みそ文

私のオリーブがやってくる

我が家の近所には、たいへんおいしいパン屋さんが存在する。車で二分弱、歩いても五分程度の場所にあり、おいしいパンが食べたければ、そこに行けば解決する。そのたびに、町での暮らしは便利だなあ、と、極上の至福をおぼえる。

そのパン屋さんのパンは、基本的にどれもおいしいのだけれども、私が特に気に入っているのは「ハード系」というのだろうか、生地の表面がフランスパンのように固めのものや、ずっしりとした重みがある中にドライフルーツがたっぷり入っているものなどなど。それらの中でも、ベーコンが入っているパンと、オリーブの実を入れてあるパンが、最上級に気に入っていて、オリーブの方は、いつも、もっとたくさんオリーブの実を入れてくれてたらいいのになあ、いや、このパンはこのパンで食べながら、この中に入っているオリーブを別に買い求めて、一粒ずつ口に含んで咀嚼したい、と思う。

今日、またおいしいパンを食べたくなり、このパン屋さんに立ち寄った。残念ながら、遅い時間だったこともあり、私の好きなベーコンのパンとオリーブのパンはもうなくて、その他のパンもほとんど売れ切れた状態だった。わずかに残っているパンの中から、食べたいタイプのものをトレイに取り、会計を行う。お金を払い終えたときに、パン屋さんのレジの人に「今日は、オリーブのパン、もう、売り切れたんですね」と話しかけたら、「そうなんですよ。おかげさまで、早い時間に完売したんです」と言われる。

「実は、私、ここのオリーブのパンが大好きで、あるときには毎回買ってるんです。あのパンの中に入っているオリーブの実が本当においしくて。あのオリーブの実だけを売ってらっしゃったら、買いたいなあ、といつも思うんですけど、売ってらっしゃったり、しない、です、よねえ」
「それは、ありがとうございます。あのオリーブは、業務用で仕入れているものなんです」
「やはり、そうですか。なんとか個人で購入して、自宅で思う存分食べられないものだろうか、と考えているんですけれど」
「量としては、どれくらいのものをお求めなんですか」
「そうですねえ。ここで売っていらっしゃるあのピクルスの瓶くらいの大きさだとちょうどいいですかねえ。個人購入も可能なメーカーさんの商品だったら、どちらのものかぜひ教えていただけるとうれしいです」
「ちょっとお待ちいただけますか。仕入れの担当者に聞いてみますね」

レジの女性の方は、そう言って奥の方へ入ってゆき、しばらくして「こちらの缶入りのものなんですけど」と、空き缶を持ってきてくださる。そのとき、別のお客様が、レジでの会計を待っていらっしゃったから、「あ、先に、どうぞ」と会計を促す。その間に、そのオリーブの実の空き缶を見ていたら、パン焼き職人のおじさんが奥から出てこられて「一缶六百七十円、で、仕入れてますわ」と教えてくださる。

「そうなんですか。個人でも購入可能ならば、それくらいのお値段なら、買いたいんですけど、どこに行くと買えますか」
「卸売市場の業務用スーパー、ご存知ですか」
「はい。数度、行ったことがあります」
「うちは、あそこで、他のものとまとめて、業者として買ってるんで、六百七十円ですけど、店頭で単品で買われるときには、もう少し高いかもしれないですねえ」
「それは、きっと、そうですね。でも、それでもいいです。では今度、卸売市場の業務用スーパー、行ってみます。念の為に、こちらのオリーブの実の商品名とJANコードを、メモに書いてもいいですか。紙とペン、貸していただけますか」
「はい、いいですよ、と思いましたけど、もしよかったら、来週、うちも、このオリーブの実、また、仕入れで買いに行きますから、そのときに、お客様の分も、一つ余分に一緒に買って帰って、それを六百七十円でお譲りする、という形ではどうですか」
「わあ。いいんですか。それは、すごくうれしいです」
「大きさは、この缶の大きさ(ホールトマトの缶詰の倍の大きさくらい)でいいですかね。もう一種類、一斗缶入りのもあるんですよ。割安なのは、そちらのほうが割安なんです」
「いえいえ。個人消費用なので、小さいのでお願いします」
「じゃ、来週のはじめに仕入れに行きますので、火曜日以降でしたら、いつでもまた、ついでのときにいらしてください。お名前だけ伺って、お取り置きしておきますので」
「ありがとうございます。どうやら、と言います。ど、う、や、ら、です」
「はい。どうやら様、ですね。では、三月一日の火曜日以降で」

ここで、レジの女性の方がパン職人さんに「大きい缶のほうが割安なんやったら、うちで大きい缶のを買って、お客様には、この缶と同じくらいの量をこの缶の仕入れ値くらいで小分けしてさしあげるとか、だめなん?」と訊かれた。パン職人のおじさんは「うちも一斗缶は要らんのんや。この一缶を少しずつ長いことかけて使うからなあ」と言われる。そうか、だから、オリーブパンの中には、ちょびっとしかオリーブが入ってないのか、と納得する。それにしても、顧客に対して仕入れ値情報を開示して、いいのだろうか、パン屋さん。

なにはともあれ、大好きな味のオリーブの実が、もうじき我が家にやってくる。パンと一緒に食べてもよし。きっと単品で食べてもよし。

昔、新婚旅行でトルコに出かけたときに、宿の朝食で、どこでも必ず、オリーブの実が供されて、もちろんパンや他の食材も出てくるのだけれども、そのときには、そのオリーブの実の存在意義がよくわからず、そのおいしさもよくわからず、お皿にのっていれば一応それだけは食べるけれど、それ以上自分から手を出すことはなかった。当時、ヨーロッパからトルコに旅行に来た様子の白人のおばちゃんやおばあちゃんたちが、朝食のオリーブの実を、スプーンに何杯もお皿に取ってぱくぱくとおいしそうに食べていて、そんなにおいしいのだろうか、と、不思議に思っていたけれど、今なら、あのおばちゃんやおばあちゃんたちの気持ちが本当によくわかる。ぱくぱくと食べたいよね。たしかにおいしいよね。

そういうわけで、来週の火曜日には、私のオリーブがやってくるから、できるだけ来週中に、忘れずに、パン屋さんへ取りに(買いに)行くこと。という覚え書きの日記。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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