みそ文

山の上の郵便局

 今週の月曜日の夜、夫が仕事から帰宅した時に、いつものように郵便受けから郵便物をまとめて持ち帰ってくれた。「ありがとう」と受け取って、夫とわたしそれぞれの宛先に分類し、不要なものは捨てる。
 そのとき夫が「明日は、みそきちどんさん、郵便受けを見たほうがいいよ」と言う。

「見たほうがよいとはどういうことだ。よからぬ知らせの予定があるのか。もしや、ここのマンションの退去勧告でも出るのか」 
「いや、それはない」
「だったら、どういうことなのだ。早く知ったほうがよいことなら、これからすぐに郵便受けを見に行くが」
「今は、郵便受けにあるのは、全部持って帰ったから、郵便受け、からっぽ」
「うわー。郵便受けで何を見つけろと言うのだ。もったいぶらずに、どういうことなのか教えたほうがいいと思う」
「土日に登った白山で、山頂の郵便局から出した絵葉書が、たぶん明日届くから」
「はあーっ。なんだー。そうかー。それならたのしみに待てばいいけん、よかったー」

 火曜日の午後、我が家の郵便受けの中に、白山山頂郵便局(季節限定出張所と思われる)の「白山山頂」という消印が押された絵葉書を見つける。
 消印なのに、スタンプのように巨大だ。丸の中に白山と思われる山と、その手前に高山植物と、そのとなりに登山者の全身が描かれ、日付と「石川白山山頂」の文字が入っているから、円の直径は約3.5センチ。
 葉書そのものが長方形ではなく白山の山の形をしていて、白山の山の風景がそのまま写真として印刷されている。だから葉書の上側は、山の稜線の波形を描いている。
 山の写真の左下に「白山 大汝峰より御前峰・剣ヶ峰・翠ヶ池を望む」と印刷されている。山の写真の右下が宛先欄。切手は定形外の120円。
 裏側には罫線が引いてあるが、夫が記入した文字は「本日(8月6日)は、7:00出発、13:00山頂着でした。」のみ。朝七時に出発したのは自宅だから、我が家から白山はわりと近い。
 あとは、広大な余白に、国立公園白山登山記念のスタンプが二種類ぽんぽんと。右側のスタンプには「霊峰白山山頂より暑中御見舞い申し上げます」と書かれている。
 葉書裏側の右下には、ユリのような花の絵(細密画のようなイラスト)が印刷されている。表の山の写真はカラーだが、こちらの花の絵は白黒なので、何色なのかがわからない。

 火曜日の夜、帰宅した夫に、「葉書ありがとう。届いたよ。山の形だったよ」と伝えて、実物を見せる。
 夫は「へえ、切手の消印、ちゃんと白山山頂って書いてあるんやあ」と感心してから、裏側に描かれているユリのような花を指さして「これがクロユリ。いっぱい咲いてる。富士山とちがって白山は高山植物を眺めながら歩けるのがたのしい。クロユリはあまり背は高くなくて、低いところに咲いていて、おお、いっぱい咲いてるなあ、と思いながら見てるのに、そばにいたおばちゃん(登山者。推定六十才代)がおれに向かって『ほら、ほら、ちゃんと見て、これがクロユリよ。ほらもっとちゃんと見て』いうて何回も言うてた」と話す。

 自分が旅先から家族に宛てて送った郵便物は、やはり自分ではなくて、家族に郵便受けの中に見つけて受け取ってもらいたいものだよな、と思う。
 それから、夫が白山で撮影してきたデジタルカメラの画像十枚くらい(一泊二日だがそれが全て)を何度か見て、クロユリのおばちゃんが夫にしつこくクロユリを見ろと言っていたのは、夫が白山自慢のクロユリをちっとも写真に撮っていないからだったのかもしれないなあ、と思った。     押し葉

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Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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