みそ文

蜜柑狩りの洗脳

ある日職場で同僚が、「すこやか堂(私たちの職場)のキャンペーンに応募したら最新型のスチームオーブンレンジが当たったんです」と言う。たしかに、少し前に、そんな景品が当たるかもという応募用紙が売り場にぶら下がっていた時期があった。それにこまめに応募する人もいるのだなあ、応募すれば当たることもあるのだなあ、と感心しながら話を聞く。同僚の説明によれば、スーパーで買った冷えたお惣菜も、このスチームオーブンレンジに入れてスイッチオンしてしばらくすると、できたて以上のおいしさになって、家族全員で感動中なのだそうだ。同僚がそれまで使っていたオーブンレンジは、親戚の家に異動して現役活躍続行とのこと。

その数日後、また同じ同僚が、どこかのスーパーのキャンペーンはがきを出してみたところ、「みかん狩りツアー」無料ご招待券が当たった、と言う。バスに乗って、朝出発して、現地でお昼ご飯を食べて、ちょっと観光して、みかん農園でみかんをもいで、お持ち帰り袋にたっぷり詰め込んで帰る、というもの。けれど、ご招待は一名様だけで、同行者参加の場合、その同行者は一人一万円かかるとのこと。

「最初は、一人で行ってこいや、いうて言ってた主人なんですけど、そういえば、うち、スチームオーブンレンジも当たったことやし、一万円くらいなら出して、二人で一緒に参加しようか、って言ってくれるんで、二人で行ってこようかと思うんです。一人五千円でこのツアー内容なら、ま、いいかな、と思って」
「それは、よかったですね。たのしんできてください」

そう話してから、何日かして、その同僚が、「実は、あのツアー、やめました」と言う。

「蜜柑狩りツアーのことですよね。何か事情でも?」
「それがですね、あれから、うちの主人が、何気なく、ネットを見るついでに、そのツアーとツアー会社について調べてみたら、どうもある種の悪徳ツアーというんでしょうか。ネットには、もっと具体的なスケジュールが書いてあって、現地到着後最初の九十分は、毛皮のお店に拘束されて商品の説明を聞き続けることになってたんです」
「うわあ。それは。面白そうですねえ」
「それで、夫が、自分はそんなのに興味ないから、九十分もそんな時間があるなら、やっぱり行かないって。わたし一人で行ってこい、って言うんです」
「あらら。まあ、一人でツアーバスに参加するのも、それはそれでけっこう楽しいこともあるんですけどねえ」
「でもですね。私は、ダメなんです。昔、お店の店員さんに、よかったら羽折ってみてください、って声をかけられて、よくお似合いですよ、って言われたコート、別に欲しいわけじゃないのに、十三万円も出して、月々一万三千円ちょっとのローンを組んだんですけど、買ってしまったんです。だから、密室で商品説明を聞き続けたりするのは、危ないと思うんです」
「買っちゃうんですか?」
「いえ、当時は正社員でそれなりに収入があったから、っていうのもあるし、今は、その時と違って、収入少ないから、お金がない、っていうことが、歯止めになってくれるとは思うんですけど」
「低額のローン提案があったりすると」
「はい。サインしちゃいそうなんですよ」
「でも、それが、自分の欲しいものなら、それはそれでもいいような」
「いえ、ダメです。十三万円のコートもそうでしたけど、欲しいから買う、というよりも、お店の人に断るのが悪いから買う、ってかんじですもん。ダメです」
「そうか。それはよくないですねえ。ああ、そういえば、なんですけど、昔、宝石を何十万円かで買わされた話をしてくれた人がいたことを思い出しました。宝石商のおねえさんに呼び出されて、喫茶店のボックス席みたいなところで、延々と、その宝石がどれほど素晴らしいかを聞かされて、そこから帰りたいあまり、購入のサインをしてしまう、とか、なんかそんな話だったような」
「ああ、わかります。私、それと同じかんじの営業方法ので、補正下着、買ったことありますもん。子どもを産んだ後、どうにかしなきゃ、と思ってたタイミングだったんですよねえ。補正下着セット十二万円でした」
「うわわわわ。えーと、美味しいミカンは、それはそれで買って食べてもいいですしね。ご招待されたツアーに、休日一日つぶして無理に参加しなくても、ですね」
「はい。だから、やめることにしたんです。夫と二人で一万円出して蜜柑狩りツアーに行くつもりだったその一万円が浮いたから、代わりに、家族で、焼き肉屋さんに食事に行くことになりました」
「おお、それは、よかったです。お子さんたちも喜ばれるでしょう」
「はい。でも、その焼肉も、スチームオーブンレンジが当たって、蜜柑狩り招待ツアーが当たって、行こうと思ったけどやめて、っていう成り行きがあって、出そうと思っていたお金が浮いた感があればこそだなー、と思って、まあ、よかったなあ、と」
「ほんと、よかったです。怪しい毛皮説明会に参加することなく、安全に、蜜柑を買って食べる冬、焼肉もおいしいね、めでたしめでたし、ですね」

タダで当たるツアーは要注意なのかも、と、夫に話すと、夫は「それくらい、ふつうちゃう? タダで招待したぶんをどこで回収するか、考えたら、そういうことになるやろう」と言う。ほうほう。なるほどなあ。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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