みそ文

タイヤに踊る

休日に、ぐっすりとゆっくりとたっぷりとした眠りを終えて、体の中の疲労物質をすべて代謝したような、すっきりとした目覚めを迎える。眠りの世界を自由気ままに飛び回っていた自分の魂のようなものが自分の体の中にぴったりとおさまって、活動の世界での体の操縦の準備を整えたような感覚。

この時期のこの地方にしては、めずらしくおひさまが輝いていて、温かな風がおだやかに吹くお天気。ああ、これは、タイヤ交換日和だな、と、休日とお天気のタイミングのよさににんまりする。近所の人たちがタイヤ交換をしている気配とその工具の音が聞こえる。よし、タイヤ交換がんばるぞ。

「おはようございます。いっぱい眠ってすっきりしたー」と、居間でネット囲碁中の夫に声をかけると、「おはよう。よかったね」という返事。いつものように、たっぷりの紅茶にたっぷりの豆乳を入れて、計量カップのようなマグカップで、ぐびりぐびりと、飲む。この豆乳紅茶が体に入ると、体がより本格的に活動開始を自覚する。それから、食前のサプリメントを豆乳紅茶でこくこくと飲む。豆乳紅茶と食前のサプリ、これをパターン化するようになってから、私の体調はかなりよい。若かったころ、十代以前よりも、十代二十代三十代の頃よりも、ずっと体調が軽やかでおだやか。若い頃にはそれなりにこなしていたつもりの「無理」は利かなくなったし、興奮と熱情を伴う躍動感の中にはいないけれども、「無理」をしたい気分もないし、若いときはよかったのに年を取って残念だなあという思いはさらに全くおそらくひとつもない。むしろ、神さまお願いですから、私をもう二度と若いときには戻さないでください、ああいういろいろはもう十分にごちそうさまです、若気の至りもお腹いっぱいです、あとはもうひたすらに、この世を修了するそのときまでを、そのときに向かって、しあわせな気分と上機嫌のピークを、昨日よりも今日、今日よりも明日、明日よりも明後日と、吊り上げてゆく所存にございます、不本意なことやかなしいことは放っておいてもいろいろとありはするものですが、それで自分のしあわせや上機嫌が損なわれることはありません、それはそれ、これはこれですゆえ、右肩上がりのピークについては、私にお任せくださいませ、身体の不調に対するメンテナンスや予防や対策を上手に行う知恵と工夫に恵まれれば、年齢そのものを重ねることは、どんとこい、でございますので、そういうことでなにとぞよろしゅう、と、心をこめて念を天に飛ばす。

わたしがサプリメントを飲み終えて、林檎をむきながら、林檎、酒まんじゅう、ヨーグルト、というメニューの食事をしようと準備していたら、夫が「タイヤ交換、済ませたからね。みそきちが寝てる間にしておいたよ」と言う。今日、夫と連係プレイで予定していたタイヤ交換。毎回夫と二人で、重たいタイヤを持ち上げて車に設置するところは夫メインで、こまごましたものや取り外したタイヤを転がして倉庫に片づける作業は私メインで、行う。雪が降る前と、雪が立ち去ったあとの時期に、毎年必ずする作業。正直なところ、「やったあ。またタイヤ交換ができるだなんて、うれしいっ」とは全く思わなくて、雪道運転のことを考慮して、淡々と、粛々と、行う種類の作業だ。だからといって、タイヤ交換は気が重いかというと、そうでもない、というか、そんなことに気の重さをのせるのはもったいない、というか、雪国のどんより気候で放っておいても気が滅入るのに、そんなことで気の重さを自分で追加してどうする、なのだ。自分の気の重さは、もっと別の、本当にどうしようもなく気が重くあるべきことのときに使う貴重で希少なものだから、そう気易く使うわけにはいかない。

けれども、自分の休日に、ぐっすり眠って、起きてみたら、「タイヤ交換できてるよ」と自分以外の誰かが言ってくれる。それがこんなにうれしいことだとは、これまでまったく知らなくて、どうやらくん、ありがとう、夢みたい、ほんとうに夢みたい、と何度も何度も何度も言う。夫は「まあ、みそきち、くうくう寝てたしな。ある意味夢のうちなんじゃないかな」とこともなげに言う。「ああもう、どうやらくん、今日は、どうやらくんの何か食べたい好きなもの、なんでも、私ができる範囲なら、なんでも作ってあげるから、言ってみて言ってみて」と、こころも体も小躍りする。しあわせと上機嫌のピークが、いっきに高い位置に跳ね上がり、その地点で踊り続ける。

いい日曜日だ。万歳。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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