みそ文

パンジャーブ地方の人を見習って

「夏の夫婦のスキンシップ」

「馬油じゃなくてサニーナ」

「他人の激似」


 昨日の土曜日、夫がわたしの誕生日プレゼントにと、誕生日には一週間早いけれど、サンダルを買ってくれた。
 夫のもとには毎年夏になると「リーガル」というたぶん靴の会社の株主優待券が送られてくる。店頭表示価格の三割引で買い物ができるという券らしい。その券が届くと、夫が「みそきちのサンダルを買いに行こう」と誘ってくれるから、ここ何年かは、毎年新しいサンダルを買ってもらっている。

 夫が買ってくれたサンダルを履いて帰省すると、実家の家族たち、とくに父と弟の、わたしの履物に対する心配というか苦言というかそういうものがないのがよい。
 わたしは自分ではなかなか、自分の履物とくにサンダルのために、一万円を超える金額を投資することがなく、またそうする気概も持ち合わせていない。
 しかし、わたしが気軽な値段の靴を履いて帰省し、実家の玄関に脱いでいると、その気軽な値段の靴を見た父や弟は、つい、「もうちいとええ靴をかええやあ(もう少し良い靴を買いなさい)」と言わずにいられないスイッチが入るようなのだ。
 しかし、夫がリーガルのサンダルを買ってくれるようになってからは、彼らのそのスイッチが入らないので、双方たいへんに気持ちがやすらか。

 今回買ってもらったサンダルは、玉虫のような深い緑色。足首をスナップのついた細いベルトで巻いてぱちんと留めて履くタイプ。皮が柔らかく、靴底の柔軟性が高いので、サンダルのわりにはフィット感がたいへんによい。ヒール(かかと)の高さは測ってみたら7cmあるが、その高さを感じさせない歩きやすさだ。

 夫が今年も誕生日プレゼントにサンダルを買ってくれると言うから、サンダルを買うときにサンダルのデザインや色を選びやすくなるようにできるといいな、特定の服装によく合うデザインのサンダルを買ってもらいたいな、と、思い、事前に新しく服を買った。手持ちの洋服たちよりもよりいっそう涼しく過ごせるような服を用意したい気持ちもあったから、サンダルが似合うデザインのもので、実際着てみて着心地が軽くて涼しいもの、という条件を服を選ぶときの基準にした。

 サンダル購入時に合わせる目的で買った服は、インド綿のしわしわとした素材のワンピースのスカートとその上に羽織る上着。ワンピーススカートのほうは深いエンジ色のような紫色のようなそんな色で、羽織物のほうは薄い淡いサーモンピンク。両方とも少し透けたようなしわしわ素材で、軽くて、風通しがよくて、涼しい。

 だから、サンダルを買いに行くときには、このワンピースと羽織物の組み合わせを着て出かけた。自分では、自分なりに、その着心地にも、自分の血色の発色ぐあいにも満足しているのだけれど、夫はその組み合わせで服を着たわたしを見て、「なーんか、シャキッとしてないよなあ」と言う。
 この服におけるコンセプトは、シャキっと、ではなくて、どちらかというとダラリおよびサラリである。
 少しヒールの高いサンダルになることを想定して、つま先立ちで立ったときに洋服のラインが美しく見えるようなものを選ぼうと思ったから、服屋さんの試着室では、鏡の前で何度もキュッとつま先で立ってシルエットを確認して選んだ。
 たしかに夫が言うように、シャキッとはしていないかもしれないけれど、サラッとしてふわっとして涼しくて快適で、これはこれでありだと思う、と、自信を持って出かける。

 リーガルのお店に入ると、わたしの足元を見た店員さんが、わたしの履いているものが一昨年そのお店で購入した同社のサンダルであることに気づいて、「大切に履いてくださっているんですね。いつもありがとうございます」と声をかけてこられる。
 できることならば、自分が気に入ったデザインと同じものを、繰り返し繰り返し購入使用したい傾向があるわたしとしては、「色違いでもいいのですけれど、今履いているこのサンダルと同じデザインのものはありますか」とまずは尋ねる。
 店員さんは、「いえ、すみません。今年はそちらのデザインのはないんです。お客様はサイズは23.5ですよね。23.5でしたら、こちらか、こちらか、こちらなどになりますが、今年のデザインは、皮部分と靴底に柔らかい素材のものを使っていまして、履いたときにフィット感がよいのと、ヒールが高いのを感じさせない歩きやすさが特徴なんです」と説明してくださる。
 なるほど、と、納得して、店内にある、といっても、靴業界ではサンダルは既にシーズン終盤の商品だから、クリアランスセール品になっていて、種類がそう多くはないのだけれども、あるものの中で、いくつか試しに履いて、鏡で見て、夫に見てもらって、歩いてみて、決める。

