みそ文

雪のお見送り

ここ数日、雪の降りっぷりがかなり本気で、積もりっぷりも豪雪と呼んでさしつかえなかろう、と思うほど。どれくらいかというと、駐車場の車全体が雪ですっぽりと覆われて、車型の雪だるまがいる状態。その雪に埋もれた車を救出して出勤するのに要する時間は最短で三十分。まず車の上に降り積もった雪を下ろしてから、地面に落ちた雪をスコップですくって飛ばして(どこに飛ばすかというと、車の後ろのフェンス周辺)を繰り返す。この作業をすると汗だくになる。

冬将軍様、本気出し過ぎです、雪を降らせるならスキー場中心にしていただけると皆々が喜びますでございます、と交渉を重ねてきたにも関わらず、このありさまなのは、どうしたことかしら、と考えて、あ、そうか、今回の冬将軍様は「初心者マーク」なんだわ、と気づく。雪の量や積もらせ方や降らせる地域の加減が、まだ、あんまり上手にできないひよっこで、きっと今頃、先輩冬将軍様たちから、厳しい指導を受けているのだろう、と思うと、新人冬将軍様に対して少し温かい気持ちが湧いてくるような気がする。

なにはともあれ、そうやって、なんとか無事に自分の車を雪の中から救出して、デコボコに凍結した道路も安全運転で通過して、職場に辿り着く。いつもなら自分でポットにお茶を入れて持っていく時間も、今日は雪かきにあてたから、勤務中水分補給用のペットボトル入りお茶を買い、広島への宅急便の発送を行う。私服のままコートを着たまま、お客様風を装って、レジで荷物の伝票を書いたり、お金を払ったりしていたら、新人二年目くんが私服で登場した。通勤カゴにお皿に入ったお弁当もそのままに、「おはようございます。出勤したばかりなんですが、今、祖母が亡くなったと家族から連絡があったので、今日はこれで帰ります。すみません」と皆に挨拶をする。皆それぞれに「おはようございます、それはお気をつけて、お疲れさまでした」と言って、二年目くんを見送る。そして新人二年目くんは、レジの外にいる私のところにもやってきて、「そういうことなんで、すみません。よろしくお願いします」と言う。

「はい。わかりました。急なことでたいへんですね」
「いえ、そんなに急でもないんです。ここ何ヶ月か、もう、ずっとあぶない、っていうことで、最近はいくら注射を打っても、血圧が上がらないか下がらないかのどっちかで、いつでもおかしくないかんじではあったんです」
「そうだったんですか。二年目さんはまだお若いですけど、おばあさまは、ご高齢でいらっしゃるんですか」
「八十七、か、八十八、って言ってたと思います」
「まあ、それは、ご長寿でいらっしゃったんですね」
「はい。そうなんです。でも、ぼく、普段片道四十分の道のりを、この雪で、一時間半かけて、ようやくお店に来たところなのに、到着するなり、また同じ道を引き返すのは、はああ、なんだかなあ、おばあちゃん、逝くなら逝くで、もう三時間早かったら、出勤前で済んだのに、せめて、もう九時間後の仕事終わった頃にしてくれたら助かったのになあ、って思います」
「こらこら。おばあちゃんの人生にもおばあちゃんの人生で、ご都合があるんですから」
「うう。そうですよね」
「では、雪の中、いろいろたいへんでしょうけれど、しっかりと、おばあさまのお見送りをしてさし上げてきてくださいね」
「はい。ありがとうございます。では、お先に失礼します」

そう言って、青年は、降りしきる雪の中へと消えて行ったのであった。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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