みそ文

蟹と結婚記念お小遣い

 五月の下旬頃だったかに、私が義母に何かの用事で携帯のショートメッセージ(電話番号宛に送信するの)を送った。そのとき、あれこれ近況報告をしあったあと、私がふと「そういえば、おかげさまで五月二十三日に結婚記念日を迎えて、結婚十八年目に入ったんですよ、これからもどうぞよろしくお願いいたします」というような内容を送った。義母は「もうそんなになりますか。おめでとう。これからもよろしくたのみます」と返信を送ってきてくれた。

 そして、お盆に帰省したときに、義母が私を「みそさん、みそさん」と手招きして呼ぶ。「はい、はい、なんでしょう」と私が義母に近寄ると、義母はなんとなくこっそりと私に封筒を差し出す。

「みそさん、結婚十八年なんじゃろ。すごいねえ。ありがとうねえ。おめでとう。なんかいいものを買うてあげられりゃあいいんじゃけど、何がいいかわからんけん、これで何かみそさんのほしいものを買う時の足しにして」
「ええっ。おかあさん。えーと、まず、この前の五月の結婚記念日は、結婚十八年目を迎えたところじゃけん、結婚十七周年記念じゃったんですよ。結婚十八周年はまだ来年」
「それでも、十七年でも十八年でもすごいことよ。夫婦がずっと仲良くおるのは、そんなに簡単なことじゃあないんじゃけん」
「でも、でも、おかあさん、それじゃったら、おかあさんとおとうさんの方がずっとすごいじゃないですか。私らよりもずっとずっと結婚の大先輩じゃと思う」
「あっはっはー。私とおとうさんは、なんとはなしに、気がついたら、長いこと、一緒におるだけじゃけん。でも、みそさんは、ずっと仲良うにしてくれるじゃろ。じゃけん、ほんまにありがたい思うんじゃ」
「何を言いようてんですか。ありがたいのはこっちのほうですよ」
「ほいじゃあ、お互いにありがとう、いうことで、これね」
「いやいや、おかあさん、お互いなのに、私だけが貰うとるじゃないですか」
「ええけん、ええけん、息子には言わんでいいけん、みそさんが一人で好きなものを買いんさい」
「いや、そういうわけには」

 と話していたら、義父のお店(理髪店)で義父とお客さんの囲碁の勝負を見学していた夫が店から家に戻ってくる。義母は『あ、まずい』というような表情をして「じゃあね、みそさん」とその場を立ち去ろうとする。
 私は「待って、待って、おかあさん。どうやらくん、あのね、おかあさんがね、私らの結婚記念のお祝いにいうて、ずっと仲良しでおるけんいうて、お小遣いをくれちゃったんじゃけど、いいんじゃろうか」と、義母と夫と両方に話しかける。
 夫は「なんで、また、そんな」と言いかけるけれど、義母が「ええけん、ええけん、ええんじゃけん。みそさんになんじゃけん」と言い張るから、夫も「じゃあ、もらっといたら」と言う。
 私は「うーん、いいんだろうかー」と一瞬だけ途方にくれて、「では、ありがたくいただきます。おかあさん、ありがとうございます。大切に使います」と両手で封筒を丁寧にぎゅっと持つ。

 義母は「じゃあね。おめでと」と言ってさっさといなくなる。
 夫に「本当にいいんじゃろうか。結婚十八年目に入ったけんいうて、嫁がおしゅうとめさんからお小遣いを貰うなんて、そんな文化、聞いたことないんじゃけど」と言うと、夫は「結婚二十周年とかなら、まだ、キリがよくてもらいやすいけど、十七周年で十八年目でって、そんな中途半端な」と、私の問いへの答えになっていない感想を述べる。
 私は「じゃあ、このお金は、また寒くなったら、おかあさんの好物の蟹を買って送るとき用に取っておこう」と提案する。義母はいろいろ好きだけど、メロンと蟹は特に好きだから。
 夫は「うん、じゃあ、そうしよう。でもなんか、まるで、おれがみそきちに世話になってるお礼のお金を払ったみたいなのが、なんだかなあ」とやや不満気。

「いや、まあ、たしかに、私はどうやらくんのことをよくお世話してるとは思うけどね。でも、それで、おかあさんから何かお礼をしてもらおうなんてことは全然思ってない」
「世話してるってなにを」
「それは、まあ、いろいろ。たとえば、毎晩寝る前に、また明日ね、って無事な再会を願いながら、きゅっきゅって抱きつくのとか」
「あれは世話か」
「世話ではないのかなあ。好意を前提に、双方が快適な範囲で、能動的に働きかけるのは世話ではないのかなあ。あ、でも、もちろん、どうやらくんも私のこといっぱいお世話してくれてると思うよ。それじゃけんかどうかはわからんけど、私の実家の人々は、どうやらくんに対して、なんというか、結婚してからずっと、何かと、どうやらくんに貢ぐ傾向があると思わん?」
「おれへの貢ぎ物、みそきちが食べられんもの以外、ほとんどみそきちも食べてるんですけど」
「だって、どうやらくん一人じゃ全部食べきれんじゃろ。ふたりで一緒に食べたほうがおいしいじゃろ。それはともかく、たぶん、どてら(私の実家の苗字)の人たちも、いまさら娘(や姉)を返されても、こっちもいろいろ困りますんで、そのへんそのつもりで、わかっとるよね、よろしく、くらいの礼金感覚は、深層心理のどこかにあるんじゃないかなあ。そう思ったら、おかあさんの気持ちも、まあ、なんとなく、わからなくはないかなあ」
「納得はできんけど、まあ、蟹を送るということで。蟹、蟹」
「うん。おかあさん、蟹、好きじゃもんね」

 あともうふた月ほどで、蟹漁が解禁になる。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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