みそ文

気になるサンドイッチ

 うちの近所にあるおいしいパン屋さんのパンは、どれもおいしいのだけれども、わたしは特に「ハード系」と呼ばれるらしい(「リーン(lean)なパン」ともいうらしい)噛みごたえのあるパンが好き。ドライフルーツやナッツがぎっしりと練りこまれた全粒粉のパンだとか、フランスパンよりは生地が密に詰まっているけれど、フランスパンよりは全体的に少し柔らかくて、小麦の旨味が口の奥から鼻に抜けてゆくような味わいの生地の中にオリーブの実がまるごといくつか散りばめられているパンは特に大好き。

 妹夫婦がうちに来たときに、そのパン屋さんに案内して、「じゃ、それぞれに食べたいものをトレイに取って、各自支払いをしようね。ポイントはうちのポイントカードに全部入れさせてね」と説明する。
 妹夫婦は「すごいねえ。いろんな種類のパンがいっぱいあるねえ」と感心する。
 わたしは「でも、もう、この時間帯(夕方遅い時間帯)だから、だいぶん種類も量も少ないんよ」と、このパン屋さんのもっと品ぞろえ豊富なところを紹介できずにいることが少しだけ悔しい気分になる。

 妹がハード系のパンのコーナーで、レーズンとクルミがたくさん入っている全粒粉のパンを見て「これおいしそうだなあ。でもあっちの柔らかいパンも食べたいのがいろいろあるし、両方食べるのは無理だよなあ」と言うから、「あ、このパンならわたしも好きで食べるから、買おう。わたしが買うから、やぎ(妹)も食べたいだけ食べるといいよ。こっちのクランベリーとクルミのパンも買うし、両方とも薄くスライスしてもらうから、食べたい人が食べたい時に一枚ずつつまむといいよ」と言って、二種類のパンをトレイにのせる。
 妹は「へえ、スライスもしてもらえるん? タダで?」とわたしに問うて、わたしが「そうなんよ。ちゃんと専用の刃物で上手に切ってくれてじゃけん、自分で切るよりおいしいんよ」とわたしが説明するのを聞いたら、安心したように義弟のところへ移動して、義弟と一緒に菓子パンなどの柔らかいパンを見始める。
 妹が「もっきゅん(妹の夫)。ここのパン屋さんね、硬いパンのスライスも無料でしてくれるんだって」と義弟に報告すと、義弟が「いいなあ。うちのほうにはこんな気の利いたパン屋さんないもんなあ。ここ、パンの種類、ぶち多いじゃん」と言いながら、そんなにたくさん食べられるのかな、と思うくらいの量のパンをトレイにのせている。

 そろそろ会計をしようかな、と思い、レジに並んでいると、義弟がわたしのトレイを見て「みそちゃんは、かたいパンが好きなん?」と訊く。わたしは「うん。かみしめてかみしめて、じっくりとおいしいなあ、ってかんじのパンが特に好き。でも、菓子パンやちょっとケーキみたいなほわほわーっとしてるやつ(こちらは卵バター砂糖などがふんだんに使用されることから「リッチ(rich)なパン」と呼ばれるらしい)もそれはそれで好き」と答える。

 お店の人に「これとこれはスライスをお願いします」と頼むと、「どれくらいの幅にしましょうか」と聞き返してくださる。「ええと、これくらい」と言いながら、親指と人差指の間に「これくらい」の隙間を作る。お店の人が「二センチくらいですかね」と言われるから、「はい、それくらいで」とお願いする。
 スライスをお願いしたときに、そのパンの形状によっては、「まっすぐに切りますか? それとも斜めに切りましょうか?」と訊いてくださることもある。パンの種類やそのときに気分によって、まっすぐで頼んだり斜めでお願いしたり、いろいろ。

 それぞれに自分の食べたいパンを買い終える。
 義弟が買ったパンの中に、エビフライとタルタルソースをやわらかいパンに挟んだサンドイッチのようなバーガーのようなパンがあったから、「一度うちに持ち帰って、この人(パン)は冷蔵庫に入れよう」と決める。
 妹が「じゃあ、わたしらの荷物も持って降りて、ねえちゃんちに置いてから出かけたらええね」と言う。

