みそ文

爪の先を紫に染めて焼きナスを

 中学生のときに習った沖縄の歌の中に「てぃんさぐぬ花や、ちみさちにすぃみて(ホウセンカの花の色が、爪の先を赤く染めて)」という歌詞がある。
 その後、大人になってから、韓国に旅行する機会があったときに、地元の大学生の女の子たちが、ホウセンカの花の色素で指先を赤く染めるおまじない文化を紹介してくれた。その色は数日のうちにだんだんと薄くなり、一週間もすれば取れて消えてしまうのだけど、わあ、ほんとうに、こんなに深い紅色に染まるんだあ、沖縄のあの歌のとおりだなあ、と思う。

 私が夫と結婚して、まだ間がない頃の秋の季節、今日は焼きナスを作って食べるぞ、と決めて、夫に「今日は焼きナスよっ」と、少し張り切って告げる。
 夫は、私の張り切り具合とは裏腹に、えっ、それはちょっと、というような表情をして、「焼きナスは面倒くさいから、あんまり得意じゃない」と言う。
 焼きナスが面倒くさい、という意味が私にはよくわからないけれども、私は焼きナスが好物であるし、その日は焼きナスが食べたかったから、「ふうん。何が面倒くさいんか、ようわからんけど、とりあえず私が食べたいけん作るね」と言って、焼きナスを作る。

 ナスの首のところにぐるりと一周包丁で切れ目を入れておいてから焼き始める。焼きあがったナスの皮をむく時にはこの包丁の切れ目のところに爪をひっかけてすうーっとむく。当時は、私の実家でのやり方に習ってそのまま、コンロの上に焼き網を置いて、何度もナスをくるりくるりとひっくり返しながら、皮全体が少々焦げ気味になったかな、というくらいを目安に焼いていたのだけれども、その後はグリルで焼くようになったから、そんなにつきっきりでのお世話はしなくてよくなった。我が家のグリルは片面焼きだから、ナスの表側の皮がしんなりパリパリっと少し浮くかんじになるまで焼いたら、裏側にひっくり返す。裏側の皮もしんなりパリパリっとやや浮き気味かつちょっと焦げ感もあるかな、くらいになるまで焼いたら、今度は側面を同じ要領で焼く。

 焼きあがったナスはあつい。お皿の上に並べてしばらく冷ます。触ってもあつくないくらいになったら、両手を使って皮をむく。ほんの少しこげたかんじになった部分の皮をむくと、中のナスからちょっとだけ栗のような甘い香りが立ち上る。
 そのままお皿にのせて、箸でつかんで、べろーんとかぶりつくのもおいしいけれど、その日は、焼いて皮をむいたナスを包丁で一口大に切った。そこに花カツオを散らす。

 夫に「できたよ。食べよう」と声をかける。「お醤油か出汁醤油か、あとおろし生姜も、お好みでね」と説明する。夫は「あれ。焼きナスなのに、食べればいいだけになってる」と驚く。

「食べればいいだけ、って、焼きナスは、食べればいいだけの食べ物だと思うよ」
「いや。うちのかあさんが作ってた焼きナスは、食べればいいだけじゃなかったから」
「どういうこと?」
「皮のついたナスを丸ごと焼くじゃろ。それをそのままお皿にのせて、それぞれに出すから、焼きナスの皮は各自でむかんといけんかった。そのナスの紫色が指の先と爪の間につくけん、それが面倒くさいなあ、とずっと思っとった」
「そ、それは」
「皮むくのが面倒くさいと思って、皮ごと食べようとしても、焼きナスの皮って、他の時と違って、ちょっと焦げとったりして、なんかかたいじゃん、スジっぽいというか。それがまた食べにくくて面倒くさいなあ、と」
「焼きナスを焼いただけの段階で食卓にあげることは、思いつかんかった。うちの実家では、焼きナスは皮をむいてから出すものだったから、そういうものだと思い込んでた。家家によって、いろんなやり方があるんじゃね」
「でも、この焼きナスなら食べればいいだけじゃけん食べやすい。これならまた食べたい」
「うん。焼きナスおいしいじゃろ」

 義父はナスが好物だから、一度、この皮をむいてある焼きナスを作ってあげようと思うのに、帰省したときには、別のものを作ってつい、焼きナスのことを忘れる。今は義実家は家を建て替えて、キッチンのグリルもIHの両面焼きになって、簡単にできるはずだから、忘れずに作りたいなあ。
 いや、もしかしたら、実はもう何度か作っていて、おいしいと喜ばれたのに、そのことを私が忘れているのかもしれない。どっちなんだろう。

 そして、この夏は、実家の父が畑で作った夏野菜が豊作で立派で、いろんな野菜をたくさん分けて送ってもらった。送ってもらうたびに、大半のナスを揚げだしナスにして、ぱっくぱっくと食べる。
 今日、クール宅急便で実家野菜の詰め合わせが届いた。ナスはもうこの夏最後のナスになるだろうとのこと。では、と、なんとなく満を持したかんじで、焼きナスを焼く。
 久しぶりだけど、いつものように、グリル(片面焼き)でナスの片面がこんがりとなったら、ひっくり返して裏面を焼く。裏面もこんがりになったら、今度は側面を焼く。ナスの甘い香りが漂って、焼きナスの至福の時が流れる。

 いつもなら、この状態でそのままいただくのだけれども、今回は、焼きナスは冷蔵庫で冷やしてから食べたほうがおいしいものだということを習ったから、なるほど、そうか、たしかにそうだ、そのままでも充分おいしいけれど、残った焼きナスを一晩冷蔵庫で保存して翌日食べたのがおいしいのは、だからだったのかと納得して、早めに作って冷蔵庫で冷やす。
 冷やしたほうがおいしいのは、焼きナスだけではなくて、実はポテトサラダもそうだったらしい。それもたしかに、その夜のうちに食べきれなくて、一晩冷蔵庫で保存したポテトサラダのほうがおいしくて好きだなあ、とまえから思っていたから、そうかああっ、と気づいてからは、ポテトサラダも冷やしてから食べるようになった。おいしい。

 ところで、さきほど焼きナスを焼いたガスコンロのグリルを使い終えて洗っていたら、グリルの手前の引き出す取手が付いている小窓のある部分の周りのプラスチックに亀裂があることに気がついた。
 むむう。たしかに、もう十年以上使っているものだから、経年劣化もあるだろうなあ。この部分だけ部品として新しく買うか、それともガスコンロそのものを新しくしようか、迷うなあ。     押し葉

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Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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