みそ文

踊るりららとDVD(前編)

 以前、職場の同僚より、お孫さん(りららちゃん)が保育園の催し物で「とんでったバナナ」を歌って踊った話をしてくれたことを書いた。(「バナナとりららと怒りん坊」「バナナと夫とお遊戯を」参照)

 その同僚と、仕事の作業と作業の合間に、たまたまバックヤードで一緒になったときに、「同僚さん。わたし、同僚さんにお願いしたいことがあるんです」と声をかけた。

「なんでしょう。わたしにできることならいいけど」
「このまえの、りららちゃんの、とんでったバナナ、のお遊戯を、わたしもおぼえて踊れるようになりたいので、教えてもらいたいんですけれど、どうしたらいいものかと思って。同僚さんがりららちゃんから習って、それをわたしにここで教えてくださってもいいんですけど、怒りん坊のりららちゃんから踊りを習うのはたいへんすぎるかなあ、と思うんですよ」
「ああ、りららが怒りん坊なのもですけど、わたしが全部の振り付けをおぼえる自信がありません」
「実はですね。あの歌とお遊戯について、家で夫と話をしたんですけど、一番と二番、とか、二番と三番の間にあたる間奏部分に、こう、ばななーん、ばななーん、ばななーん、ばななーん、という歌と振り付けがあるかどうかを確認したいんです」
「えー、歌と歌の間に、そんなのあるんかなあ。でも、何かいい方法があるかもしれないから、ちょっとお嫁さんに相談してみます」
「わわわ。そんな、ご家族にまでお手数おかけするのは非常に心苦しいのですが、でもお言葉に甘えます。ちなみに、確認してもらいたいメロディーと振り付けはこうですので」

 そう話して、ふたたび、バックヤードにトイレ利用のお客様などがいらっしゃらないことをキョロキョロと確認してから、「ばななーん、ばななーん、ばななーん、ばななーん」と歌いながら、両手を腰にあてて、身体を左右に揺らす。
 そこに別の同僚がバックヤードに入ってきて、「あ。どうやら先生に教えてもらいたいことがあって、ここまで来たんですけど、先生の歌と踊りを見たら、何を質問しようと思っていたのか忘れちゃいました。すみません。出直してきます」と言う。
 「いやいや、こちらこそすみません。そういうときには、もと来た場所に戻ると思い出すことが多いですから、一緒に、いま通ってこられた売り場に戻ってみましょう」と話して、バックヤードから売り場に出る。

 その数日後、同僚が仕事を終えて、わたしが休憩に入るときに、同僚が「どうやら先生、見てください。りららのとんでったバナナ」と言いながら、携帯電話を取り出す。
 そして、「うちのお嫁さんに話したら、おかあさん、それなら、りららに踊らせて、ビデオで撮ったのを見せてあげはったら、って言うから、ほうほうビデオね、と思って、お嫁さんがビデオを出してくれるんかと思って待ってたら、いや、おかあさんの、その携帯電話で、って言われて、携帯でビデオってどういうことかようわからんなあ、と思いながら、カメラ機能でカシャッカシャッと、りららに、ちょっと待って、ゆっくり踊って、って言いながら、コマ送りみたいに踊りを撮ってたら、お嫁さんが、おかあさん、それは、なにかが違うと思う、写真じゃなくて動画です、って言うんですよ。携帯で動画って、そんな機能わたしの携帯にはついてない、って言ったんですけど、いやいや、おかあさんのにはついてますって、ってお嫁さんが言って、ほらここ、ほらここ、って動画を撮影できるところに誘導してくれて。いやあ、自分の携帯に動画撮影機能が付いてるなんて、初めて知りました」といっきに説明してくれてから、その動画を再生してくれる。

 撮影の場所は自宅の居間と思われる背景。私服のりららちゃんが、かかとを上げ下げしてリズムを取る。音は小さいけれども、とんでったバナナの音楽が流れているらしい。そして始まる「とんでったバナナ」。りららちゃんは元気よく「バナナがいっぽんありましたー、あーおいみなみのそらのしたー」と歌って踊る。
 同僚に「うわあ、りららちゃん、このために、わざわざ踊ってくれたんですか。ありがとうー。ああ、じょうずー」と言うと、同僚は「ときどき動きがあやしげになるところは、よくおぼえてなくて自信がなくて、ママの踊りをカンニングしてるときなんです」と解説してくれる。

 一番の歌詞が終わって、二番の歌詞が始まるまでの間、背後になにかメロディーは流れているけれど、そこに「ばななーん、ばななーん、ばななーん、ばななーん」という歌はなく、りららちゃんは腰を手にあててはおらず身体を左右に揺らしてもおらず、一番を踊り始める前にかかとを上げ下げしてリズムをとっていたときのように、かかとを上げ下げしてリズムをとって、二番の直前に手の指でニを示しながら「二番!」と言ってから、二番を歌って踊る。
 二番と三番の間も、三番と四番の間も、その後すべての間奏で、りららちゃんはこのかかとの上げ下げと「何番!」を繰り返す。

