みそ文

妻は旅立つ

先日「ピェンロー」という名前の白菜鍋を作った。その日はその透明なダシを使って、最後に雑炊を作って食べることに。食卓の中央で加熱する鍋のお米がちょうどよくなったかな、というあたりで、夫が卵の用意をする。卵を割り入れて箸でかき混ぜるには、少し小さいのではないかしら、と思う器に卵を割り入れようとしていたから、「どうやらくん。卵を混ぜるんだったら、もう一回り大きい器がいいと思うよ。取ってこようか」と申し出る。ところが夫は、「いや、いい。この器でいい。卵をこの中で混ぜるつもりはないから」と言う。そうなんだ。卵の殻が入らないように、いったん小鉢に入れるだけで、卵自体はそのまま鍋に投入して、雑炊のご飯とともに軽く撹拌する計画なのね、と、納得してじっとする。

夫が、小鉢に卵をぱかんと割入れる。そして、卵の殻が入っていないかどうかを肉眼でチェックしたのちに、「ちょっとだけ黄身を割っておこうかな」と言って、箸で黄身を半分に割る。それから、今度は黙って、半分になった黄身ををさらに半分にして、それをさらにまた半分にして、そうしてから、かっしかっし、と、小鉢の中で卵を混ぜ始める。しっかり撹拌するには難しい、その小さな小鉢の中で、十回、二十回、三十回、四十回と、卵の撹拌が続く。

「どうやらくん。卵を混ぜるつもりはない人にしては、ずいぶんたくさん混ぜてない?」
「最初は混ぜるつもりはなかったけど、混ぜてみたら、けっこう混ぜられるし、ちょっと小さくて難しいけど、やっぱり、混ぜてから入れたほうがおいしいかなあ、と思ったんよ。いいじゃん。卵混ぜるくらい、好きにさせてくれたって」
「卵を混ぜるのはいいんよ。ただ、混ぜるんじゃったら、混ぜやすい容器を使ったほうがいいんじゃないかなあ、と思って提案したのを、混ぜる気はない、と却下したわりには、混ぜるなあ、と思って」
「気が変わることだって、あるじゃん。気が変わったんよ」
「どうやらくん、よく、気が変わるよね。特に、わたしが、こうしたほうがいいんじゃないかな、って言ったことには、とりあえず、いや、って、いったん、否定しておいてから、あとでやっぱりそうすることにする、っていうパターン、多いよねえ」
「そんなことないって」
「あるある、あるよー。よくあるよー」

夫の中の「とりあえず妻の言うことには逆らいたい小人(こびと)」が出没しようにも出没できないような、活躍しようにも活躍できないような、そんな言い回しを開発するべく、言い回し模索の旅に、妻は旅立つのであった。完。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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