みそ文

あの夏、宮崎の冷や汁

 あの夏の土曜日の夕ごはんは、いろいろとごちそうだったのだけれど、印象に残っているのは、宮崎出身の芦屋友人が作った「冷や汁」と、丸亀友人ちの一号ちゃんが作った「ハムのサラダ」。ハムのサラダは、一号ちゃんと芦屋友人とわたしの合作だけれども、一号ちゃんが「わたしが作ったハムのサラダ」とその後ずっと言っていたから、あれは一号ちゃんが作ったハムのサラダだと思う。

 わたしは今でも夏になると「冷や汁風」をよく作る。しかし、わたしが作るものとは異なり、芦屋友人が作る冷や汁は、本場宮崎仕込みならではのちゃんとした作り方だ。

 わたしが最初に「冷や汁」なるものを食べたのは、二十歳を過ぎて間もないころ、宮崎旅行に行ったとき。そのころ大学生だった丸亀友人とわたしは、大阪からブルートレインという寝台夜行列車に乗って、宮崎にたどり着いた。当時宮崎に帰省中の芦屋友人が宮崎駅に迎えにきてくれて、彼女の自宅に泊めてもらう。そのとき宮崎のおうちには、彼女のお母様と、まだ小学生の弟くんがいて、学生をしているお兄さんと妹さんは帰省中ではなかったらしく、そのときにはお目にかかっていない。友人の母上様が、わたしたちを宮崎の観光地あちこちに案内してくださる。夕ごはんには郷土料理屋さんに連れて行ってくださり、そこで、いろいろごちそうになった宮崎料理の中に「冷や汁」があった。
 それらの宮崎料理をおいしくいただいているときに、友人の母上様が思い出話を語ってくださる。当時既に他界中であった友人のお父様がまだご存命であられたころに、父上様と母上様がお二人で旅行に出かけられたときのおはなし。旅先のとある町の道沿いに大きな畑があり、その畑のお野菜たちがどれもそれは立派に実っていたのだそうだ。その畑のお野菜たちの立派な育ちぶりに感心した母上様は、畑で作業中の農家の方に、その上手な野菜の育てぶりを賞賛せずにはいられなくなり、思い切って声をかけたところ、母上様の賞賛のことばを農家の方は非常に喜んでくださって、母上様と父上様に大量のお野菜を持たせてくださる。
 友人の母上様は「お野菜を分けてもらおうだなんて、そんなこと思ったわけじゃないのよ。タダでもらおうと思って褒めたわけではないのよ。結果的にはそうなっちゃったけど」と、そのとき農家の方にいただいたお野菜がどれほど立派でおいしかったかを話してくださった。

 という大学生当時のはなしを、冷や汁を作る芦屋友人とその横で別のものを作る丸亀友人にしたところ、ふたりともが「そうやったっけー。みそさん、むかしのことをようおぼえとるねえ」と、ちっともおぼえていない様子。おかしいなあ。わたしの捏造記憶なのだろうか。いやいや、たとえ細部に若干の脚色や記憶違いが入っているとしても、大筋の内容はきっと殆どそうだったはず。

 わたしはその宮崎旅行で大好きになった冷や汁を、わたしが作る冷や汁風ではなくて本当の冷や汁をまた食べられることがうれしくて、芦屋友人の作る手間ひまを、にまにまと見学する。見学はするけれどおぼえる気はない。作ってもらえることがただうれしくて、にまにまとのぞきこむだけだ。

 丸亀友人は「うれしいなあ。冷や汁。わたし、宮崎で最初に冷や汁を食べたときには、あのときは、ちょっと苦手な食べ物かも、と思っていたんだけど、何年かしたら、いやあれはおいしかったよ、と思い出して、今はすごく好きになった。やけん、わたしちょっとたくさん食べるかもしれん。足りるやろうか」と言う。
 宮崎出身の芦屋友人が「だいじょうぶ。いっぱい作ってるけん。残ったら冷蔵庫に入れといて明日また食べてもいいし、と思って。でも、こんなにたくさん作って、他のみんなは食べられるんやろうか。食べてもらえるんやろうか」と気にかける。
 丸亀友人が「だいじょうぶ。どうだくん(丸亀友人の夫)は汁のかかったご飯があんまり得意じゃないけんたぶん食べんと思うけど、そのぶんわたしが食べるけん、わたしにはたっぷり入れてね。うちの子らもすんごい食べるはずやし、カンくんとみっちゃんは冷や汁初体験をたのしみにしてるらしいよ」と言う。
 芦屋友人は「そうか。それなら、これくらいの量、作ってもいいね」と、安心して作業を続ける。

 結局、冷や汁は、あんなにたっぷりあったけど、「芦屋友人ごめんな。せっかく作ってくれたのに冷や汁得意じゃなくて」とわびるどうだくんを除く全ての人に大好評で、小さな丼に一杯分くらいだけが残る。丸亀友人は「うれしい。また明日も冷や汁が食べられる。これ、明日のわたしの朝ごはんだからね。ちゃんと残しといてよ」とみなみなに宣言して、冷や汁を冷蔵庫に片付ける。
 芦屋友人は「おいしくできてよかった。みんなに食べてもらえてよかった」と満足そう。

 おいしくて、そして、にぎやかでたのしくて、だから、あの夏の冷や汁は、特別で格別な記憶。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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