みそ文

走ってわかって世界平和

 妹夫婦が我が家に遊びに来る前に、義弟が電話をかけてきて、今回の北陸旅行では「金沢の兼六園」と「北陸の温泉」をできればコースに入れたいので、その方向でよろしく、と連絡をしてきた。がってん承知で快諾する。
 そのときに義弟が「おにいさんは、富士山に行くのに、何かトレーニングをしているのか」と訊くから、「うん。週に何回か、家の周りを十五分かな二十分かな、それくらいジョギングしてるよ」と話す。
 義弟が「おれも、ほとんど毎晩、サウナスーツを着て走りようるんじゃ」と言うから、「そうなんじゃ。でもなんでまたサウナスーツ?」と訊いたけれど、義弟は「まあ、詳しくは、そっちに行ってから話すよ」と言うから、「うん、わかった」と電話を切る。

 まだ富士山に出発する前の夫に、「もっきゅんね、毎晩、サウナスーツを着て走ってるんだって」と話すと、夫は「へえ、そうなんや。なんでやろ。もりおかくん、ダイエット目的やったら、走るよりも山に登ったほうがええぞ、いうて言うといてあげて」とわたしに言う。
 
 夫は富士山登頂に向けてのトレーニングとして、夜間のジョギングだけでなく、ほぼ毎週末のように近場の山に登っていた。そして、山から降りてきて帰宅すると、巻尺を取り出して、必ず腹囲を測る。
 毎回計測しては、「山に登ると、腹回りがどんどん痩せるなあ」と、たいそう満足そう。
 そして、「もしもメタボ対策だとかダイエット目的ならば、下手に走るとか、食事制限するとか、スポーツジムに通うとか、そんなことをするよりも、頻繁に山に登ったら、それで痩せられるから、みんなそうしたらいいのになあ」と言う。

 その後、夫は元気よく富士山に登っていったわけであるが、妹夫婦が我が家に到着してから、おもむろに義弟が「おにいさんは、ずるい」と言い出した。
 義弟の説明によると、お正月に会った時に、夫が富士山登山を視野に入れて計画している話を義弟にしたらしく、そのときに義弟が「もし富士山に行くことになったときには、ぼくにも声をかけてください」と頼んだところ、夫は「わかった」と応えたにもかかわらず、夫は今回の富士山登山に関して、義弟に対し、なんらいっさいの連絡をくれなかった、だから義弟は夫に対して責めごころを抱いている、という趣旨のようである。

 義弟に「どうやらくんは、いろんなことを忘れるのが上手だから、妻のわたしと話したことも大半忘れているくらいだから、義理の弟のもっきゅんの話は、間違いなく忘れてると思うよ。もっきゅんに対する意地悪や悪意なんかは全然なくて、本気で忘れてるんだと思う。だってね、もっきゅんがサウナスーツ着て走ってる話をしたときにも、どうやらくんね、もっきゅんに、痩せる目的やったら、走るより山に登ったほうがええぞ、いうて言うといてあげて、って言ってたくらいだから、もっきゅんと富士山の話をしたことは、すっかりきれいに忘れてるんだと思うよ」と伝える。

 結局、義弟がサウナスーツを着て走っているのは、最近趣味で始めたとある格闘技のためのトレーニングであることがわかる。
 富士山から帰宅した夫に、「もっきゅんのサウナスーツジョギングは、格闘技のトレーニングなんだって」と話すと、夫は「へえ、そうやったんや」と感心する。

み「どうやらくん。やっぱり、お正月にもっきゅんと富士山の話をしたことは、全然おぼえてないんじゃろ?」
ど「え? 正月? なに、それ」
み「ほらね。もっきゅん。どうやらくん、おぼえてないじゃろ。見事じゃろ」
も「おにいさん、ほんまにおぼえてないん? 富士山に行く時にはおれにも声かけていうて頼んだら、わかった、言うたのに」
ど「うーん、そんな話、したんかなあ。それは、なにがわかったんやったんやろうなあ。もりおかくんも富士山に興味を持っているらしいということはわかった、とりあえずその気持ちはわかった、いう返事やったんかなあ、なんやろうなあ(と言いながら、腕を組んで首を傾げる)」
も「もう、首を傾げたいのは、こっちじゃん」

 わたしが話したことに対して、夫が「うん、わかった」と答えたとしても、その「うん、わかった」は、「みそきちどんさんは、何か言いたいことがあるらしい」というわたしの状態全体に対する「わかった」であって、わたしが話した内容に対する「わかった」ではない、ということは、ほんとうによくあることだ。
 だから、特別なにか確実に伝えたいことがあるときには、大切な業務連絡であることを前置きして、やや事務的に仕事上の連絡をするような口調で話をしたり、書いたものを手渡したりする。
 まあ、それは、わたしもある程度はそうで、夫が継続摂取しているサプリを、わたしが利用する通販会社に注文してほしいと言ってきたときには、「メモに書いてわたしの目につくところに置いておいてください」と頼む。

 まあ、そういうあれこれを経過して、妻として、夫の「わかった」に関して、ある種諦観する域に至るまでに、結婚後十五年以上の時がかかったような気がするから、義弟もその他の実家の人々も、世の中にはいろんな「わかった」があるんだな、と、夫のようななんだかはかない「わかった」もあるんだな、と、少しずつ慣れていってもらえたら、お互い世界平和かな。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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