みそ文

スネ毛とヒゲにこだわる

 数年前の夏に、妹夫婦がわたしの自宅に遊びにきたことがある。我が家に宿泊滞在中の大半の時間は、リビングのラグの上でごろごろとくつろいで過ごす。

 わたしが洗濯物を干すか何かの作業の途中で、リビングを横切ったときに、妹が「ねえちゃん。見てみて。ほらこれ」と両手を器のような形にして何かをそうっと大切に持ったものをわたしに見せる。

「なんだ、それは? 綿毛? でもなんで綿毛?」
「綿毛、と思うじゃろー。綿毛みたいじゃろ。でも、これ、もっきゅん(妹の夫)のスネ毛なんよ。ここに来てから、このラグの上に落ちたのを拾って集めてみた」
「わあ、いっぱい集まったねえ」
「じゃろ。もっきゅんと結婚して、今の家に一緒に棲むようになって、最初の頃は、なんで、うちの中に、動物の抜け毛みたいなものが、ほわほわー、ほわほわーっと、あちこちに落ちとるんじゃろう、と思って、不思議じゃったんよ。しかも、必ず、もっきゅんが活動したエリアに限定して落ちとるけん、この人、たぶん、わたしに内緒で、なんか毛の多い動物を飼いようるんかもしれんと思って、あとをつけてみたりもしたんじゃけど、ようよう見たら、動物いうても、その動物が実はもっきゅんで、動物の毛じゃと思っとったのは、もっきゅんのスネ毛じゃったんよ」
「ああ、スネ毛はねえ、どうやらくんもけっこう濃いいけん、慣れるまでは違和感あったかもしれん」
「じゃろ。うちのとうちゃんやにいちゃんは、あの人ら、スネ毛薄いじゃん」
「うん。あの人らは薄いね。しめじ(弟)なんか、よく、わたしのスネと自分のスネを見比べて、ねえちゃんスネ毛濃いいのう、いうて言いようたもん。わたしもけっして濃いほうではないんだけど」
「こんなん濃い言わんわいねえ。もっきゅんのスネ毛は、抜け落ちたものが床の上で明らかに毛と認識できるもん」
「特に、トイレとか脱衣所とか、こうズボンやパンツの脱ぎ履きが多いところでの脱毛率高いよね」
「そうそう。トイレに座ったときに、なんで床にほわほわとした毛がこんなにあるんじゃろうか、と思うよね」
「スネ毛が抜け落ちるのは仕方ないんじゃろうけど、スネ毛の持ち主本人が、その脱毛後にゴミとなったものの存在に気づいてこまめに掃除できれば問題ないんじゃけどね。どうやらくんはあんまり気づかないというか見えんみたい」
「自分の毛じゃけん、あんまり気にならんのんかねえ。もっきゅんのスネ毛なんか、別に、防寒に必要なわけじゃないんじゃし、そんなに抜け落ちるなら、しかも抜け落ちたことに気づかずにそのまま放置するようなやつは、いっそのこと剃ってしまえ、って思うことがよくある」
「あ、剃ってしまえ、といえばね、どうやらくんが顔の顎のヒゲを剃る電気カミソリっていうんかな、こう、ウイーンウィーンってあてて剃るやつ、あれを買いかえるときにね、ヒゲの薄い方向け、っていうのを選びようたけん、どうやらくんは、どう考えてもヒゲが濃い方じゃと思うよ、ヒゲが薄い人っていうのは、うちの父や弟みたいなのを言うんよ、って教えてあげたことがあってね、最初は抵抗してたんだけど、そんなに言うならって、普通から濃いひげの人向けの電気カミソリを買って使ったら、よく剃れて早く剃れるようになった、って感動してた」
「おにいさんのヒゲは明らかに濃いいじゃろう。ヒゲを一日二日剃らんかったときに、顎全体に無精髭が生える人は、ちゃんとヒゲが濃い人向けのシェーバーを使わんにゃあ。とうちゃんやにいちゃんは、無精ひげも、なんかこう全体には生えなくて、まばら、というか、ちょろちょろというか。あれはあれで、ちゃんとした無精髭にならんのんなら剃ってしまえ、って思うよね。まんべんなく生えてる無精ひげなら、はいはい無精ひげなんですね、と思えるけど」
「さっきのスネ毛を剃ってしまえ、の話じゃけど、もっきゅんやどうやらくんのスネ毛はね、防寒になるほどの量はないかもしれんけど、実はなんかの役に立っとるんかもしれんよ、わたしらが知らんだけで」
「役に立っとるんなら役に立っとるで別にええけど、抜け落ちて、もう、なんの役にも立たんようになった自分の毛の世話(掃除)はちゃんとしてほしいと思う」

 そういえば、妹は以前、どういう話の流れでそういう話になったのかは思い出せないけれども、「今度生まれ変わるとしたら男がよいか女がよいか、選べるとしたらどちらを選ぶか」という話になったときに、一切の迷いなく「そんなの女に決まってるじゃん」と言っていた。
 わたしとしては、身体が男性であれば、ブラジャーや生理用品を入手して使用するお金や手間がかからないのはメリットかな、と思ってそう言ってみたのだけれど、妹は「そんなもん買って使えばいいだけのことじゃん。男じゃったら、毎日ヒゲを剃らんにゃあいけんのんよ。めんどうくさいじゃん」と反論する。
 妹はさらに重ねて「毎日のひげ剃りも面倒じゃけど、問題はスネ毛よ、スネ毛。ただ生えとるだけならいいけど、抜け落ちたのを掃除するのがたいへんじゃん。じゃけんぜったい女がいいに決まってる。女じゃったら、たとえスネ毛が少々濃くても、脱毛や除毛の文化が浸透しとるけん、自分でちゃんとスネ毛のお世話もできるじゃん。自分でお世話ができんのに、スネ毛が濃いのは、あれはいけんわあ」と言う。

 体毛の手入れや抜けた体毛の掃除、という部分が、妹の人生においては、なにか重要なツボ、なのかもしれない。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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