 そして「これにします」と決めたサンダルが、深い玉虫色のもので、新しいサンダルを履いて歩く練習も兼ねて、「これをこのまま履いて帰ります」と申し出る。
 お店の方が、値札などのタグを取ってくださる。わたしが履いてきた古いサンダルはリーガルのビニール袋に入れてもらった状態で持ち帰る。

 着ているものが、なんとなく桃色の仲間の色あいの状態で、この玉虫色のサンダルを履くと、くっと足元の印象がしまるね、と夫と話しながら歩く。
 夫も「そのデザインかっこいいなあ。色もいいなあ」とうれしそう。

 そして、そのかっこうのままで、誕生日には一週間早いけど、夕ごはんをご馳走するよ、と言う夫に誘われて、お気に入りの料理屋さんへ行く。
 お店に着いたのは、ちょうど夕方五時になるころで、外はまだまだ明るくて、営業時間にはまだ早いかな、と思ったけれど、もう営業の暖簾が出ていたから、よかった、と安心して入る。

 お店に入ってみると少し支度中なかんじがありはするものの、どうぞいらっしゃいませ、と招かれるから、カウンター席の隅っこに座る。
 ここのお店の厨房には、店主である男性料理人さんと、修行中とはいえもう既にかなりのベテランさんになられた女性料理人さんとがいらっしゃる。
 夜になって、夕食の本格的な時間帯になると、大学生くらいの年頃の、でも、みんなどこかの調理師専門学校の生徒さんだろうか、と思うくらい、料理に関して丁寧に教育された若者たち数名が、配膳などの業務を担う。

 昨日、わたしたちがお店に入ったときには、まだ、若いアルバイトさんたちの出勤時間よりも少し前だったから、女性料理人さんが、おしぼりと飲み物を運んできてくださる。
 夫は生ビールの中ジョッキを。わたしは炭酸水を(サントリーのSODAだった)。

 少し前から炭酸水を注文するようになったわたしのことを、店主の男性料理人さんは少し不思議に思っていらっしゃるらしくて、「味のついてない炭酸水でもおいしいんですか?」「炭酸水を飲むのは、なにか、からだにいいんですか?」と訊いてこられる。
 わたしは「わたしも最近になって気がついたんですけれど、甘くない、味のついてない炭酸水が、これが、おいしいんですよ」「なににいいか、というと、そうですねえ、さっぱり、にいいです」と応える。

 女性料理人さんは「わたしも自宅でときどき炭酸水飲むんですよ」と言われ、店主さんが「味が付いてないと苦いような気がするけど、大丈夫なんか?」と訊かれると、女性料理人さんが「そのちょっと苦いのがおいしい」と言われるから、わたしも「そうそう。なんとなくちょっとだけ苦いようなかんじがするのもおいしさのうちですよね」とうなづく。

 今回、わたしが、若干透けたようなしわしわ素材のインド綿の衣類を着ているのを見て、女性料理人さんが「涼しそうなお洋服ですねえ。いいなあ。素敵だなあ。なんだっけ、なにかに似てる、ああ、そうだ、天女の羽衣みたい」と言われる。
 「そうなんです、涼しいんです。風通しがよくて」と応えるわたしに向かって、夫は「うーん、寝間着みたいな服なのになあ。お客さんパジャマで出歩いてるんですか、インドのパンジャーブ地方の人ですか、って言いたくなる」と言う。
 わたしは「インドのパンジャーブ地方の人を見習って、この暑さの中でも涼しく過ごせる工夫をするほうがいいと思うな。すでにそうしているわたしはえらいんじゃないかな」と言ってから、炭酸水を、きゅっきゅっぱふーっと、いきおいよく喉に通した。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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