みそ文

刺し網ぼんてん

 昨夜夫が私に「大川からのメールで、韓国語を訳してもらえないでしょうか、って頼まれてるんだけど」と私に言う。大川さんというのは夫の元同僚というか同期入社の仲間で、大川さんはその後退職して現在は故郷で別の仕事に就いている。私が「短くて簡単なものならいいよ」と答えると、夫は「じゃあ、そうメールしとく」と言う。

 今日の夜になって夫が「大川からのメールの韓国語来た」と言う。

「じゃあ、私に転送して。見てみて翻訳文書くから」
「転送する必要はないと思う。おれのパソコンの画面で見てくれたら。文書じゃなくて画像だし」

 夫のパソコンの画面には、なにやら赤い旗のようなものの画像が。たしかにその旗のような布に書かれているのはハングルだが。

「なにこれ」
「いや、それがなんかわからんから教えてほしいらしい。なんなんやろうなあ。大川の説明では、ゴールデンウィークに鳥取県に旅行に行って海岸線を歩いていたら『密入国は絶対ダメ』っていうような看板があって、あやしいなあ、と思ってさらに歩いてたらこの韓国語の書いてある赤い布を見つけたって。竹には根っこも付いています、って書いてある」
「竹? ああ、旗をつけている棒の部分が竹なのね。根っこが、ほうほう、なるほど付いてるね。でも知りたいのはこの赤い布に書いてある文字の意味なのね」

 ハングルは表音文字なので音をとって読むこと自体はハングルが読めさえすれば読めるのだが、その意味がわかるかというとそういうわけではない。とりあえず書いてある文字を音読するが、私が使う韓国語彙としては馴染みの少ない言葉のようだ。

「うーん、なんだろ。この大きな文字の最後の『ホ』は一号二号だとか船の名前なんかについてる号だと思うんだけど、あと沿岸なんちゃらとか書いてあるけん海関係のなにかかなあ。辞書を持ってくる前に、グーグル翻訳にかけてみるね」
「うん、うん」
「でもさ、大川さんもハングルの読み書きは勉強したことあるんだから、グーグル翻訳使うのは私じゃなくて大川さん自分でもできるよね、きっと」
「でも、大川はそんなにそこまではできんと思う。まあ、やってみて」

 グーグル翻訳の元の言語を韓国語に設定する。赤い布に書いてある文字を順番に入れる。うーん。日本語翻訳部分にはハングル表記そのままの音がカタカナ表示されるだけだなあ。ということは固有名詞か地名かしらねえ。そうして順に入力していたら『沿岸刺網』という日本語が表示される。夫が「あっ。刺し網だ」と言う。

「なになに? 刺し網ってなんなん?」
「漁の方法のひとつ。こう網を海の中にぐるうっと浮かべるんだけど、それこそグーグルで検索したら?」
「わかった。とりあえず書いてある文字を最後まで入力してみるね」

 そのあとの文字はすべてカタカナで表記されるから、これらはきっと固有名詞地名人名ね、と判断する。そして沿岸刺し網という語彙から、ホはやはり海関係船関係の号であろう、ハンは港のハンだね、と判断する。それから『刺し網』を検索する。

「ひゃあ。刺し網ってこんな漁法のことなのねえ。あっ、見てみて。ほら、この説明の絵のここに付いてる赤い旗、大川さんが送ってきた画像と似てるよ」
「どれどれ、ほほう、ほんまや、もろそのものやなあ」
「ええとね、この赤い旗は『ぼんてん』っていうものなんだって。刺し網漁の網の持ち主などを示す標識だって。へえー。刺し網なんて言葉、日本語でもその言葉と意味を知らないのに、韓国語で知ってるわけないじゃんねえ」
「刺し網は知ってたけど、ぼんてんは知らんかった」
「ということは、この最初の文字は港の名前、その横は沿岸刺し網、その下の大きい文字が網元さんかな船主さんかなの船の名前ね、その下はたぶん個人の名前だと思う、イ・ジョンファンさんかな、その下の数字の番号はなんだろ許可番号か識別番号かなんかそんなんかな。港の名前は漢字で書いたらこうらしいよ(その地名を検索したら出てきた漢字)。へえ、慶尚北道のこのあたりにこの港はあるのねえ(韓国地図を眺めながら)」
「へえ、この位置からなら、まあいろいろ流れてくるわな」
「いやあ、刺し網って初めて知ったわあ、ぼんてんも」
「この標識の旗を網のブイにくっつけて浮かべとくんやろうな。網の所有者がわかるように」
「で、大川さんの画像のやつは、それが漂着したものなんじゃね」
「へえ、そういうことなんやなあ。ありがと。じゃ、メール書くわ」

 そう言って夫は大川さんに「これは『刺し網漁』の『ぼんてん』という標識で、それぞれの文字は港の名前、沿岸刺し網、船の名前、個人の名前、の順のようです」という意味のメールを書いて送る。しばらくしてから夫が「大川からまたメール来た。ありがとうございます、だって。すぐに読めるだけじゃなくて意味までわかるなんてすごいですね、って書いてある」と言う。

「いや、だから、すぐには意味はわからんかったじゃん。私、刺し網がなんのことか知らんかったし」
「おれは刺し網は知ってた」
「でも『ぼんてん』は初めて知ったね」
「うん。それからメールにはこう書いてある。『素材がしっかりとしたビニール製のものだったので北側ではなく南のものだろうとは思いましたが、暴風雨で飛ばされた道路標識か何かかと思っていました』」
「道路標識に竹とビニールは使わんやろう」(夫と私二人同時に言う)

 本日の学習。『刺し網』という漁法がある。その刺し網漁で用いる標識の旗の名前は『ぼんてん』。そして切った竹は水に浸けておくと根を生やす、の、か、な?     押し葉

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Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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