みそ文

お茶屋さんでトルコピザ

 茶屋の話の続き。注文した品が出てくるまでのあいだ、お店に置いてある雑誌を借りて読む。夫は『地元のカフェ』を特集したもの。私は『地元の手土産』の特集。
 雑誌に載るおいしそうな写真を見ると夫の空腹が刺激されるらしく、メニューを目の前に置いて「もう一品か二品、何か頼もうか」としきりに言ってくる。

「どうやらくん、出てきたものを見て食べてみて、それでも足りなかったら注文しようよ」
「そうか。そうだな」
「十八年前の今頃は、トルコでむやみに注文して食べきれなくて残してごめんなさいな気持ちになったじゃん。あの頃に比べたら今の私らは賢くなってるんじゃけん。空腹に任せて大量注文する前に、これだけは食べたくて食べきれるという量だけ頼んで、それ以上は食べてもまだ欲しかったときに注文する子に育ったじゃん」
「トルコでそんなに残したっけ?」
「私が覚えているのはパムッカレ(棚田に乳白色の石灰水温泉が流れる風景が有名。当時はその棚田の温泉に水着を着て入浴できた)でお昼ごはん食べた時に頼んだクイマルピデが大きくて、他にもピラウ(ピラフ)やチョバンサラダ(羊飼いのサラダ。きゅうりとトマトと葉野菜が混ぜてあることが多い)やキョフテ(羊肉のハンバーグのようなもの)も頼んで食べきれんかったことかな」
「おれはパムッカレのことはおぼえてないけど、アンカラ(トルコの首都)で二種類のピザを頼んでそれがでかくて両方少しずつ残した記憶ならある」
「じゃあ、きっと少なくともその二回は残したんだよ」
「ピザ、大きかったよなあ」
「うん。大きかった。それにしても私、ピザのことをトルコ語でクイマルピデと呼ぶことを今よく思い出したなあ。もう忘れてるトルコ語のほうが圧倒的に多いのに。クイマルピデなんて使うことないのに」
「そうか? おれ結構おぼえてると思う」
「私ら、というか、私は、旅行に行く前はその国の主な言葉をがあっと短期集中で勉強して中学一年生の英語を修了したレベルくらいにはしてから行ってたじゃん。トルコに行く前はけっこう二人でこつこつ勉強したよね。でも帰国して使わなくなるとこれまたいっきに忘れる」
「おれは当時みそきちに比べたらおぼえたトルコ語の数は少なかったけど、その後忘れたトルコ語の数もみそきちより少ない自信がある。なんなら今一個ずつトルコ語の言葉を順番に出していくゲームをしたらおれのほうがたくさん言葉出せて勝つと思う」
「覚えたものが少なければ忘れたものも少ないのは当然のような気がするけど、でも、まあ、そうなんじゃね。あ、でも、そのゲームする前に卑怯にならないように言っておくとね、私、最近、インターネットで画面上に不定期にトルコ語語彙が表示される機能というかサービスというか、タダなんだけどね、を利用して地味に勉強というほどじゃないけど勉強っぽいこと続けててトルコ語見る機会があるけん、旅行当時におぼえたのとは別の新しい語彙がけっこう入ってると思うよ」
「うっわー、あぶねー。それ知らずにゲームして勝つ気満々で『おれが負けたらここの食事代全部おごるわ』とか言うところやったわ。それにみそきちが最近新しく覚えた言葉を出してきてもそれが本当に正しいトルコ語なんかどうかなんておれには判別つかんじゃん」
「うん。その語彙表示サービスではトルコ語とブルガリア語とペルシャ語に同時にお世話になってるん。私もどの語彙が何語なのかはっきりおぼえてるわけじゃないけん、トルコ語語彙出しゲームなのにブルガリア語やペルシャ語が私から出てきたとしても、それがトルコ語じゃないことが私にもどうやらくんにもわからんけんこれはゲームとして成立せんと思う」
「あぶない、あぶない、へんな試合に挑まんでよかった」

 その後注文した品が運ばれてきておいしくきれいにいただく。この「おいしく」そして「きれいに」具体的には「残さず」いただくというのは、外食における私の満足感を大きく左右する。自分が注文したにもかかわらず、おいしいにもかかわらず、食べきれなくて残すことは不本意であるし、無理して食べればお腹と身体が苦しくなり不調になりこれもこれでやはり不本意。自分の身体にとってちょうどよい量でなおかつきれいに食べきった状態がもっとも満足度が高い。

「ああ、お腹いっぱい。ごちそうさまでした」
「おれはまだなんか最後に甘いもので味を完結させたいなあ」
「どうぞ、食べて。私は無理」
「よもぎだんご注文したら、その半分なら食べる?」
「無理。がんばったら一本はお手伝いできるかもしれんけど、それ以上は無理」
「うーん、五本のうちの四本を食べるのはおれも無理やなあ。白玉ぜんざいは?」
「白玉一個とぜんざいをさじに二口なら」
「おれもそれくらいかその倍くらいがいいんだけどなあ、無理かあ。わかった。帰ってからうちの冷蔵庫にあるハーゲンダッツのアイス食べる」
「うん、それがいいね、きっと」

 それから自宅に戻る。日が長いと食事して帰ってきてもまだ明るくてなんだか余裕のある気持ちになるね、と話す。それから家の中で過ごす格好に着替えてくつろぐ。夫に「アイスは?」と訊くと「少し休憩してからにする」と言う。それから数時間の間、ふたりとも特に何も食べないまま世の中は暗くなる。その後夫が歯を磨き始めたのを見て「あれ、アイスは?」とまた訊く。夫は「やっぱり必要なかった。お腹いっぱいじゃけんこれ以上は食べんほうがラク。このまま寝る」と言う。そうだろう、そうだろう、味の完結として甘いものが欲しくなる気持ちはわかるけど、それを食べようと思ったら食事本体の量を減らして甘いものに備えるか、甘いものが最後に少量だけついてくるようなセットメニューを所望する、あるいは注文した品を一部分け合って食べてくれるようなメンバーが整った状態で行くなど、事前の工夫が必要だもんねえ、と思う。

 あの茶屋には、また今年のあじさいが色とりどりに咲く頃に、今度はよもぎだんご(きな粉かけのものと、きな粉と黒蜜がかけてあるものの二種類がある)もしくはわらび餅と白玉ぜんざい(温と冷とある)とお茶をいただくことを主目的に行こうと思う。たのしみ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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