みそ文

バイバイの理由

 数週間前の日曜日。週に一度の食材買い出しに近くのスーパーに出向く。買い物を終えて、買い物袋を夫と私で一袋ずつ肩にかけ、出入り口に向かう。

 スーパーの自動扉の外側で小さな女の子がジャンプする。女の子は同行のご家族よりも早くかけってドアの前に来て自分で扉を開けようとしたけれど、彼女の身体が小さいからなのか、自動扉のセンサーが彼女の存在を感知しないようで、いくら跳んでもドアが開かない。
 私が同じドアの内側から外に出ようとしたところでその女の子の様子を見て、今日の自動扉は開きにくいのかしら、と少し思い、自動扉が開きやすいように、片手を少し高い位置でひらひらとセンサーにかざす。
 自動扉はすぐに開く。
 小さな女の子が私に向かって何かを言う。
 その後ろから、女の子のお母様と思われる女性が「すみません。ありがとうございます」と言われる。
 私は「いえいえー」と軽やかに会釈して去る。

 駐車場に置いている車まで歩く間に、夫が私に「さっきの子、なんて言ったん?」と訊いてくる。

「あ、あれね、あの子が小さくて自動ドアが開かんかったけん、私が高い所で手をひらひらっとセンサーにかざしたらそれを見て、『なんでバイバイすんの?』ってあの子が言ってね、それを聞いたお母さんが私に『すみません。ありがとうございます』って言わはって、それで、いえいえー、って言ったの。それからおかあさんはあの子に『今のはバイバイとちがうよ。自動ドアが開きやすいように助けてくれはったんよ』って説明してた」
「なんでバイバイ、って、どういうことやろう」
「私が自動扉のセンサーに手のひらをひらひらとかざしたのがバイバイの形に見えたんじゃろうねえ。でもあの子にとっては、私は面識のない初対面の相手で、しかも今出会ったばかりで、バイバイするような間柄でも状況でもないのになんでやろ、と思ったんじゃないかな」
「小さくてもとっさにそういう状況や関係性の把握ができるあたりに脳の成長が感じられるなあ」
「そうだねえ、ほんとうにねえ」
「それにしても、『なんでバイバイすんの?』って、初対面の相手をいきなり問い詰めるのは、ええツッコミやなあ」
「疑問に思ったことはとりあえず訊く、というのは、大切なことよね。あれがもう少し大きくなると、訊く相手やタイミングや言い方を社会的に微調整するようになっていくんじゃろうね。私も小さい頃といっても、小学校高学年かな、それくらいのときに、町の眼科に通うのにバスに乗って行ってたんだけど、当時は車に酔いやすくて、そのバスで酔ってねえ、うう気持ち悪いと思いながらうずくまるかんじで眼科の玄関に立ったときに眼科の自動ドアが開かなくて、体重を感知してないから開かないのかな、と思って、ドアマットの上でぴょんぴょん跳んだことがある。バスに酔って気持ち悪くて吐きそうなところで跳ぶとその振動でさらに吐きそうでもっと気持ち悪くなってつらくて。そしたら眼科の受付の人が、自動ドアが開かないときには少し高いところに手をかざしたら開くって教えてくれて、それ以来、自動ドアが開かない時には、ささっと手を上にあげるようになった」
「ああ、自動ドアはなあ、センサーに反応するからくりは、小さい頃は知らんもんなあ。当時は田舎には自動ドアなかったしなあ」
「うん。自動ドア、昔は今ほど多くなかった、というか、商業施設や医療機関や今なら自動ドアがついているような建物自体が少なかったもんねえ」

 大きくなるということは、いろんな町のいろんな施設のいろんな自動ドアやいろんな形式の扉に馴染むということでもあるのだなあ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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