みそ文

茶屋とコットンマフラー

 「神は細部に宿る」の話を書きかけたのが途中ではあるが、今日の話。夕方食事に出かけようと車のところまで来てから、私が「あ、髪の毛束ねるか留めるかするものを持ってくるのを忘れた」と気づく。夫は「車の中になんかあるんじゃないん? それとも家に取りに帰ってくる?」と言う。

「うーん、車には何もそれっぽいものはないねえ。取りに帰るのは面倒臭いなあ。かといってこのままでは食事するときに髪の毛が垂れてきて邪魔だしなあ。あっ、そうだ。今、私が首にかけてるコットンマフラーをリボンみたいに使ってなんとかできるかも、できそう。ああ、よかった。くうっ、私、お利口だねえ」
「本当にお利口な人は、自分に必要なものは忘れずに持ってくるんじゃないかなあ」
「まあ、そういうお利口もあるけどね、何か不都合な事態が生じた時にその問題を解決するなり折り合いつけるなりできるそういうお利口さが重要だと思うんよ」
「はい、はい、そう思ってたほうがしあわせなのはそのとおりじゃろう」
「だってね、私の場合は、忘れる、というのは標準仕様というか、なにかと頻繁に忘れるのが前提じゃん、その前提がある中で忘れんようにするのはまあそうするけど、それで忘れたからといっていちいち取りに帰るよりも手持ちのもので工夫できる方が自由が多いと思う。取りに帰る選択肢も選べるけど手持ちのもので対応する選択肢もある自由」
「王様ー」

 そうして。もう少し季節が進んだら紫陽花が満開になる山の茶屋に着く。首に巻いていたコットンマフラーを外してまずは髪を束ねてみる。マフラーがするりと滑って落ちる。
 それならと後ろ髪の生え際からマフラーの両端をおでこの上にまわしてきて前頭部で結んで、『魔女の宅急便』のキキが髪の毛を軽く上げているようにしてみる。これなら少しくらいうつむいても横の髪が前に垂れてこない。

「見てみて。髪の毛うまくまとめられたよ。ほら、横の髪も落ちてこないよ。見た目的に問題があるかどうかは別にして」
「大丈夫。見た目は問題ない」
「大丈夫かな。こういうファッションなんですね、と思おうと思えば思える範囲かな」
「うん。思おうと思えば思える。思おうと思わなくて思える」
「そっか。ならよかった」

 店員さんが注文を聞いて料理を運んで来てくれる以外には私たちの他に誰もいない茶屋で解決した髪の毛問題。コットンマフラーを首に巻いて出かけた私はお手柄だったなあ。

 もしもそのコットンマフラーがなかったら、今日の私の身なりとバッグの中にはもう紐状のものもゴム状のものもない。そのときにはどうしていたかなあ。お店の人に頼んで輪ゴムをひとつ分けてもらう方法もあるけど。スカートの上から腰に巻いているスカーフでほっかむりするという方法もあるか。もともとこのスカーフはトルコで買ったもので、トルコの女性が当時(私たち夫婦が新婚旅行で訪れた当時、十八年前)はこういうスカーフで頭全体を覆っていて彼女たちはその姿で食事をしていたのだから、使えるはず。私の見た目が自然か不自然かは別として。『なんだかこの人(私)すごく顔の彫りが浅いけど頭を布で隠しているということはイスラム教徒の人なんかもしれんね』と思おうと思えば思える人の想像力に期待しよう。首巻きとスカーフは大抵の場合身に着けているから、今後もしまた髪留めを忘れても慌てず自分の身辺をよく観察してみよう。だいたいなんとかなりそう。それでなんとかならなくても他のことでなんとかできればそれでいいし。私の前途は洋洋。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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