みそ文

僧侶とトナカイ

私の同級生の天竜(てんりゅう)くんの職業は僧侶、浄土真宗のお寺の住職さんだ。天竜くんと私は中学と高校が同じだった。天竜くんと夫は高校が同じで、その後大学は異なるものの天竜くんも夫も京都の大学に進学したという共通の要素があり、高校卒業後も大学卒業後も親しくしている。最近は、夫と私が、広島に帰省したときに、元旦にどうやらの実家から私の実家へ移動する途中で、天竜くん宅を訪問するのが恒例になっている。

夫は年末になると、天竜くんと一緒に飲むための日本酒を入手して、元旦の日に持っていく。天竜くんも天竜くんで夫と一緒に飲もうと思って保存していた日本酒を出してくれるから、二人は飲み比べを愉しみつつ語り合う。私は車を運転するから、おいしそうにたのしそうにお酒を飲む二人を眺めてお茶をいただく。

今年の元旦に天竜くんちに行ってみたら、いつものように「まあまあまあまあ、入って入って、そっちの部屋へ」と案内され、入った部屋には赤子がいた。「わあわあ。赤ちゃんだー。何ヶ月? いや、何ヶ月も経ってないかこの大きさは」と尋ねる私に天竜くんは「生後二週間。四人目。今度こそ、最後」と説明してくれる。

「そうかあ、二週間かあ。それにしてはこの人、落ち着いているというか、って、それよりも、まりもさん(天竜くんの妻)、さっきからずっと動きつづけて、いろんな料理作って出したりいろいろしてくれて、さらに上の三人の子どもたちをだっこしたり、追いかけたり、隙あらば赤ちゃんの上に乗りあげる上の子たちを引っ張りあげたりしてるけど、産後二週間であんなに動いて大丈夫なの?」
「本人が動きようるんじゃけん、大丈夫なんじゃろう。なんかもう、四人目ともなると、たいていのことは、大丈夫大丈夫、生きてればそれでよし、いうかんじになるんじゃ」

まりもさんは少し手の込んだ料理を気軽に作ってくれる人で、これまでごちそうになったいろんなメニューを思い出すだけで、うっとりとした気持ちになる。クワイの素揚げもおいしいし、卵黄の味噌漬けもおいしいし、穴子の白焼きを入れたお雑煮のすまし汁もおいしい。

まりもさんの手料理をごちそうになりつつ、天竜くんと夫はお酒を飲みつつ、傍らにいる生後二週間の赤ちゃんに見とれつつ、あれこれ話をしていたら、天竜くんがまりもさんに「今度から、保育園の役員を受けるときには、気をつけんといけんで」と諭し始めた。天竜くんとまりもさんの二番目の子が現在通う保育園(一番上の子もその保育園には通ったが、上の子はすでに卒園して小学生になっている)では、保護者が持ち回りで役員を請け負う。役員ごとに仕事の内容は決まっていて、この役員さんはこの時期のこの仕事をする、などということはセットとしてほとんど固定されていて、年ごとに変わることはない。天竜くんは「どの役員が何をするかはわかっとることなんじゃけん、できんことはそのときに断っとかんと。その仕事をする時期になってから、急に、できません、いうて、他の人に代わりをお願いします、いうても、頼まれた人も困るじゃろうが」と言い、まりもさんは「そうよねえ。今回は、誰々さんが、ええですよ、しますよ、言うてくれちゃったけんえかったけど、あの役は受けんようにするか、どうしてもあの役のときには、役を受けたときにすぐ、できんことだけは他の人に代わってもらえるようにお願いして、その人の仕事の一部を代わりにしますから、いうような話をしたほうがええね」と応える。

たぶん夫と私が「なんのことかな」というような表情をしていたからなのか、まりもさんが「保育園で季節ごとの催し物があるんですよ」と説明を開始してくれた。その説明によると、今年度、天竜くんとまりもさんが請け負った役員の仕事では「おとうさんがクリスマス会のサンタクロースの扮装をする」ことになっている。しかし、天竜くんは「おとうさん」ではあるけれど、浄土真宗のお寺の住職であり、サンタクロースが所属するであろうと思われるキリスト教文化とは異なる分野で活動する立場だ。天竜くんは公私ともに仏教徒ではあるものの、クリスマスケーキがそこにあればお菓子として食べるし、子どもたちが保育園や小学校でクリスマス会に参加したりケーキを食べたりプレゼント交換したりすることも、節分やひな祭りや鯉のぼりや七夕と同じ感覚で受け入れている。けれども天竜くんは「しかしながら、そうだとしても、わたくしが、サンタクロースの扮装を、するわけにはいかんじゃろう」と言う。

それでも天竜くん夫婦は彼らなりに考えて、保育園の先生に「サンタクロースの扮装は職業上宗教上の理由でどうしてもできませんが、トナカイの扮装なら、なんとかぎりぎりできるかと思います。ソリの鈴の音がするように首に鈴をつけるのも大丈夫ですので、なんとかそれでいけませんでしょうか」と代案を提案し相談してはみたらしい。しかし保育園の先生は「すみませんねえ。園の子どもたちが待っているのは「サンタクロース」であって「トナカイ」ではないんですよ」と申し訳なさそうに困惑なさる。

天竜くんは「そりゃあ、そうじゃわいのう。茶色いトナカイが来てプレゼント配ってくれてものう。そこはやっぱりサンタじゃろう」と言い、まりもさんも「うちがサンタができんのはわかっとることなんじゃけん、今度からは、サンタがセットになってない役を選ぶようにせんにゃあいけんね」と頷く。

そんな話をしたあとで、まりもさんにあらためて「産後二週間で、その軽やかな動きは素晴らしいとは思うけど、ほんとにそんなに動いて大丈夫なんですか」と訊くと、よくぞ聞いてくれました、という顔をして「天竜さんは、何かというと、私に向かって、まりもは産後なんじゃけん、寝とけ寝とけ、いうて言うてんです。じゃけん、私も、ありがたく、じゃあ、と横になって過ごしとっても、すぐに天竜さんが、おお、まりも、布団干しといて、だとか、本堂のあれをこうしといて、だとか、次々用事を言うてきてんです。じゃけん、天竜さんの、寝とけ、を真に受けたらいけんのんですよ」と言っていた。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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