでいたいの、と、強く強く念じたら、またなにごともなくキュウリをおいしく食べることができる身体になった。だからこの夏もキュウリとの逢瀬を重ねて生きるつもり。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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