みそ文

りららちゃんの七五三

 昨年の秋のこと。七五三の季節に、職場の同僚が「今度、りらら(同僚のお孫さん)の七五三で、家族写真を撮るんですよ」と言う。「大阪のばあば(りららちゃんの母方の祖母。同僚の息子さんの妻の母にあたる人物で大阪在住)が、りららにって、着物一式買って送ってきてくれて。お雛様の時も、七五三の時も、こういうことは母方の祖父母がするものですから、って、高価なものを買ってもらって、いいんかなあ、と思うんですけど」と続ける。

「いいんですよ。りららちゃんの大阪のおばあちゃんも、孫娘に貢ぎたくてうずうずしてらっしゃるんですから。好きなようにさせてあげてください」
「そうですよね。わかります。わたしもりららにかわいい服とかきれいなものを買い与えてやりたくてやりたくてたまらないんです」
「でしょ」
「うちは子どもがふたりとも息子だったから、そういうきれいな着物やドレスを着せてやるたのしさが全然なかったけど、女の子って、着飾らせてきれいにかわいくしてやるのも、それを見るのも、たのしいものなんですねえ」
「じゃあ、りららちゃんは、大阪ばあばに買ってもらった着物着て写真撮影なんですか」
「それがですね、着物だけじゃなくてですね、もう、息子たちには呆れられているんですけど、わたしがレンタルでドレスを借りてやるからってことにして、着物の写真とドレスの写真と両方撮るんです」
「わあ。それはたのしみですねえ。同僚さんも太っ腹ですねえ」
「いや、もう、ほんとうに、インターネットで女の子のドレスとか見てると、あれもこれも買ってやりたくなるんですけど、今申し込んでも撮影の日に間に合わないから、今回はレンタルにして、インターネット通販のドレスは、今度親戚の結婚式に呼ばれてる時用に買ってやることにして申し込んだんです」
「うわあ、さらに太っ腹ですねえ。りららちゃんもお姫様気分が続くなあ」
「本人がどれくらいわかってるかはわからないんですけど、いいんです、わたしが満足ならそれで」
「あはは。そうですよね」

 その後何日かが経過して、七五三のシーズンが落ち着いた頃。同僚が仕事を終え、わたしが休憩に入ったときに、同僚が「どうやら先生、見て見て」と声をかけてくる。同僚が取り出すのは、立派なアルバムにしつらえられた七五三の記念写真。
 りららちゃん単独の着物姿。りららちゃん単独のドレス姿。ドレス姿のりららちゃんとるうとくん(りららちゃんの弟。生後数カ月の赤ちゃん)が見つめあい手を握り合う仲睦まじいきょうだいふたりの写真。着物姿のりららちゃんとるうとくんとおとうさんとおかあさんの家族四人の写真。りららちゃんとるうとくんとおとうさんとおかあさんと、ばあばとじいじ(同僚と同僚の夫さん)と、おいちゃん(同僚の息子さんで、りららちゃんにとってはおじ)の七人の写真。

