みそ文

停電の中でスイカを食べる

幼かった頃、小学校の低学年のころまで、停電は、ずいぶんと日常的な存在だった。日常的でありながら、いつでもそれは突然で、短い時には数分程度、長い時には数時間以上から半日くらいは平気で停電は続いた。

なにごともないのに停電になることもよくあったのだけれども、台風がやってくるときには、停電になることはほぼ毎回のお約束だから、暗くなる前に、さっさとご飯を食べて、さっさとお布団に入る。がたがたひゅうひゅうと台風の風の音がして、ばちばちびちびちと雨が屋根や壁や戸をたたく。ときどき雷が、ぴしゅっ、と光った後、ひょっごーん、と天と地を鳴らして揺らす。

その夜は少し大きな台風が来る日だったから、みんな早くに布団に入る。夜というには明るくて、夕方というにはもう暗い、そんな時間帯の就寝。祖母は自分の部屋で、妹は畳に敷いた小さな布団の上に、弟は二段ベッドの下の段に、わたしは二段ベッドの上の段に。父はそのころ県境を超えて仕事に行くことがあったからなのか、その夜の記憶の中にいない。畳の上には妹の布団の横に母の布団が敷いてあるけれど、母はまだ布団に入っていない。

ふだんわたしが「寝れない」と言って起きだすと、父も母も、寝なくてもいいから、静かにして、横になって、目をつむってなさい、と言う。その夜も、わたしはたぶん寝れなくて、静かにして、横になって、でも、目はつむってなくて、雷の稲光を障子越しに眺めながら起きていた。

そのあとの記憶が二種類あるのだけど、どちらかはなかったことなのか、どちらともが別の時期にあったことなのかがはっきりとしていない。

ひとつの記憶の中では、寝れないわたしは布団を抜けだし、梯子を伝って二段ベッドからおりる。母はどこで何をしているのだろうかと、八畳の寝室のとなりの六畳の間の食卓があるところまで、そうっと行ってみる。八畳の部屋と六畳の部屋を隔てるふすまを開けると、母が少し嬉しそうに「あ、起きてきた」と言ってから、「一緒に食べよう」と言うのだ。

もうひとつの記憶の中では、ベッドの中で眠れずにいるわたしのところに母がそうっとやって来て、弟と妹を起こさないくらいの小さな声で、「起きておいで。一緒に食べよう」とこっそりと言うのだけれども。

母が「一緒に食べよう」と言うのは、大きな半玉のスイカで、母は自分用には大きなスプーンを、わたしには小さなスプーンを台所から持ってきてくれる。そのときはやはり停電していて、食卓の上には、いつもの停電のときのようにろうそくが灯っている。台風がびゅうびゅうと鳴るたびに、すきま風が入ってきて、ろうそくの灯りがゆらりと揺れる。

今にして思うと、あんなに頻繁に屋内でろうそくを灯して、火災になることがなくて本当によかったなあ、と思うのだけど、当時はろうそくの「あかり」にずいぶんとお世話になっていた。

母は「これが食べたかったのよう」と、スイカの皮の外側に手を添えて、嬉しそうにスプーンを構える。わたしも母の真似をして、スプーンを元気よく握ってみる。スイカは冷蔵庫で冷やしたほどには冷たいわけではなくて、夏の井戸水につけておいたぬるくてひんやりとした状態。暗くて、ろうそくの灯りでは、スイカの皮の緑色の縞も、スイカの果肉の赤さも、種の黒さも、あんまりよく見えないけれど、そこにスイカがあるのはわかる。

しゃくっとした噛みごたえのあとに、スイカの果汁が歯と歯茎と舌と頬の内側と喉を甘く潤す。母がさっくりさっくりと勢いよくスイカを掘っていくのが、見ていてとてもたのしくて、スイカの玉の中にときどき溜まるスイカの汁をスプーンですくってすすると、共同作業に励んでるような気分になる。

台風の時には、雨と風の音が大きいから、かえるの声も虫の鳴き声も聞こえない。スイカを食べ終えたら、ごちそうさまをして、汲み置きの水をコップに入れて、ぐじゅぐじゅぺっとうがいをする。きっとそのあと、母にトイレを促されて、ろうそくを持ってついてきてもらい、トイレを済ませてベッドに入る。母がろうそくをふうっと消すと、たまに光る雷が世の中を照らす以外は真っ暗で、暗闇との親しさが増す。そうして眠りの泉が深くわたしをさらって安堵の中へといざない、そして、飲み込んでゆく。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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