 同僚と、小さな携帯画面をのぞき込みながら、りららちゃんの踊りに合わせて、わたしも振り付けを真似る。ときどき、同僚と、「ああ、たまらん、かわいい」「ああ、店内放送の音楽がうるさくて、歌がよく聞こえない」とつぶやきながら。

「ありがとうございました。よくわかりました。間奏に、ばななーん、ばななーん、の歌と振り付けはないということがよくわかりました。同僚さん、今の動画、添付ファイルか何かの形で、わたしのメールアドレスに送ってもらえないでしょうか」
「はいはい、メールに添付ですね。えーと、どうすればいいんやろう、あ、メールで送信、っていうのがあるから、これですね。あれ。容量が大きすぎて送信できません、って出てきた」
「あ、そうか。一番から六番までフルで歌って踊ってくれてるから、容量が大きいのか。えーと、じゃあ、どうしたらいいんだろう。ぜひとも自宅でも見なおして、同じ踊りを踊れるようになりたいんですけど、うーん。あ、そうだ。もしも、この動画をウェブにアップしてもらえたら、そこにわたしが閲覧に行きます。家族限定のプライベートモードか何かのときには、閲覧のパスワードを教えてもらえたら」
「えーと、すみません。今の話の後半全然意味がわかってないです」
「ああ、そうか、すみません。同僚さん、パソコンあんまり使われないんでしたよね」
「でも、大丈夫です。お嫁さんと息子に訊いてみます」
「いや、もう、ここまでしてもらって、さらにまたって、それは申し訳なさすぎます」
「いえ、いいんです。どうやら先生がりららのお遊戯見たいって言ってくださってるって話したら、お嫁さん、すごくうれしそうで、張り切って協力してくれましたから。うち、親ばかとばばばかがそろってるんで」
「くう。いいんでしょうか。何かいい方法があるといいんですけど」

 その翌日か翌々日に、その同僚が「息子が言うには、やっぱり、わたしの携帯の動画をそのままメールにくっつけて送信はできないんだそうです。パソコンに取り込むのもそのままではできなくて、なんだっけ、ええと、ええと、メモリカード、とかいうのを携帯に差して、そのカードに動画データを入れて、そのカードを、どうやら先生の携帯に差し替えてそのまま見てもらえるって言ってたんですけど」と言う。

「あ、そうか。じゃ、ここでメモリカード買って、携帯に入ってるりららちゃんが踊ってる画像データをもらえばいいのかな」
「え、メモリカードって、ここの店頭で売ってるんですか」
「はい。もう何年も前から、電池コーナーの隣に」
「うわ。全然知らんかった。でも、それを買ってもらっても、わたしが自分の携帯にそれをどう差すかも、どう操作するかもわからないんで、もう何日か待ってみてもらえますか。たぶん、その、メモリカードというものを、息子は持ってるみたいですから、それを使うかどうかして、どうやら先生に自宅で見てもらえる方法を相談してみましょう」
「うわあああ。気軽にお願いしてみたはいいけど、ご家族皆様の手をわずらわせて、心苦しくてばかになりそうです」
「いいんです。息子も、りららの踊り、もっとちゃんと見てもらいたいなあ、いうて言ってましたから」

 それから、だいぶんたってから、母の日が過ぎたある日、休憩時間の同僚が、作業中のわたしに声をかけてきて、「どうやら先生。りららのお遊戯なんですけど、お嫁さんと息子が、DVDに焼いたのをくれたんですよ。母の日のプレゼントに。そのときに一枚余分に作ったのを、どうやら先生にあげて、って頼まれてるので、あとでお渡ししてもいいですか」と言う。

「えええええっ。DVDだなんて、そんな手間なことをしてくださったんですか」
「わたしがしたわけじゃないんで、手間かどうかはわかんないんですけど」
「それは、ぜひぜひ、いただきたいです。あの、DVDの代金をお支払いしますので、一枚分の相場価格でいいですか」
「何言ってるんですか。お金なんてもらえません。わたしもタダでもらってるのに」
「いや、同僚さんは母の日の母かもしれないけど、わたしは全然関係ないのに」
「いいんです。わたしがもらったものを差し上げるんですから、無料です。それよりも、こんな親ばかとばばばかに付き合って、DVDまで見てもらって、そっちのほうがいいんやろうか、と思います」
「それは、もともとわたしがお願いしたことで、DVDなら自宅で何度も見て振り付けの練習ができて助かるので、ひたすらありがたいです」
「実は、わたしも、DVDもらったばかりで、まだ実物の内容を見てないんで、何がどんなふうに映ってるのかわからなくて、お嫁さんが、おかあさんも声だけ出演してますからね、って言ってて、ちょっとドキドキするんですけど、じゃあ、帰りにお渡ししますね」
「うわああん。同僚さん、ありがとうございます。お嫁さんと息子さんにもくれぐれもよろしくお伝えください」

 そして、わたしは、その日の夕方、同僚から一枚のDVDを受け取った。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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