みそ文

あの夏、ハムのサラダを

 あの夏、キッチンでわたしたち三人が並んで作業しているのを見て、一号ちゃんが「わたしも料理できるんだけどなあ」「料理したいなあ」「エプロンも持っとるよ」と言って、丸亀友人に「ねえねえ、おかあさん、わたしも何か作りたい」と言う。一号ちゃんとしては、小学校入学前の男児ふたりの相手をするのにも少し飽きてきた頃だったのだろう。
 丸亀友人が「うーん。一号にできることがあるかなあ」と言うから、わたしが「あ、じゃあ、わたしの代わりに、ハムのサラダ作ってくれるかな」と提案する。ハムのサラダは、丸亀友人が「冷蔵庫にいただきもののおいしいハムがあるやつで、ハムサラダも作りたいんだけど、わたしそこまで手がまわりそうにないけん、みそさんと芦屋友人にお願いしてもいいかな」と言っていたメニュー。

 一号ちゃんはすごくはりきって、「わたし、それ作る。できる」と言って、自分のエプロンを引き出しから取り出して身につける。「では、まず手をしっかりと洗ってきてください。指の間も手首もしっかりね」というわたしの指示に従って、一号ちゃんは、洗面台でハンドソープを使って、丁寧に丁寧に手を洗い終える。「洗ってきた」とぴょんぴょん飛ぶみたいにしてやってきた一号ちゃんに、「では、まず、レタスを洗ってください。わたしが先に一枚一枚にするところまではしたから、それを一枚一枚表も裏も水道の水(細く出す)で洗い流して、こっちのザルに入れてね」と説明する。
 一号ちゃんは、神妙に、一枚洗ってはまた一枚と、指定のザルにレタスを入れる。洗ってる途中で「ふう。いっぱいあるなあ」とつぶやきながら。

 一号ちゃんがレタスを洗っている途中で、わたしは丸亀友人に「レタスは、ザルごと水を切っただけでいいかな。それともキッチンペーパーでふきとる? わたし流だと水滴も一緒に食べちゃえになるけど」と確認する。丸亀友人が「キッチンペーパーでふいてほしい」と言うから、「はい。了解。ということで、一号ちゃん、洗い終わったら、一枚一枚今度はキッチンペーパーで水気を拭くよ」と伝える。
 一号ちゃんは「ふう。お料理ってたいへんよねえ」と、なんだかとってもうれしそう。

 洗い終えたレタスが入ったザルを少し傾けて軽くゆすって水をきってから、一号ちゃんと手分けをして、キッチンペーパーでレタスを拭く。拭くといっても、実際は軽く挟んで、水滴をとるだけなのだけど、一号ちゃんがあまりに真剣にレタスを挟むから、「軽くでいいんよ。レタスの葉っぱのシャキシャキがそのまま残るくらいにしてね」と言うと、一号ちゃんは「なるほど。なるほど」と言いながら、少し力を抜いて、でもやはり丁寧に拭いてから、乾いたお皿にのせてゆく。

 わたしが「では、ハムを切りましょう。まな板と包丁を使うけど、だいじょぶかな」と訊くと、一号ちゃんは「うんうんうんうん」と大きく頷く。丸亀友人には「包丁を使う間は、わたしと芦屋友人で、一号ちゃんの手元ずっと見てるから、安心して」と伝える。芦屋友人も「うん。見ようるよ」と重ねて言う。
 大きなハムの塊を冷蔵庫から取り出して、「最初に半分に切るところだけ、わたしがするね」と言って、半分に切ったハムをまな板の上に残す。「じゃあ、わたしは、残りの半分をラップで包んで冷蔵庫にお片づけするから、一号ちゃんは、ハムのまわりのビニールと皮みたいなところを取るほうをしてください」と伝える。
 一号ちゃんは真剣にハムを裸の状態にする。芦屋友人が「周りの部分は、とりあえず三角コーナーに捨てとくといいよ」と説明して、一号ちゃんはそのとおりにする。

 わたしが「では、これから包丁を使うから、一号ちゃん、集中してよ」と言うと、一号ちゃんは「だいじょうぶ、だいじょうぶ、まかせて」と言って、ぽんと自分の胸をたたく。

「んとね、じゃあ、まず、幅は、もう、算数でセンチは習ってるんだっけ? 一センチかなあ、これくらい(親指と人差指の間に空間を作って)。だいたいこの幅に切ってください」
「はい。わかりました」

「あ。上手に全部切れたね。じゃあ、次は、そのハムを一枚ずつ、縦と横の両方に切るんだけど、一個ずつがサイコロみたいになるように切ります。はしっこの丸いところは、丸いまんまでいいよ」
「はい。むむ。これくらいかな」