 義弟が買ったエビサンドイッチを見た妹がわたしに「もっきゅんね、今日ね、ずっと、サンドイッチが食べたかったんよ」と言ってから、義弟に「ね、もっきゅん。新幹線の中で、ずっと、他の人のサンドイッチのことが気になりようたんよね」と話しかける。

 妹夫婦は広島から乗った新幹線の中で、缶ビールを飲みながら、魚肉ソーセージをかじり、自宅で作ってきたアサリの酒蒸しをツマミとして食べて、くつろぎの旅のひとときを過ごしていた。アサリの酒蒸しは、自宅の冷蔵庫にいるアサリを残していくわけにはいかない、という事情があってのことだったものと思われる。

 新幹線の車中でアサリの酒蒸しを食べている人はそうはいなくて、他の人からの『ビールにアサリの酒蒸しいいなあ。どこに売ってるんだろう。駅の売店? それとも、車内販売?』という思念の中、「本当においしいんじゃけど、せっかくじゃけん、他の人にもそのおいしさが伝わるように、ちゅちゅっと、おいしそうにあさりを食べてあげといた。親切じゃろ」と妹は言う。

 そんな新幹線の中で、妹夫婦の斜め前方に座った人が、車中でサンドイッチを取り出して、座席前のテーブルに置く。
 そこで義弟の「サンドイッチ食べたい欲」に火がつく。義弟は車中で何度も妹に「やぎちゃん、見て見て。あの人、サンドイッチ持っとってじゃ」「ねえねえ、やぎちゃん、あの人まだサンドイッチ食べてないよ。いつ食べるんじゃろう」と訊いてくる。
 妹は「そんなん、本人が食べたいときに食べてじゃわいねえ」と言うけれど、義弟はその人のサンドイッチが気になって仕方がない。
 妹が「そんなにサンドイッチが気になるんじゃったら、車内販売で買って食べたら?」と提案するが、義弟は「それはいやだ」と言う。「今サンドイッチを食べて、今夜の夕ごはんで日本海のお魚たちを食べるのに差し支えたらいけんけん」というのがその理由。
 ところが、そのサンドイッチの人は、車中でテーブルの上に出したサンドイッチを一度も開けることも食べることもなく、新幹線が新大阪に着いたところで、未開封のままでまた自分の鞄の中に片付けて降りていったのだという。

 新大阪から京都までの間、義弟は妹に、「やぎちゃん、ちょっと、どういうこと? なんであの人はサンドイッチを出したのに食べんかったんじゃろう。なんで出したサンドイッチを食べんまんまで新幹線を降りたんじゃろう」と訊きまくる。
 妹は「そんなん、人のサンドイッチのことなんか、知らんようねえ。あの人はそういう気分じゃったんじゃないん? 鞄の中に入れとくよりもテーブルの上に出しといたほうが涼しくて保存にええと思うちゃったんかもしれんし。いいじゃん、好きにさせてあげんさいや」と言うけれど、義弟はどうにも納得できないようすで「新幹線の中でサンドイッチがあるのに食べん、っておかしいじゃん」と妹相手に訴え続ける。

 うちに着いてから妹が「じゃけん、こうやってサンドイッチを買えてよかったね、もっきゅん。明日の朝ごはんがたのしみじゃね」と言うから、わたしも「もっきゅん。もっきゅんのサンドイッチは、冷蔵庫のここの引き出しに入れるよ。明日の朝、ここから自分で出して食べてね」としっかり説明をしておく。

 翌朝、起きてみると、義弟はずいぶん早い時間から起きてケーブルテレビの釣り番組を見ていたらしく、妹もわたしより少し早く起きていて、ふたりともすでに朝ごはんのパンを食べ終えていた。
 「パン、あんなにたくさん買ったのに、よく全部食べられたねえ」と感心するわたしに、妹は「うん。おいしかったけん。ねえちゃんが買ったレーズンのやつもスライスしてあるの一枚食べたよ。おいしかった」と言い、義弟は「おれはこれから最後のクロワッサンを食べるんじゃ」とテーブルの上に手を伸ばす。
 よかった、よかった、それはよかった、と思いながら、わたしは自分の朝ごはんのオリーブのパンを口の中でじっくりじんわりかみしめる。それから、ゆっくりと「ああ、おいしい」と安堵する。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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