みそ文

ご飯の隠れ蓑

健康診断を受けて帰ってきて、手を洗ってうがいをしたら、すぐに熱い紅茶を入れて、それに豆乳を注ぐ。ぐびりぐびぐびこくこくと飲んで、ほう、ふう、と落ち着く。それから、帰りに買ってきたパンを、はむり、ほむりと、食べる。ああ、おいしかった、ごちそうさまでした、と、食器を流し台に運んでから、食卓の上にご飯があることに気づく。小さめのプラスチックケースにふわっと山盛りにつがれたご飯に、蓋もラップもせず、そのまま。

このプラスチックケースは、夫が会社のお昼ご飯用にご飯を持って行くケースだから、本当ならば、冷ましたご飯に蓋をして、バンダナで包んで、持って出勤するつもりだったのだろうな。ところが、ご飯に蓋をするのも、持って行くのも忘れて、それがここに残っている、ということなのだろう。わたしも健康診断に出発する前にも、健康診断から帰宅してからも、何度も食卓を見ているのに、このご飯の存在には全然気づいていなかったから、きっと、何者かが「ご飯隠れ蓑の術」を施していたのだろうと思う。

夫は、毎晩、翌日の自分の職場でのお昼ご飯用ご飯を炊くために、お米半合を洗って炊飯器にセットする。タイマーは朝六時半に炊きあがる設定。わたしも翌日はパンではなくて、お餅でもなくて、うどんでもなくて、ご飯が食べたいな、と思う時には、「わたしのぶんも一緒に炊いてください」とお願いすると、一緒に炊いてもらえる。けれど、ときどき「了解、わかったー」の返事だけで、実際には炊かれていないことがある。翌日夫が出勤したのち、わたしが、さあ、ご飯食べるぞー、と炊飯器の前に、しゃもじと茶碗を持って立ったのに、炊飯器の中がからっぽで、ひとしきりその場で「るーるーるるるー」と残念な気持ちを発露するときのメロディを歌ったことも何度かある。そんなふうにたった今お願いしたこともその場で忘れる夫には、やはり、わたしと同じように、立派な忘れん坊妖怪がとりついていると思う。何度かそういうことがあったから、最近は、「わたしのご飯も一緒に炊いてください」とお願いして、夫が「わかったー」と言って作業を始めても、そのあとでまた「わたしのぶんのお米も足してくれましたか」と確認する。すると夫は「うん。入れたよ」と言うこともあれば、「おお。あぶない、あぶない。また忘れとった」と言うこともある。そうやって、声をかけることで思い出してもらえた時には、お互いに「お手柄、お手柄」と誉めたたえ合う。

今日のように、ご飯を持って行き忘れたときに、夫はお昼ご飯をどうしているのか、というと、会社でお昼に販売される業者さんのお弁当を買う時に「おかず」だけでなく「ごはん」も買う。普段は「おかず」だけを購入して、「ごはん」は持参のものを食べる。なぜなら、業者さんの「ごはん」は量が夫には多すぎて食べきれないから。普段は、そうして、お弁当屋さんの「おかず」と持参の「ごはん」を食べる夫だけれども、気が向くと、お弁当ではなく、社員食堂で供される「うどん」や「そば」を食べることもある。

そういうわけで、今、食卓の上にあるご飯には、とりあえず蓋をした。今夜の夕食は、これで雑炊を作って、卵たっぷりでとじて、すりごまをたくさんかけて、はふはふほふほふといただこう。たのしみ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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