 元来なんでも丁寧に行う一号ちゃんは、ハムをサイコロ状に切るのも、できるだけすべての形と大きさが整うようにきちんと切り分ける。途中で何度か額の汗をぬぐうようなふりだけをして「ふう。ほんとうにお料理ってたいへんねえ」とときどきつぶやく。
 すべてのハムを切り終えたら、すでに軽くつぶしてあるじゃがいもにざっくりと混ぜ込む。一号ちゃんの身体には、少し大きなボウルを抱えて、ハムがじゃがいもの中に均等に散らばるように。

「わあ。きれいに混ぜられたねえ。では、人数分の小鉢を出して、それぞれのぶんを少しずつ入れていきます。それから大きな器に残りを盛りつけておかわりできるようにしておきます」
「はい。小さい器を、いち、に、さん、九個ですね」
「先にレタスを三枚くらいかなあ。葉っぱの大きさによって枚数は調節してね、大きすぎるのはちぎってもいいよ、ぐるっと一周でもいいし、半周になるかんじでもいいかな。お皿の縁に少し葉っぱの端が出るように敷くかんじで並べてください。どっちがいいかは、一号ちゃんのセンスに任せるよ」
「おおー。わたしのセンスかー。どうしよう。えーと、じゃあ、レタスぐるりにする」
「はい。お願いします」

「ふう。できたー」
「じゃあ、ハムの入ったポテトをレタスの真ん中にかっこよく盛りつけてください」
「かっこよく、ですね」
「多すぎず少なすぎずね」
「こんなかんじかなー」
「あ。上手上手。ちょっと鮮やかな赤色を飾るときっときれいだから、プチトマトをそばにのせよう」

 冷蔵庫の野菜室からプチトマトを取り出して、洗って、軽く水気を拭き取る。一号ちゃんが「あのね。学校でね、ミニトマト栽培したの食べた。ミニトマトでしょ、これ。みそさんプチトマトって言ったけど」と疑問を呈する。

「ミニトマトとも言うし、プチトマトとも言うの。ミニは英語で小さいっていう意味で、プチはフランス語で小さいの意味だから。ほんとはプチじゃなくてプティに近い発音かもだけど」
「へえー、そうなんだー」

 丸亀友人が「一号、いいなあ。みそさんに訊くと、いろんなことがくわしくわかるねえ」と微笑む。芦屋友人が「ほんと、ほんと。みそさん、昨日のしおかぜ(瀬戸大橋を渡る特急列車)の中でも、息子のネバーエンディングな質問に応え続けるの根気あるなあ、と思ったもん」と言う。

 夕食が始まると、一号ちゃんは二号くんと息子くんに「わたしが作ったハムのサラダ、どう? どう?」と訊く、ふたりは「おいしい」「おいしい」と応えて熱心に食べ続ける。一号ちゃんは続けて「おとうさん、ハムのサラダ、もう食べた? わたしが作ったんだけど」と言う。どうだくんは「まだやけど、食べるで」と応える。一号ちゃんは「カンくんはもう食べた? このハムのサラダ、わたしが作ったんよ」「みっちゃんは、ハムのサラダまだ食べないん?」と訊く。
 丸亀友人が「一号ちゃん。そんなにせっつかないの。みんなそれぞれに食べたい時に食べるのがおいしいんやけん。いいから、あなたも座って食べなさい」と促す。
 一号ちゃんは「わたしが作ったハムのサラダ、どうかな」と言って、自分で一口食べてみて、「おいしいー!」とこぶしをにぎる。
 芦屋友人が「一号ちゃん、がんばって作ってたもんね。ハムの大きさがそろっててきれいで食べやすくておいしいよ」と伝える。
 みっちゃんが「わあ、そうなんや。このハム一号ちゃんが切ったん? 一号ちゃん、もう包丁が使えるん? すごいやん。ハムもポテトもトマトもレタスも全部おいしいよ」と言う。それに対して一号ちゃんは「てへへ」と笑ってから、またサラダを一口食べて「おいしいー!」とこぶしをにぎる。
 
 それから一号ちゃんは冷や汁を口に運び、「あ。芦屋友人ちゃん、これ、すごくおいしい。芦屋友人ちゃん、がんばって作ってたもんね」と言う。芦屋友人は「おいしい? よかった。てへへ」と、一号ちゃんを真似る。
 ひとしきり「てへへ」「てへへ」を繰り返して笑い合う二人に向かって、丸亀友人が「一号ちゃん、よかったねえ。料理を作りたくてうずうずしてたんだもんねえ」と微笑んで見つめる。

 自分が作った料理を誰かとともに「おいしいね」と言い合いながら食べるのはうれしい。それは人類としての食事というものの醍醐味であると同時に自由のひとつでもあると思う。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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