「わあ。りららちゃん。いつのまにかすっかりおねえちゃんになって。着物もドレスもよく似合いますねえ」
「かわいいでしょう。ばばばかですみません。女の子ってたのしいですねえ」
「こうしてみると、りららちゃん誰かに似てる。あ、同僚さんだ。りららちゃんと同僚さんって、なんだかそっくり」
「そうでしょうか。えへへ。なんかうれしいな」
「りららちゃん、五十年くらいしたら、同僚さんみたいなかんじになるんでしょうか、たのしみですね。特にこの、るうとくんとふたりの写真は、なんというか、写真屋さんの演出もあるんでしょうけど、幻想的で美しく仕上がってますねえ」
「でしょう? 気に入った写真があると、その場でキーホルダーとかストラップに加工して作ってもらえるんですよ。写真屋さんも商売上手ですよね。この写真で、殆ど家族全員、キーホルダー作ってもらったんです」
「殆ど全員、って、あ、そうか、るうとくんは小さいからないのか」
「いや、るうとのもあるんです。作らなかったのは、りららのパパだけ。家族みんなが、この写真いいねーって、わあわあ、言うてるときに、あの子だけはなんか、おまえら大丈夫か、とかいうて、どうかしてるんちゃうか、いうて、作らんかったんですよ」
「あらあ。じゃあ、りららちゃんのおとうさん以外は、みんなこの写真のキーホルダー持ってるんですか」
「はい。ほら(と、キーホルダーの実物登場)」
「わあ。ほんとだ。いい具合にキーホルダーになってる」
「でしょー。わたしと主人とおいちゃんとりららのママは鍵につけて、りららは保育園のかばんにつけて、るうとは、るうとのおむつを入れるバッグにつけてるんです。ああ、こうして話すとたしかに、おまえら大丈夫か、なかんじがしますね」
「まあ、いいじゃないですか。それにしても、りららちゃん、おりこうさんですね。着物着て写真とって、ドレス着て写真とって、あ、ドレスが先なのか、着物の写真とってからその着物姿で七五三のお参りに行くまでずっとだなんて、こんなにちっちゃいのに、よく体力気力がもちましたねえ」
「あ、それは、別の日なんです。そんなの一日じゃ無理ですよー。写真の日は写真だけで、お参りはまた別の日ですよ」
「え、そうなんですか。じゃあ、着物も写真の日とお参りの日と二回着るってことですか」
「そうです」
「え、じゃあ、着付けも髪飾りも別々にしてもらうんですか」
「そうですよ。写真の日は写真館で提携してる美容師の人が着付けも髪を結うのもしてくれるんです、有料というか、写真代に込みというか、なんですけど。で、お参りの日は、また美容院で着つけてもらって髪の毛してもらって、あはは、お金がいっぱいかかるんです」
「ああ、なるほど。だから、このへんは美容院がいっぱいあっても大丈夫なんですね。わたし、こっちに引っ越してきて、美容院があんまり多いから、そんなに近所で乱立してて美容師さんたち商売やっていけるのか、と勝手に心配して不思議に思ってたんですけど、七五三でこれだけ写真に力が入る、ということは、女の子の成人式やブライダルのときにも美容師さんの腕がいっぱい必要ってことで、この写真の時って、同僚さんもりららちゃんのおかあさんも美容院利用してらっしゃるんでしょうし、大丈夫、というよりも、美容院も美容師さんもそれだけ必要とされているってことなんですねえ」
「そうなんですよ。美容師さんたちが儲かるようにうまくのせられてるといえばそうなんですけど」
「いや、でも、それで、本人や家族みんながうれしい気持ちになるんですから、投資しても惜しくないでしょう」
「はい、惜しくないです」
「よかった、よかった」

 そこにビューティー担当の同僚が休憩をとりにやってきて、「あ、それ、りららちゃんの七五三? 見せて見せて」と言い、りららちゃんの祖母である同僚は「見て見て」とうれしそうに手渡す。
 ビューティー担当同僚は「ああー、きれいですねー、かわいいですねー、りららちゃん、同僚さんにそっくりですねー」とアルバムのページをめくる。
 りらら祖母同僚が「息子さんの七五三のときは? 何年か前やったよね?」と訊くと、ビューティー担当同僚は「男の子はねー、なんかスーツっぽいの着せて、お参りして、なんとなく写真撮って、それ一枚だけ。こんなに何枚も写真撮ることも、それ以上なにかすることも、親として全然思いつかなくて」と言い、りらら祖母同僚が「わかる、わかる。うちも男の子二人やったからそうやった」と言う。

 りららちゃんの七五三のドレスは白くてふわふわとしている。「七五三写真のレンタルドレスはこのふわふわの白で、今度の結婚式用に買われたドレスは、また違ったかんじなんですか」と訊くと、同僚は「そうなんですよ。もうね、いろいろ目移りしたんですけど、ピンク色のにしたんです。でも、レンタルのこと思ったら、自分で買うのって、すごく割安なんですよ」と言う。

「そうなんやあ。じゃあ、また、結婚式のときのりららちゃんのドレス写真もできあがったら見せてくださいね」
「あ、そうか。今度の親戚の結婚式、りららは花嫁さんに花束を渡す役をすることになってて、それがなんかドキドキで、写真のことまで気が回ってなかった。でも、そうか、そうですよね、ドレス着た写真も撮ってやらないと」
「そうですよ。せっかく同僚さんがプレゼントするドレスなんですもん」

 両手のこぶしをぐっと握って「そうだ、そうだ。わかった。がんばります」と言う同僚に、「まあ、まあ、落ち着いて、気楽に」と伝えてから、「では、お疲れさまでしたー」と見送る。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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