みそ文

肺と咳と検診と

入荷した商品の補充作業にいそしんでいたら、咳止めコーナーで接客中の新人二年目くんが「どうやら先生、すみません、ちょっとお願いできますか」と声をかけてきた。「はい、なんでしょう」と二年目くんに声をかけると同時に、お客様にはあらためて「いらっしゃいませ」と声をかけ(最初に姿をお見かけしたときにすでに「いらっしゃいませ」のご挨拶はしたけれど)、私が作業中の商品を置いてから咳止めコーナーに移動するまでお待ちくださったことに対して「たいへんお待たせいたしました」とお伝えしてから、話を聞く。

いろんな咳止めを飲んだけれど、ここひと月くらいか、それ以上、ずっと咳が止まらない、咳が止まる薬がほしい、というご相談。新人二年目くんなりに登録販売者として、これだったらよく効くのではないでしょうか、と提案してみても、なかなかお客様の反応がかんばしくなく、ここからどう展開したものか、という状態であったらしい。

お客様に詳しくお話を伺ってみると、咳は時間帯関係なく出て、一度何かのきっかけで出始めると止まらなくなるタイプの咳であることがわかる。

「ずいぶん長引いていらっしゃるご様子ですけれど、病院では診てもらってくださってますか」
「いや、病院には行かん。病院に行っても咳止めの薬を出されるだけやん。それに、絶対、タバコやめなさい、って言われるに決まってるやろ」
「タバコをお吸いですか」
「うん。毎日ね。やめられんのんや」
「そうですか。それは、咳も出やすくなりますねえ」
「そうなんや。自分でもわかってるんや」
「タバコをやめるのは、なかなか難しいですよねえ。ところで、タバコを吸ってらっしゃって、タバコの味はおいしく感じられますか」
「それが、咳が出るようになってからは、おいしくないのよ。だから、二口か三口吸っただけで、消すのよ。もったいないやろ。一箱四百七十円もかけてるのに」
「うわあ、それは、もったいないですねえ。でも、それは、きっと、お客様のお体が、少しタバコを控えなさい、とお知らせをしてくれてるんでしょうねえ」
「そうやろうか、やっぱり。私もなんとなくそんな気はしてるんや」
「それなら、間違いなくそうです。咳が長引くときには、胸の写真をとってもらって確認したほうがいいですし、特にタバコを吸われる方は、ある程度定期的に、肺がんの検診もうけてくださるほうが安心です」
「それは、そうやろうとは思うんや。でも、最近、娘家族と同居するようになってから、前に住んでいたところのかかりつけの病院がちょっと遠くなって、かといって、また新しいところにかかって一から観てもらうのは、面倒くさくて」
「ああ、それは、ご面倒なことですねえ」
「でも、どっちにしても、他のことでずっと出してもらって続けて飲んでる薬もなくなるから、近いうちに、前に住んでたところのかかりつけの先生のところに診てもらいに行くんや。前は、ほんちかく、だったのが、今は車で四十分くらいかかるようになったけど、通えるうちは、あの先生に診てもらいたいんや」
「ああ、それでしたら、ぜひ、そのときに、咳の相談もなさってください。その先生なら、お客様が、そう簡単にタバコをやめられないことも、よくご存知でいらっしゃるんですよね」
「そうなんや。やっぱりそうしたほうがええやろうか」
「はい。ぜひ」
「実は、お店で勧めてくれる、よく効くいう咳止めはあんまり効かんけど、昔から、私の父も私もタバコ吸いなんやけど、龍角散なら、少しラクになるんや。それで、龍角散はいつも家に置いてあるんやけど、龍角散は弱い薬やろ。もっと強い薬にしたほうがいいやろ」
「いえいえ、お客様のお体にとって、龍角散との相性がよいようで、それでラクになられるのであれば、ぜひ、お手持ちの龍角散をお使いください。でも、あまり咳がひどくなってからでは、効きにくくなりますから、こう、咳の始まりがこみ上げてくるかんじ、わかりますかね」
「うん、わかるよ、よくわかるよ」
「では、そのときに、早め早めに、龍角散を口に含んでください。とりあえずそれで、次回の診察を受けて相談なさるまでの間を繋いでください」
「そうねえ。龍角散でもいいんやったら、そうするわ。薬を買いに来たのに、結局買わずに帰って、わるいなあ」
「いえいえ、それは全然お気になさらないでください。それよりも、タバコの味がおいしくない間は」
「わかった。タバコ控えめにすればいいんやね」
「はい。それと次回の診察の時に」
「先生に相談する」
「はい。ぜひそれでよろしくお願いします。せっかく高いお金出して買われたタバコをおいしく吸うためにも」
「そうするわ。おにいちゃん(新人二年目くん)、ごめんな。せっかくいろいろ、薬、勧めてくれたのに、買わんで」
「いえ。龍角散足りなくなったら、そのときには、また買ってください」
「あははは。そうする、そうする、ありがと」

私が「ありがとうございました」とお見送りし、新人二年目くんが「またお越しくださいませ」とお辞儀する。その後、私と新人二年目くんは、入荷商品の補充作業にまた戻る。二年目くんが「先生、ありがとうございました」と私に言うから、「いえいえ。こちらこそ、ありがとうございました」と応える。そして「私が接客すると、こういう、売り逃し、が多めになるんですけどね」と言うと、「全然いいと思います」と、今時の若者らしい言葉遣いで応えてくれる。

「そうですね。売り上げ的には残念でも、お客様にとってご満足いただけるサービス、という意味では、よしということにしますか」
「はい。すごくいいです」
「そうですか。じゃ、すごくよかった、ということにしましょう」

お客様が無理にタバコを吸うことなく、養生と、適切な対応をしてくださったら、なおのことよし。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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