みそ文

新婚ラーメン

昨日の義母の話のつづき。義母と義父が新婚の頃、義父がカブ(原動機付き自転車ではあるが、形状はスクーターよりもオートバイに近い)に乗っての外出から帰宅して、義母に向かって「わしは、ラーメン食うてきたけん、今日は夕飯いらんけん」と言う。義母は、「ええー、ラーメン、いいなあー。私も食べたかったなあ」と思ったけれど、義父と違って、義母はその当時、原付免許も自動車運転免許も持っておらず、自宅には義父が乗るカブ以外の乗り物はなくて、夫婦二人がそろって気ままに遠くに行けるわけではなかった。

「おじいさん(義父のことを孫たちの手前、義母は最近そう呼ぶ。おとうさん、と呼ぶこともある)は、あの頃は若かったけん、どこか行きたい思うたら、カブに乗って、てーっと、三原でも本郷でもどこでも行きようちゃったけんねえ」
「そうは言うても、カブでじゃったら、本郷とか三原は、四十分か一時間近くかかることないですか」
「若かったけん、それくらい平気じゃったんじゃろう、あの頃は」
「はあ」
「でも、私はあの頃、カブも車も乗られんかったし、ラーメンいうたら、お湯をかけて食べるのしかなかったけんねえ」
「お湯をかけるラーメンは、カップラーメンですか? あの頃、もうカップラーメンあったんでしたっけ?」
「いやいや、お湯をかけるラーメンいうても、カップはついてないぶんよ。袋から出して、丼に入れて、お湯をかけて、蓋をすりゃあして、ちいと待ってから食べるぶん」
「あ。わかった。チキンラーメンじゃ」
「そうそう。チキンラーメンよ。あの頃、家で作って食べられるラーメンで、この辺で売っとるのいうたら、それくらいしかなかったんよ。広島のほうに出たときに、ラーメン屋さんのラーメンを食べて、なんとまあおいしいことじゃ、と思うたことはあったけん、おとうさんが食べてきたいうて聞きゃあ、自分も食べたいなあ、思うたんじゃろう。おとうさんはおとうさんで、若い頃は大阪で散髪の修行をしようた人じゃけん、大阪で食べようたようなものが食べとうなることがあったんじゃろう、思うんよ。でも、今となっては、おとうさんも私も、ラーメン自体、そんなに食べたいと思うことがなくなって、あの頃の、あの、ラーメンラーメン思いようたんはなんじゃったんじゃろうか、思うくらいじゃわ」
「体が若いとき、いうのは、ラーメンみたいな、ああいうしっかりした味のものを、体が欲するものなんかもしれんですねえ」

そういえば、もうずいぶん前のことだけど、夫と私と義両親とが一緒に外食する機会があったとき、何が食べたいかと訊くと、義母は「あそこにラーメン屋さんがあるねえ。ラーメンがええわ」と言い、「おいしいねえ、おいしいねえ」とたいそう満足そうにたいらげ、居酒屋のようなお店に行っても、メニューにラーメンがあるのを見つけると、「ラーメン注文して食べてもええじゃろうか」と言っては、「おいしいねえ、おいしいねえ」とラーメンを食べていた。そして義母は、たぶん十年近く前に退職したのだけれども、現役で介護の仕事をしていた頃は、夜勤のときの夜食用にお弁当を持参していて、そのときにもほぼ必ずカップラーメンをサイドメニューとして用意していた。だから私はなんとなく「おかあさんは、ラーメンが好きな人なんだな」と思ってはいたけれど、若い頃の、そんな事情や思いが背景にあってのことだったということは、この冬に初めて知った。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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